#045 〈生徒会〉の危機終わらず。助けてプリーズ!
「お願いハンナちゃん! 〈生徒会〉を手伝って!」
「はい?」
それは引っ越しなどのバタバタも落ち着き。
ギルドバトルのあった翌週のことです。
突然教室までやって来たミーア先輩が扉を開け放ってそう言いました。
不幸なのは教室がまだホームルーム中でクラスメイトが全員揃っていたところです。
「お、おい。あれは〈生徒会〉のミリアス会計だぞ」
「ハンナさんに〈生徒会〉の手伝いを申し込んだだと! いったい何が!?」
「バカ、勧誘に決まっているでしょ。前のダンジョン週間の間にハンナさんは【錬金術師】LV70に到ったのよ。それに例の噂の件もあるわ」
「ええええ!? LV70!? 〈生徒会〉に勧誘!?」
「いや、こうなることは分かりきっていたわ、むしろ想定どおりでしょ」
「あの、俺とハンナさんのLV差が50もあるのだが……」
「最初から50以上差があったでしょ」
「そうでした!」
「とにかくビッグニュースだ! この時期に1年生勧誘なんて初めてじゃないか!?」
「早速拡散しなくちゃ!」
教室内、そこら中でみなさんが雑談を開始しました。
もちろん話題はミーア先輩の一言です。私に見事に飛び火しています。
もう私は引きつった笑顔で固まるしかありませんでした。
ミーア先輩……、相変わらず影響力が強すぎると思います。
「みなさん、静粛に」
そこに拍手二つ、ざわめく教室内にやけに鮮明に響きました。
教壇にいらっしゃったアイス先生がそうおっしゃるとピタリと雑談が止みました。
さ、さすがはアイス先生です。これが人望でしょうか。
「ミリアスさん、まだホームルーム中です。御用があるときは終わるまでお待ちいただかないと、これは〈生徒会〉以前に人としての嗜みだと自覚してください」
「は、はい! アイス先生! 失礼いたしました!」
ミーア先輩は敬礼したあと凄い勢いでバックして扉を閉めました。ズザザザっと効果音が聞こえた気がします。
多分ミーア先輩、ホームルームが終わっていないのを確かめずに開けたのですね。
ミーア先輩は少し大雑把なところがありますから。
実は先ほどから扉を開けた体勢で固まっていたミーア先輩です。
うちの担任は学年主任のアイス先生ですからね。
生産職全ての学生にとってアイス先生はとても高い目標です。
生産系を管理する〈生徒会〉の一員としては頭が上がらない存在がアイス先生です。
えっと、つまり、所謂やっちゃった、というやつです。
私はやっちゃわないよう気をつけましょう。
しばらくしてホームルームが終わるとミーア先輩が扉の陰からちょいちょいと手を振ります。意味はちょっとこっち来てですね。
私は少し困った顔をした後、帰り支度を済ませて、クラス中の注目を集めながらミーア先輩の下へ向かおうとします。
しかし、教壇の前を通り過ぎようとしたところでアイス先生に呼び止められました。
「ハンナさん。ハンナさんさえよければ、〈生徒会〉を手伝ってあげてください。もちろん無理そうなら断ってくれても構いませんから」
「は、はい? 分かりました?」
少しビックリしました。
アイス先生は〈生徒会〉のまとめ役でもあります。ミーア先輩の用事も知っているのは分かりますが、こうして頼まれるのは代表挨拶の時以来です。
あ、思い出したら少し緊張して来ました。もしかしてミーア先輩の用事とは? いえ、またあの代表みたいなことをするとは決まっていません。落ち着きましょう。
とりあえずアイス先生にペコりと礼をして教室を出ました。
「あーん。ハンナちゃーん! 私の癒しー!」
「わぷっ! んもう、どうしたのですかミーア先輩。それと、みんな見てますのでもう少し離れましょう」
「うう、なんだか私のハンナちゃんが逞しくなってる~」
「私が逞しくなっているとしたら、それはミーア先輩のせいも少なからず入っていますからね? あと私はミーア先輩のじゃないですよ?」
じゃあ誰の? と聞かれますと……、え、えへへ。
「あれ? なぜかハンナちゃんがニヤけてる?」
「ハッ! いいえ、なんでもありません。ラウンジに行きましょうか?」
「ううん、〈生徒会室〉に行こう? 今は人が少ないから」
「はあ……?」
なんだか分かりませんが、私は再び〈生徒会室〉に行くことになりました。
〈ダンジョン生産専攻〉の校舎は〈戦闘課〉などと違い全ての学年で一つです。課も全て一つの校舎に入っています。
〈戦闘課〉だとあまりに人数が多すぎて1学年で、しかも同じ課で1つの校舎を使っていますからね。つまり学年ごとに校舎があって計3つに分かれているのが〈戦闘課〉です。スケールが違います。〈錬金術課〉なんて1クラスしかないのに。
それで何が言いたいのかといいますと、〈生徒会〉の拠点、〈生徒会室〉も同じ校舎にあるということですね。
〈生徒会室〉は〈ダンジョン生産専攻〉の校舎にあります。
そのためすぐに到着します。
「トントントン! 失礼しまーす!」
なんだか慌てているのか扉をノックするとき声も一緒に出すミーア先輩です。そんなところが少し可愛く見えます。
「チエちゃん! ハンナちゃんを連れてきたよ!」
「チエちゃんではありません。先輩をつけないさい。ハンナさんもいらっしゃったのですね。こんな姿で申し訳ないですがようこそいらっしゃいました」
そう言ってめがね上げたのは三年生、庶務担当のチエ先輩です。しかし、すぐに手元の書類に視線を落としてしまいました。
チエ先輩のデスクと思われる机の上には山となった書類が積み上がっていたのです。
とてもではありませんが1人でやる作業量じゃないように見えます。
そこで気がつきました。いつもムファサ先輩やベルウィン先輩たちのデスクには何も無い事に。
少し分担した方がいいと思います。
「あの、ミーア先輩。ムファサ先輩たちは?」
「え? あ! 私、ハンナちゃんに言ってなかったっけ?」
何をでしょうか? そういえば何も説明されず「助けて」だけ言われてここまで来た気がします。
「誰も来ませんよ」
「?」
チエ先輩が書類に目を落としたまま私の疑問に答えてくれました。
ですが、その答えに、私の疑問はもっと膨らみます。
チエ先輩は一拍おいてから説明してくれました。
「ムファサ隊長は例のダンジョンに向かい、それにベルウィン副隊長とヤークス書記も連れて行かれました。いえ、付いていった、というのが正しいですね。他にも2名が同伴し、今〈生徒会〉は未曾有の人員不足です」




