#005 トップレベルハンナの人気ぶり。
「あのハンナさんですよね! 握手してもらってもいいですか!?」
「か、可愛い! こんなに可愛いのにダンジョン攻略も生産も出来るなんて神は素晴らしい至宝を人類に与えてくださったわ!」
「あの、明日のお昼は空いてますか!? 一緒にお食事でも!」
「あ、何口説いてるのよコイツ、ダメに決まってるでしょ! ハンナちゃんは私たち〈錬金術課〉と親睦を深めるんだからね!」
「あ、あの! ハンナさんダンジョン攻略も生産も出来るその秘訣を教えていただけませんでしょうか!? 私、ハンナさんみたいになりたいのでしゅっ! はわ、噛んじゃった……」
「例の勇者君との関係は!? 確かハンナさんって勇者君と最初コンビを組んでたんでしょ!?」
「私は幼馴染だって聞いたわ!」
「ずっと一緒に居たのでしょ! どういう関係なの? まさか恋人とか!?」
「ちょ、ちょっと待って、落ち着いて、落ち着いてください!?」
どうしましょう、なんだか凄いことに。
学園長先生も次の校舎へと向かって去ってしまい、私たち〈生産専攻〉の入学始業式は無事終わったかに見えました。
ですが、気を少し抜いた瞬間、私は周りに居た学生たちに一瞬で囲まれてしまったのです。
いろんな人がいろんな事を言いすぎて、もうよく分かりません!
なんか、一月前のゼフィルス君の勧誘合戦を思い出しました。
あの時ほどみなさんの目は血走ってはいませんが、この情熱、少し怖いです。
ゼフィルス君はニコニコしながら乗り切っていましたが私には真似できそうにありませんよ!?
どうしようかと目を回しそうになったとき、頼もしい先輩が隣に来てくださいました。
「はいはーい〈生徒会〉執行部のミリアスです。みんな落ち着いてもらえるかな?」
ミーア先輩が〈生徒会〉を強調して言うと、すぐに先ほどまでの喧騒が落ち着いていきます。
さ、さすがは〈生徒会〉です!
「そんなに一遍に言われたらハンナちゃんもわかんないと思うな。それに今日はハンナちゃんも代表を努めてお疲れだし、休ませてあげてもいいんじゃない?」
ミーアさんが私の前に出る形で学生を説得すると、また少しざわめきました。
「――むう。確かにその通りだ、我としたことが目先の欲に囚われてしまったらしい」
「先輩の言うとおりだ。俺でもこの人数に囲まれれば対処はできぬ」
「拙者もだ」
「これから3年間同じ同期なのだ。時間はいくらでもあるな」
「わ、わかったのでしゅ! は、ハンナさん今日はすみませんでした! また改めてお話しゃせてくだしゃい! はう、また噛んじゃった……」
「え、っと」
いきなりのことに声に詰まっていると、こっそり耳元でミーア先輩が囁いた。
「ほらハンナちゃん、みんなに声を掛けてあげて、今日は代表なんだからちゃんと代表っぽく言うんだよ?」
「――は、はい。みなさん、全ての言葉にお応えできなくてごめんなさい、今後3年間でいくらでも時間があると思います、ですからまた改めてお話ししましょう。今日はゆっくり体を休め、明日からの学業に備えましょう」
えっと、代表っぽくってこんな感じかな?
「おお、なんて立派な心構えなんだ」
「お姉様と呼ばせて貰えないかしら?」
「さすが俺たちのトップ。俺はハンナちゃんこそトップにふさわしいと、今確信した!」
な、なんだか大げさに捉えられているような気がする……?
気のせいかな?
「じゃあハンナちゃんはこれから〈生徒会〉で打ち合わせがあるから、これで失礼させて貰うわね」
ミーア先輩がそう言って私の手を引いて立ち去ると、後ろからさらにざわめきが聞こえてきました。
「な、なんだって! すでに〈生徒会〉に!?」
「さ、さすが俺たちのトップ!」
「ぬ、ぬう。LVは今の時点で52。このままの速度で邁進し続ければ必ずや学園のためになる。〈生徒会〉が動く理由も分かるな」
よく聞き取れなかったけど、なんだか過剰に受け止められている気がしてならないよ!? 大丈夫かな!?
ざわめきが遠くなり、何も聞こえなくなりましたがなんとなく言いようのない不安に見舞われます。どうしよう、私の学園生活、大丈夫かな?
そんなことを考えていると、いつの間にか〈生徒会室〉に着いていました。
ミーア先輩がノックをして扉を開けてくれたので一緒に入ります。
中には三人。
確か生徒会長のムファサ隊長とベルウィン副隊長、それに庶務のチエ先輩がいました。
チエ先輩がすぐにこちらに振り向き、労ってくれた。
「二人ともお疲れ様。大変だったみたいね」
「いやぁ、想像以上にハンナちゃん人気爆発だったよ~。やっぱりこの時期にLV52って相当ヤバいんだね」
「でしょうね。だからこそアイス主任は〈生徒会〉に任せたのでしょうし。ハンナさんは大丈夫でしたか?」
「あ、は、はい! ミーア先輩のおかげで」
チエ先輩に話を振られたので私がどれだけ助かり、またミーア先輩が凄かったのかを語ります。
「あんなに騒がしかったみなさんを落ち着かせてしまうだなんてミーア先輩はすごいです」
「いやあ、あれは単純に〈生徒会〉の力を使っただけだから大したことじゃ無いよ~」
謙遜していますが、あの剣幕の中を堂々と前に出られるのは素直に凄いと思うのです。
ミーア先輩のおかげであの人波を躱すことができたのです。
ですが次からはミーア先輩が隣にいないこともあります。気をつけなくちゃ。
私はそう決意を新たにしました。
でも……ゼフィルス君が恋しい。