#059 フラーラ先輩の悩み。でもまず地上に戻ります。
「理由はわかったのじゃ。まさか〈生徒会〉がそんなことになっておったとは」
椅子に座り、腕を組んだフラーラ先輩が独特な口調で難しい顔をしていました。
あれから説明のため、私たちはフラーラ先輩のテントにお邪魔することになりました。
フラーラ先輩のテントはものすごく改造されていて『空間拡張LV10』の強力なアイテムです。
外から見た感じでは迷彩柄の1人用テントでしたが中に入ると数十倍の広さで、居住部屋と工房までありました。
そして工房を覗きに行ったルルちゃんは、そのまま帰ってきません。
「ふおおぉぉぉ! す、すごいのです! とても、とても天国なのです!」
そう叫んでいるルルちゃんは今、ぬいぐるみたちに囲まれています。
数百はあろうかというぬいぐるみが部屋にはあって、もうどれから愛でて良いのか分からなくなったルルちゃんは、とりあえずあっち行ったりこっち行ったりとウロウロ歩き回り始めました。
私も後であっちに参加しましょう。
「どれもこれも糸の一本にも手を抜かない完璧な仕上がりなのです! むしろ縫い目が見つからないぬいぐるみさんもあります!」
「ふふ、そんなに褒めるでない。まあ当然のことではあるがな。この〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉に掛かれば造作もないことよ」
二つ名〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉と言えば、学園のみならず、すでに多くの企業や世間からも注目されている凄腕の名職人です。
職業は【ぬいぐるみ職人】。
その卓越したぬいぐるみ作製技能は凄まじく、非常に可愛いぬいぐるみを作製することで世の女性たちの心を鷲掴みにして離しません。
そのおかげで先輩にはファンが多く、作製されたぬいぐるみには高値とプレミアが付いていると聞きます。
一般には出回らず、先輩が在籍しているこの学園ですら欲しくてもそう簡単には手に入りません。量産はしておらず、1点物が多いからだと聞きます。
そんな大人気なぬいぐるみですが〈エデン〉は一つだけ所持しています。
その名は〈特大モチッコモチモチぬいぐるみ〉、通称〈モチちゃん〉です。
リカさんがフラーラ先輩のファンで、運よくとある場所に入荷した直後の情報を入手しゲットしたらしいですね。すごいです。
(実際にはお金が足りなかったのでゼフィルスに出してもらって購入したのだが、リカの名誉のためにその部分は伏せられている)
そんな高名な方だとは知らずに来てしまった私の胸は、ちょっとキュっしています。
ミーア先輩教えてよ~。いえ、名前を聞いてピンと来なかった私も悪かったのですが。
これは、さっさと用をこなすに限ります。
「あのそれで、〈生徒会〉への復帰はどうでしょうか?」
「俺からも頼むぜ姉。ハンナ様とルルさんのお願いを聞いてあげてくれよ」
「弟よ……。姉は弟の性癖には口を出すつもりは無いが、捕まることはするなよ?」
「何の話だよ! それに同い年だって!」
「冗談はこれくらいにして、じゃ。ハンナ後輩の言うことはわかったのじゃ。しかし、もう少しだけ待ってほしいのじゃ」
弟を茶化していたフラーラ先輩が急に真面目な顔を作ったかと思うと話し出しました。
「こちらの都合で悪いのじゃが、現在注文分が凄まじくての、一通り片付かねば参加は難しいのじゃ」
それは、私たち生産職について大事な話でした。
大事な顧客たちが注文品を待っている。しかも凄まじい注文数なのだと言われれば、〈生徒会〉も「無理してでも参加してくれ」とは強く言えません。
それに、その話は注文分の商品が完成すれば〈生徒会〉に復帰できると言っているようなものです。フラーラ先輩は現状を知らなかったみたいですし、とりあえずは成果が上がったと考えていいと思います。後はチエ先輩と話し合ってもらいましょう。
……そう思ったのは、その注文数を聞くまででした。
「残りの注文数が1310件、すべてがオーダーメイドじゃ。うちはぬいぐるみについて手は抜かん。故に1日で作製できる数は20がいいところなのじゃ」
「…………へ?」
たくさんの数字が出てきて、少しほおけました。
そんな私にサトルさんが説明役になってくれました。
「ハンナ様、俺から詳しく説明しますと。卒業していった最上級生が姉のぬいぐるみがいかに素晴らしい物かを世に拡散。口コミで話が広まって大ブレイク。そこまでは良かったんですが、この姉は注文を断るという言葉を知らなくて、受けに受けてついにパンクし、ここに逃げ込んで今に至る感じなんです」
それは衝撃的な告白でした。
「うちも悪いとは思っておるのじゃ。今月分の納品はすでに済ませた。今は名目上ぬいぐるみ作りに注力するためと申請し、素材が多くあり、地上とそれほど距離もないここを選択して籠もってみたが、ダンジョン週間が終わってもまだ2割しか片付かなかったのじゃ」
「なあ姉よ、ダンジョン週間も終わっているし地上に戻るべきじゃないか? 追加の注文は俺が全部断るからさ。今受けているやつだけは、どうにかできないかも含めて〈生徒会〉に相談してみようぜ?」
「う、む。しかし……」
「何とか折り合いをつけられるよう、俺も協力するから、な」
「……分かったのじゃ」
サトルさんの説得もあり、フラーラ先輩は何とか頷いたのでした。
後で知ったのですが、サトルさんの【ハードワーカー】は秘書的な立場で、仕事をサポートするのに適した職業なのだとか。
その能力を使ってフラーラ先輩をサポートする気のようです。
とりあえずフラーラ先輩にはダンジョンから地上へ戻ってもらえることにはなりましたけど、〈生徒会〉への参加は、どうなるのでしょうか。




