#044 錬金もほどほどにしないと。スライム大量発生!
「フッフフ~ン、ルッララ~ン」
ダンジョンにハミングが流れます。
流しているのは私です。
実は今日、久しぶりに一人でダンジョンに来ていたりするのです。
目的は、ちょっと人には言えませんが、簡単に言えば無くなってしまった在庫の補充のためですね。
最近は少し忙しかったのです。
ギルドはいつも通り、ゼフィルス君たちとダンジョンで楽しかったですし、平日は〈採集無双〉の方々と採集を頑張りました。
そして〈総商会〉の一件は、結果から見たらたった1日のことでしたけど、とても濃厚な経験でした。(私ほとんど何もしていないけど、とっても疲れた件)
あの一件から一週間。
明日はギルドの方でギルドバトルがあるので最後の気晴らし、いえ、気分転換しています。
「う~ん。この辺でいいかな」
やって来たのは初級下位の一つ、〈熱帯の森林ダンジョン〉。
1層の、フィールドの端の方です。
このダンジョンの1層はモンスターが木の上から降ってくるのですが、数は1体だけで動きも遅いので、遠距離から〈筒砲〉でドンッすれば楽勝です。
そして私は、自分の目的のためにちょうどいい場所を見つけました。
「ここなら人も来なさそうかな? それじゃ、――じゃーん!」
気分は遠足、ピクニック。いえ、1人ですからお散歩の延長かもしれません?
でもいいのです。少し楽しみです。
私はポーチ型〈空間収納鞄〉から、〈初級錬金セット〉の〈錬金釜〉を取り出しました。10個ほど。
「ミーア先輩に教えてもらったことがスラリポマラソンでも試せるのか、実験です!」
実は先日、ミーア先輩に生産の裏技というのを教えてもらいました。
複数の〈錬金釜〉で一気に仕上げる方法で、先日の〈魔石(中)〉の時はこれで大きなスピードアップを記録したのです。
でしたらです。少なくなってしまい、寂しくなった〈魔石〉を補充するのに役立つかもしれません。
でも普通の部屋でモンスターがいっぱい出てきたら、ちょっと危ないと思うので誰も来ない広い空間を所望していました。
「えへへ~、スライムゼリーと泥水はたっぷりあるよ~」
スライムゼリーをドン。
泥水はタンクでドン。
取り出してじゃんじゃん錬金釜へと注いでいきます。
「集中集中、いきます――『錬金』!」
全部に入れ終わったら、あの時みたいに全ての錬金釜を意識してみます。
わぁ! あの時と同じく複数の〈錬金釜〉にスキルを発動できます。
でもやっぱり最高で4つまでみたいです。
4つの錬金釜にはスライムゼリーが10個入っています。
40回分の錬金になるので160匹スライムが出てきます。すごい数です。
でもこれで十分とは言えません。
ここで頑張って練習しちゃいましょう!
目指せ、『錬金』一回で400匹!
私はガンガンじゃんじゃん『錬金』を試していきました。
手ごたえはありました。
後は数をこなし、練習を積めば5つ以上も同時にかけられると思います。
〈錬金釜〉から、うようよと出てきたスライム。
生まれたばかりでまだろくに動けません。
私はまた〈空間収納鞄〉から〈メイちゃん2世〉を取り出しました。
「てやー! てい、てい、てーい!」
そしてスライムを叩きます。
叩いて叩いて、とても叩きます。
叩かれたスライムは一撃でHPをゼロにし、光に還って消滅し、〈魔石(極小)〉をドロップします。素晴らしいです!
叩くのが止まりません。
あっという間に今生まれた160体のスライムを光にし、また『錬金』をします。
「こうかな? 集中集中――『錬金』!」
うーん。まだ最高4つですね。
錬金が終われば今度はスライムたたきのお時間です。
〈魔石〉がじゃんじゃん手に入ります!
その後も私は錬金しては叩き、錬金しては叩きを繰り返しました。
そして来るべきときが来たのです。
「ふう~――『錬金』!! あ、やったー! 5つ同時に出来たよ!」
今まで4つが最高だった同時発動が5つ同時に出来たのです。
私は今の感覚を忘れないようにします。
「この感覚だね~。う~ん、『錬金』!!」
よし、また5つ同時に成功しました。
感覚は掴んだかと思いますが、この感覚を活かせば6個以上もできそうです。
体から今の感覚が抜けないうちに試します!
ジャブジャブ入れて。
「――『錬金』!!」
ほわ! 今度は7つの〈錬金釜〉に同時に掛かりました!
わかりました! コツは掴みましたよ!
この流れのまま10個出来るまで突き進みます!
「ジャブジャブ、――『錬金』!! ジャブジャブ、――『錬金』!!」
それから私はどんどん錬金していきました。
〈錬金釜〉をくっつけて、まるでたこ焼きの鉄板へ生地を流すがごとく、ジャブジャブっと入れていきます。スライムゼリーがタコさんの足に見えてきましたが、多分気のせいですね。
私の腕前が回数を重ねるごとに熟練していくのが分かりました。
まだまだ、まだまだです。
この8つから9つが難しいのです。
7つまでは全部出来るのに、8つ出来たり9つ出来たりと変動します。
ま、負けません!
どのくらいやっていたのでしょう。
とうとう、とうとう目標に手が届きました。
「やった10個全部!」
今の感覚です。今の感覚の通り10個をいっぺんにです!
「ジャブジャブ、――『錬金』!! や、やりました!」
それから私は10回中10回成功するまで頑張り続けました。
気がつけばもういい時間です。
「ふ~。私、すごく強くなったかもしれません!」
フンスと立ち上がります。
確かな手ごたえがそこにありました。
これなら、いつでも10個いっぺんに『錬金』出来るでしょう。
完璧です。
……しかしそこへ、まるで異議を申すように私に触れてきた者がいました。
「ちゅめたいっ!」
それはなんと言うか、ぷにっとしていて冷たかったのです。
そして足元を見ると、そこにはスライムがくっ付いていました。
「てい」
メイちゃん2号を振るい、すぐに光にします。
スライム(できたて)はすごく弱いのでたとえ触れてもダメージは受けません。
しかし、とても困ったことが発生していたことに、私はそのとき初めて気がつきました。
正面を見て、右見て、左見て、後ろ向いて、周りを見渡して、……そこにはたくさんのスライムで覆われていました。
「あ、……えへへ?」
何体のスライムがいるのか、私はいったい何回大失敗を繰り返したのか、覚えていません。
わかるのは、錬金の感覚を掴むのに夢中で、スライムを倒すのをすっかり忘れていたことですね。
とりあえず、騒ぎになる前になんとかしなければなりません。
でもメイちゃんだけではちょっと、手数が足りなそうですね。仕方ありません。
私は〈空間収納鞄〉から〈中級下位・炎爆弾〉を10個取り出しました。
それをスイッチ入れてその場にそっと置いて、退避します。
置き爆です。
駆け足でスライムの間を縫うように脱出して数秒、ドッガガガガガーンッ!! というすごい音が響き、スライムたちは皆光になりました。
たくさんの〈魔石〉が手に入りました。




