#058 依頼完了。フラーラ先輩はじめまして。
「にゃーん、にゃーん」
「反応が強くなって来ました。近くにいますよ」
「いつでもいけるのです!」
「本当に、こんな方法で……。こんなアイテムがあるなんて驚きです……」
今私は探し物を見つけるためのアイテム〈猫ジング〉を使っています。
白猫がお座りして片腕を前に出すポーズをしているアイテムで、腕の指す方向に目的のアイテムがあったら「にゃーん」と鳴いて教えてくれます。目的のアイテムに近づいたらもっとたくさん鳴いて教えてくれる、可愛いと便利さが合わさった最強アイテムです。
ちなみに〈金箱〉産です。当然のレア度ですね。
サトルさんが目を点にして〈猫ジング〉を見つめていました。
「にゃんにゃんにゃんにゃん!!」
〈猫ジング〉の反応が強くなってきました。この近くに居ます。
あ、発見しました! 単体の〈ウルフ〉です! 反応はあの〈ウルフ〉からでした!
「あ、あれです! あの〈ウルフ〉です! ルルちゃん!」
「まっかせるのです! とうー!」
「ウォン!?」
ルルちゃんが飛び掛りました。
すぐにこっちに気が付き、反撃しようとした〈ウルフ〉でしたが、ルルちゃんは強いんですよ?
「正義はルルに有りー『ジャスティスヒーローソード』!」
ルルちゃんが右手の剣を高らかに掲げると、剣の先っちょから徐々に刀身が青白い光に包まれていきます。光がそのままルルちゃんが持つ部分まで全て覆うと、満を持してルルちゃんは剣をダイナミックに振り下ろしました。
――スドン!
そんな衝撃音と共にただの〈ウルフ〉が断末魔の悲鳴も上げられずに光に消えました。
凄まじい威力です。
果たして食べられてしまったペンダントが無事なのか、とても気になります。
「あ、ドロップしたのです!」
「おおおお!! ありがとうハンナ様! ルル様!」
どうやら無事な姿でペンダントは生還を果たせたみたいです。
ルルちゃん、すごく全力で攻撃したのでヒヤッとしました。
サトルさんがペンダントを回収すると無事を確かめて装着します。
すると、目の前にいるのに、なんだか存在感が希薄になった気がしました。
「にゅ! 存在感が薄くなったのです!」
「その言い方はやめて!? 誤解されちゃいますから!」
慌ててツッコミを入れたサトルさんが〈無い隙のペンダント〉を外しました。どうやら破損はしていないと証明できたみたいです。
あ、ちなみにサトルさんは自前のHP復活用アイテム〈復活の秘薬〉と〈ポーション〉でHPを回復して復活済みです。
でも〈復活の秘薬〉は非常に高価です。今の時期、一年生ではとてもではありませんが手が出ない物のはずです、サトルさんは私たちと同じ一年生のはずですが、誰からかのもらい物でしょうか?
その答えは意外に早くわかることになります。
「じゃあ、約束通り、姉の下へ案内するよ」
「よろしくなのです」
「よろしくお願いします」
やっとフラーラ先輩に会えます。
サトルさんの案内に私とルルちゃんは付いて行き、道中の敵は全てルルちゃんが倒していきます。
聞いたところ、サトルさんが就いている【ハードワーカー】は戦闘職ではないそうで、戦闘力は皆無なんだそうです。
ならどうして1人でダンジョンにいたのでしょう? ということになりますが、むしろ1人なら〈無い隙のペンダント〉の効力で〈ウルフ〉たちに見つからないのでかえって安全なのだといいます。
残念なのは、その大事なペンダントを投げつけてしまった点ですね。
と少しお話をしていたら目的地に着いたようです。
そこには小さな木々に隠れるようにして迷彩色のテントが張られていたのです。
「着きましたよ! 姉ー、今帰ったぁ――ぶべらぁ!?」
「おっそいんじゃー! 何道草くっとるんじゃー、早く帰ってくるんじゃー」
「姉ぇ。鳩尾は大事な急所だからやめてとあれほど……、ガクッ」
サトルさんがテントの入口をぺらっと捲った直後でした。
ちょっとくすんだ金髪をした背の小さな女子学生さんがサトルさんに襲い掛かったのです。
いえ、違いました抱きついたのでした。膝が、ダイナミックに鳩尾に直撃したのを除けば仲のいい姉弟です。
「あわ! 弟が死んだのじゃ!? ヤバイ、〈復活の秘薬〉はどこじゃ!?」
「それなら道中に〈ウルフ〉にやられたときに使っていましたよ」
「そんな! あれが最後の一本じゃったのに! 許せ弟、とりあえず弟が上から持ってきたアイテムだけは回収するのじゃ」
「鬼か姉! 俺はまだ生きてるよ!」
「おおう、生きていたのじゃ! よかったよかった、誠によかったのじゃー。それじゃ早速上から持ってきた物を出すのじゃ」
「まったくよかったとは思ってないな姉!」
「大の男が、ひ弱な女の膝で死ぬわけないじゃろ」
えっと、思わず途中で質問に答えてしまいましたが、なんだか濃い人だなと思いました。
ルルちゃんもビックリしてお目目を丸くしています。
「ん? そういえば誰じゃ?」
「なんか姉に用があるみたいだから連れて来た」
「そうなのか。あ、思い出したのじゃ! 弟、お前〈復活の秘薬〉を使ったって聞いたのじゃ! あれは高いから使うなって言っておいたはずなのじゃ! お前が使うなんて勿体無いのじゃ!」
「ひでぇ!? いやいや、途中でHP全損したんだから〈救難報告〉を上げて地上に戻るか〈復活の秘薬〉を使うかしかなかったんだって、使わなかったら姉だって困るだろ!?」
「そもそも使わないようにするために〈無い隙のペンダント〉を渡しておいたはずなのじゃ! 〈ウルフ〉ごときでは『インビジブル』のLV8は見つからん! 弟が何かやらかしたに違いないのじゃ! なぜ〈ウルフ〉に襲われたのじゃ、言え?」
「…………」
「黙秘してんじゃないのじゃー!」
どうしましょう。一応紹介されたはずなのに、また戻ってしまいました。なんだか話が終わりそうにありません。
私はどうしようか迷いましたが、話に割って入ることにしました。
「あのお話中にすみません。フラーラ先輩でよろしかったでしょうか?」
「ぬ? いかにも私がフラーラじゃ。そういえばお主は誰じゃ?」
「あ、はじめまして。私は〈生徒会見習い〉のハンナ、1年生です」
「ルルはルルなのです! 1年生なのです! はじめましてなのです!」
「ほう。はじめまして。改めて私の名はフラーラ、3年生じゃ。――しかし〈生徒会〉か。すると、〈生徒会〉の依頼か何かじゃ?」
「はい。そのとおりです。今〈生徒会〉は人数が減っていて、とても十分に運営できる状態ではないのです。どうか〈生徒会〉メンバーのフラーラ先輩には〈生徒会〉に復帰してほしいのです」
何とかこちらの用件を伝えることに成功し、フラーラ先輩の答えを待ちます。
しかし、一向に答えが返ってこないので不思議に思い始めたときでした。フラーラ先輩が口を開きました。
「…………んん? 手が足りないということなのじゃ? なんでそんなことになっているのじゃ?」
どうやらフラーラ先輩は、地上の事柄にとても鈍いみたいでした。




