#056 ウルフに襲われていた男子へ、武士の情けです。
「えーい――『キュートアイ』!」
「「「オンッ!?」」」
ルルちゃんが相手の素早さを下げるスキルをキャピーンと使うと、襲ってきた〈ウルフ〉たちは途端に動きが遅くなりました。
「今なのです! えーい!」
「“錬金砲”――発射!」
ルルちゃんが1体に向かって通常攻撃を仕掛けると、私は〈筒砲:エナジー〉と〈筒砲:エアロ〉の二つの錬金砲で2体の〈ウルフ〉を狙い打ちました。
「「「ワヒュン――!」」」
〈ウルフ〉たちに攻撃が直撃し、無念~と言わんばかりの声を残してエフェクトを出してに消えていきました。
連携がやっかいとはいえ初級中位ダンジョンのモンスター、私とルルちゃんの敵ではありませんね。
ゼフィルス君が言っていたとおり、「〈ウルフ〉には素早さデバフが効果的」です。
ルルちゃんはデバフアタッカーなので〈ウルフ〉との相性は抜群です!
「こっちは終わったのです!」
「こっちも終わったよー」
ルルちゃんがドロップを手にやって来たので私も筒砲を〈空間収納鞄〉に仕舞ってルルちゃんと勝利のハイタッチです。
ルルちゃんの手がちっちゃくて本当に可愛いです。これで剣を装備して敵に向かっていくのですから信じられません。
ゼフィルス君流に言わせてもらえれば職業の神秘です。
「えへへ」
「えへへ」
2人で見つめあってにっこり。
なんででしょう? さっきからハイタッチの後はこんな遊びが出来ていました。
すっごくほっこりします。モンスターとの戦闘で高まった気分が落ち着くのを感じました。
「ルルちゃん、次、行こっか」
「はいです! でも、見つからないですね」
「うーん、この階層にいるのは間違いないはずなんだけど……」
現在4層。
例の〈生徒会〉の最後のメンバーはここのどこかでキャンプをしながら物作りに励んでいるとのことです。素材には〈ウガウルフ〉という第4層から出現する〈ウルフ〉の一つ上のモンスターの素材が必要らしく、それに加え〈カカリ糸〉というこの1層~4層までで採取できる糸素材が必要とのこと。
よって、その方はこの第4層にずっと留まっているらしいです。
ゼフィルス君に貰った地図で最短距離は分かりますのでここまでは十数分で来れました。
でも、階層が広くて、今のところその方は見つかりません。
今は3層への入口門のある北東側から順に探しているところです。
そうして地図を再び広げ、次の探索予定地へ歩き出そうとしたとき、突然ルルちゃんがピクリと反応しました。
「んん! 人の声がしたのです!」
「え! どこどこ!?」
「多分あっちなのです! ルルについてくるのです!」
「わかったよ!」
ルルちゃんが駆け出したのに私も続きます。
やっとご対面かもしれません。
少しすると、私にも声が聞こえてきました。
「ォォォ――ォォ――ャ―」
ん、んん? 私にも聞こえました。
でもなんだかこれ、悲鳴じゃないでしょうか?
あ、ルルちゃんが剣を抜きました。
戦闘中でしょうか? だとすると私たちが下手に介入すれば割り込み認定されて話がややこしくなります。
でもその心配はなさそうでした。それは襲われている方が一方的にやられていたからです。
「うぎゃあぁぁ!」
「ワウワウ!!」
そこにはうつ伏せで倒れ、頭を〈ウルフ〉にガブリと噛まれている男子学生がいました。
あれは、まずいですね。もうすぐHPがつきそうです。あ、今ゼロになりました。
「ペッ」
「ぐえぇ」
ぺっ、てされてその場に倒れる男子学生さん。
その頭は涎まみれで、なんというか、切ない光景でした。
「ウォーン! ―――!」
男子学生さんを倒した〈ウルフ〉は勝ち鬨の遠吠えを上げると、その場から去っていきました。
HPを全損すると、モンスターからの敵意を受けなくなりますのでその効果でしょう。
「敗者にかける言葉はルルには持ち合わせが無いのです。でも仕方ないですね。ルルのとっておきのお菓子をあげます」
ルルちゃんがそっと男子学生さんの横に一口サイズのチョコレートを置きました。
そして戻ってきます。
なんでしょう? 武士の情けってやつでしょうか? ルルちゃんは武士ではなくヒーローですが。武士はリカさんですしね。ヒーローの情け?
「ハンナお姉ちゃん、この人が探している人なのです?」
「ううん。違うと思う、その人女子って聞いたから別の人だと思うよ」
「そうなのです? では探索に戻るのです?」
ルルちゃんの提案に首を縦に振ろうとしたときです、うつ伏せで敗者さんしていた男子学生が声を掛けてきました。
「―――ちょ、ちょっと待ってください?」
「にゅ?」
すぐにルルちゃんが反応します、でも「にゅ?」って。可愛すぎると思います。
「残念ですが。ルルはお話できないのです。シェリアお姉ちゃんから知らない人と話してはいけないと言われているのです」
「そ、そこをなんとかお願いします」
ルルちゃんがノーを示しましたが、男子学生はなんとか聞き入れてもらえないかと必死です。
「あ、チョコレートありがとうございます」
「礼には及ばないのです。敗者への武士の情けってやつなのです。リカから教わりました」
男子学生がムクリと立ち上がって、途中ルルちゃんが置いといたチョコレートをパクリと食べてお礼を言いました。
完全に会話をしている件についてツッコミを入れようか数瞬迷いました。あと、さっきのはやっぱり武士の情けだったみたいです。
ちなみにルルちゃんとリカさんは幼馴染なので、ルルちゃんはリカさんのことを呼び捨てにしているんですよね。
ですが、シェリアさんからルルちゃんをお願いされた身としては放ってはだめですね。
私は男子学生に向き直りました。
「あの、私でよければ聞きますよ?」
「おおお! あなたは神か!」
あ、これは断ったほうが良かったかもと思いましたが後の祭りでした。
「まず自己紹介を。俺の名はサトル! 職業は【ハードワーカー】です! 頼みます、〈ウルフ〉に奪われた〈無い隙のペンダント〉を取り返してくれませんか!?」
えっと、これは、クエスト発生ってやつでしょうか?




