#060 フラーラ先輩、とサトル君、〈生徒会〉参加!
「―――というわけなのですが……」
「なるほど。事情はよく分かりました。ハンナさん、ありがとうございます」
場所は〈生徒会室〉。
フラーラ先輩とサトルさんと一緒にダンジョンから出て、そのままここに来た形です。
中で私の説明を聞いたチエ先輩からお礼を受け取ります。
「久しぶりね、フラフラのフラーちゃん」
「その名で呼ぶのはやめるのじゃ!」
チエ先輩の発言にそっぽ向いてフラーラ先輩が口を尖らせました。
なんでしょう今のネーム。
フラーちゃん? すごくしっくりきたことは内緒にしておきましょう。
ちなみに今のフラーラ先輩は〈スッキリン〉を複数使って体中の汚れを落としに落としきり、くすんだ金髪もすごくきれいになっています。
装備は緑茶色の割烹着風の衣装に白のエプロン。そしてエプロンの節々に針を刺すミニクッションが着けられています。ぬいぐるみ職人って感じの装備ですね。
髪は長い間放置されていたようで、何もせず後ろに流すだけのロングヘアーでパッツン前髪でややボサボサ。あとで整えないとです。
チエ先輩とフラーラ先輩は仲が良いようですぐに前向きな話になりました。
「〈生徒会〉が大変なのじゃ?」
「ハンナさんのおかげでだいぶ助かっているのだけどね、やっぱりあと1人、人手がいると助かるのよ」
そう言ってチエ先輩は部屋の隅に目配せすると、フラーラ先輩がその視線を追い、そこで見つけた者にビックリした声を上げました。
「なんじゃ、オバケのローもいるのじゃ! ビックリしたのじゃ、本当にオバケかと思ったのじゃ」
「誰がオバケか。相変わらずこの闇の衣装の良さが分からないのかい?」
そのデスク、副隊長のベルウィン先輩が座っていた場所にいたのは、あの夜の校舎で見た漆黒の闇スタイルのローダ先輩でした。
せ、〈生徒会〉に務めるときもその格好なんですね。
オバケ扱いされたローダがプンプンという腰に手を当てた姿で抗議します。
「誰がわかるか。そんなものよりうちのぬいぐるみの方が100倍、いや万倍も良いわ!」
「なにおう!」
「まあまあ、あなたたちがしゃべると話が脱線するのだから抑えなさい」
言葉の応酬を始めた2人をチエ先輩がいさめました。
私がポカンとしていると後ろから来たミーア先輩が説明してくれます。
「初めて見ると驚くよね。なんかあの3人って昔は同じギルドを立ち上げて、さらに〈生徒会〉とも兼任してたんだって。すっごく優秀な2期前の一年生ホープたちね。今は袂を分かれてそれぞれの道で腕を振るっているらしいわよ」
「ほへぇ……」
そこにドラマがありました。
詳しく聞いた話によると、彼女たちが一年生の時、生産職でトップの7人のホープたちがいたのだそうです。
その7人は集まり、最強の生産ギルドを作ると言ってとあるギルドを立ち上げたとのことでした。
すっごくロマンを感じます。まるでゼフィルス君みたいです。
そしてそのうちの4人は〈生徒会〉を兼任して、ムファサ隊長、チエ先輩、ローダ先輩、フラーラ先輩がそのメンバーだったみたいです。すごいです。
どおりで仲が良いはずです。
「フラーラ提案があるわ」
「提案とな?」
「あなたが請け負っている注文。処理能力を超えたと判断して学園に支援を求めるのよ。そうすれば注文者への発送は遅れても許されるわ。あなたはまだ学生、学業に支障が出ている故の処置よ」
「そんなことが可能なのですか? あ、話に割り込んですみません」
「構わないわ。あなたはフラーラの弟さんだったわね。一年生ならまだ知らなくて当然の制度だけど、学生には時にフラーラのように学業に支障をきたす範囲で失敗する学生が一定数出るのよ」
チエ先輩の発言にみんなが頷きます。
「そんなとき学園側が間に入ってトラブルを解決してくれる制度があるの。学生のうちの失敗なら取り返しが付くように計らっているわけね。当然何度もこの制度を使っていると学園からの評価は落っこちるのだけど、フラーラはまだ初めてだったはずだから問題なく学園からの助けを得られると思うわ」
「ああ。確か軽く聞いたことあるかもです……」
サトルさんが頷くのに私も同意します。
私はゼフィルス君から聞きました。学生のうちは学園が助けてくれるからいっぱい失敗するんだぞって言われた気がします。
「実際フラーラは業務がパンクし、ダンジョン週間が終わっても授業に出られないほどになっている。これを報告すれば学園側はすぐに助けてくれるわ」
「うむむ。しかし、そんなことをして大丈夫かの? お客さんから非難を受けたりせんかのう」
「されないわよ。というか学園がさせないわ。独り立ちしているならともかくフラーラはまだ未成年で学生なのだから。非難なんかしたらその人がしょっ引かれるわね。あとは学園側と無理のない生産体制を相談すれば良いわ」
「そうか。うむ、助かるぞチエ」
「むしろ何で〈生徒会〉メンバーであり、最上級生のフラーラが知らないのかしらと聞きたいのだけど?」
「…………」
チエ先輩の視線を、フラーラ先輩はそっと目をそらして避けました。
フラーラ先輩は、ぬいぐるみ作りに情熱をかけすぎて、その他が大変抜けているのだと、サトルさんがこっそり教えてくれました。
「その代わり空いた時間は〈生徒会〉に顔を出して。新しい〈生徒会見習い〉が育つまでの間で良いから」
「時間を融通したところでその時間を使わせてとか鬼なのじゃチエ」
どうやらチエ先輩の視線から逃げられなかった模様です。
その後、色々話し合ったようですが、結局はフラーラ先輩は生産作業の合間を縫って〈生徒会〉に参加してくれることになりました。
でも、「やっぱり〈生徒会〉のこの仕事量と兼業は無理なのじゃー! 弟よ助けるのじゃー」とフラーラ先輩はサトル君に泣きつき、いつの間にかサトル君が〈生徒会見習い〉として〈生徒会〉に参加してくれることになったのでした。
でも意外でした。【ハードワーカー】の能力はかなり優秀で、事務能力が私たちを軽く凌駕していたのです。
「これはかなり良い拾い物だったわね」
とチエ先輩が言っていたのが印象的でした。
こうして〈生徒会〉業務は何とか軌道修正できたのでした。




