#048 夜の校舎の異変。邪悪な声が聞こえてきました。
急遽始まった夜の校舎体験。
一人で取りに戻る予定だったシレイアさんは恐縮しっぱなしでしたが、一人で夜の校舎に戻るなんて危ないです。
夜の学校では何が起こるか分からないと言いますし。物語では、ですが。
そうして私たちは、さっきまで授業を受けていた校舎まで戻ってきていました。
警備の方に言って鍵をお借りし、夜の校舎にお邪魔させてもらいます。
「ね、ねえハンナちゃん。ちょっと歩くの速くないかな? お姉さん歩くの少し速いと思うな~」
そう言って私の右腕に抱きついているのはミーア先輩です。
えっと……。
私は少し困惑しています。
さっきまでの頼れる先輩風が今はピタリと消えて、どころか逆風すら感じます。
ミーア先輩は思った以上に暗いのが苦手みたいです。
「ミーア先輩、ハンナさんが困っていますわ。それにそんなに抱きつかれては歩くスピードに差が出るのも当然です。手を繋ぐとかにしてはいかがですか?」
「だって怖いんだもーん」
「もーんって、さっきの先輩風はどこ行ったんですの?」
それ、私もそう思います。
ミーア先輩、もう少し威厳を……。
「はわわ。お、思ったより怖いです。は、ハンナ様は大丈夫なのですか?」
「はい。私はこういうのあまり怖くないのです。ギルドで鍛えていますから」
「ほわー、さすがはハンナ様です。あの私も手を繋いでもいい、ですか?」
「いいですよ。お安いご用ですよ」
「ありがとうございます!」
そうして左手はシレイアさんの手を握る形になりました。
密かに後ろから「しまったですわ。で、出遅れてしまいました……」という声が聞こえた気がしました。
私たちは暗い校舎をシレイアさんのライトを頼りに進んでいきます。
少しお話すれば気分も紛れると思ったので、少しおしゃべりをしつつ進んでいきます。
校舎はシンとしていて、私たち以外に人はいなさそうでした。
私たちのおしゃべりの声だけが辺りに響きます。
「そういえばシレイアさんは何を調べる予定でしたの?」
「あ、それ私も気になっていました」
「へ? えっと……、対したことではないのですがその……、ギルドの事を調べようかと思ったのです」
「ええ? シレイアちゃんギルド入るの!?」
アルストリアさんと私が気になっていた事を聞くと、シレイアさんがギルドについて調べるつもりだったと聞いてミーア先輩も驚いた表情です。
「そろそろ、どこかに在籍しても良いくらいには、実力も付いてきたと思ってはいましたので……」
「そうですわね。わたくしもそろそろどこかのギルドに在籍しようかと考えていましたわ」
「え? そうなんですか?」
ちょっと驚きです。シレイアさんとアルストリアさんがそんなことを考えていただなんて。
まず前提として、学生はどこかしらのギルドに在籍したほうが今後の学園生活、そして就活に便利です。
生産職のギルドは、戦闘職と違って少し特殊です。
戦闘職のギルドを作る条件が初級中位1つの攻略であるのに対し、生産職のギルドの条件は初級中位級の装備・アイテムの生産、それの売買で売り上げた金額で条件が満たせます。
要は、実力と実績ですね。
この2つのあるギルドマスターが率いてギルドを作ることができます。
戦闘職との違いは、やはり難易度でしょうか。
戦闘職はLVで言えば、速くてLV15以上で作れるのに対し、生産職のギルドは速くてLV20以上と言われています。
生産職は基本的に戦闘職より弱いです。
ステータスビルドに振るポイント、SUPが低いのです。その代わりスキルの利用範囲が広いのですが。それはともかくです。
高位職自体、生産職には少ないですし、戦闘職と差が出てしまうのは仕方ないですね。
それにゼフィルス君も言っていましたが、生産職は二段階目ツリーが解放されてやっと一人前の生産ができるとのことなので、二段階目ツリーが解放されるLV20までは待たなくてはいけません。
そしてギルドを作る時期ですが、シレイアさんはすでに大体の条件は満たしています。
LVは29となりクラスでは私に次ぐ実力者で、〈錬金術課1年1組〉では4位以下の追随を許さないところまで来ています。
生産品の販売も、そろそろ〈採集無双〉の皆さんが初級下位を卒業できそうなので、近いうち条件はクリアできるでしょう。
そうなると、次に考えるのはギルド、ということになったようです。
シレイアさんは打ち明けます。
「でも、どこかのギルドに加入するか、それとも自分で作るのか、迷っていました。ですが今日〈生徒会見習い〉になりました。それで加入するかは置いておくにしても改めて色々調べたいと思ったのです」
「なるほどですわね。【錬金術師】というのは数が少ないです、大きいギルドはありませんわ。でも見聞を広めるのは良いと思います」
アルストリアさんの言うとおり、【錬金術師】はその性能の良さから注目されていますが、レシピが出にくい傾向に有り、学生数は少ないです。
そのせいで、【錬金術師】を専門とするギルドは弱小ギルドがほとんどなのです。
シレイアさんは、自分の求める【錬金術師】専門ギルドを作るか、他の生産ギルドのスタッフのような形で加入するか、それとも弱小ギルドであっても【錬金術師】の先輩が多いギルドに参加するか、悩んでいたとのことでした。
ですがそこへ私から〈生徒会〉へのお誘いがあり、〈見習い〉という形ではありますがシレイアさんは〈生徒会〉ギルドの一員になりました。
しかし、このまま他のギルドに在籍せず〈生徒会〉に加入するのか、それとも他のギルドに在籍して掛け持ちするのかは本人の自由です。
そのため、シレイアさんはまずは改めて調べてみようと思い到ったみたいですね。
アルストリアさんも頷いています。
「難しいですわよね。わたくしも理解できる所ですし、あとで一緒に考えてみませんこと?」
「アルストリアさん、いいのです?」
「もちろんですわ、わたくしとシレイアさんの仲―――」
それは唐突に起こりました。
少し羨ましいなぁ、と2人のやり取りを見ていたときのことでした。
校舎の奥から突然聞こえてきたのです。思わずアルストリアさんも口を噤むほど、
「ケケケケケケケ―――――ッ!!」
という邪悪な声が聞こえてきたのです。




