#041 〈総商会〉の大混乱? いきなりのピンチ。
現在、もう暗くなる時間。この時間になれば学生は少ないだろうと予想していました。
しかし〈総商会〉は、アルストリアさんの予想が外れ、大混雑していました。
多くの学生が窓口に詰めかけ、教員の方まで出張って混雑を静めていたのです。
「頼む〈ハイポーション〉を売ってくれ! 300個でいいんだ!」
「ちょっと待ってよ! 周りが見えないの、みんな〈ハイポーション〉が欲しいのよ、そんなにたくさん持っていかないで!」
「こっちは〈ポーション組合〉ギルドだ。〈魔石〉の供給が止まってポーション類の製品がまったく作れなくて商売が出来ない状態だ。〈魔石〉を融通して欲しい」
「待ちなさい! 融通なんて私たちが許すわけないでしょ!」
「おいい! あんたの方が売ってもらった〈魔石〉が多いじゃないか!? どうなってんだ!?」
「ちょ、〈魔石〉高っ! なんでこんなに高いの!?」
「おい、値段でケチをつけるんじゃねぇよ、イヤなら出て行け。これは定価の金額なんだ。少なくとも〈総商会〉はこの金額から上にはあげねぇ」
「な、なんで〈ハイポーション〉がないんだ!? うちにはヒーラーがいないんだ! 頼む、ほんの少しでもいいんだ、売ってくれ!」
「私たちだって同じよ! それにブーストポーションも無い、耐性ポーションも無いじゃ中級上位ダンジョンなんて全然進めないわ! ハイポなら私たちに売って!」
「お、落ち着いてくださいみなさん。今やっと供給が戻ってきたところなのです。心配なさらなくても近日中には供給が回復しますので……」
「そ、それでは遅いのです! 今回のダンジョン週間はほとんどダンジョンで成果がなくって、次のダンジョン週間は2週間後なんですよ! 供給が間に合わなかったでは私のギルドは!」
「み、みなさん落ち着いてください、落ち着いてください!」
私たちはその光景を見て声が出ませんでした。
市場が混乱し、中級上位ダンジョンでは必須とも言われるポーション類が消えてしまうと、当然ながらダンジョン攻略は出来なくなってしまいます。
全てのギルドが当てはまるわけではありませんが、今の光景を見る限り、とても多くの人たち、ギルドが困っているのだと肌で実感しました。聞くのと実際に見るのとでは大違いです。
「これは、予想以上にまずいわね。かなり混乱しているわ」
「はい。これは治めるのに苦労しますわね」
隣にいたミーア先輩とアルストリアさんもまずいと顔に書いてあります。
お二人が顔に出すくらいまずい状況、ということです。
「ミーア先輩、アルストリアさん、どうしたらいいのですか?」
私は〈空間収納鞄〉を両手でギュっと抱きしめて、そう聞きます。
これって、もし今持っていったって、不安が解消できる未来が思い浮かびませんでした。
むしろもっともっとと催促されるだけの未来まで見えます。
さすがにこれだけいる人たちが一斉に買いに走ったら1万個の〈ハイポーション〉なんてなくなってしまうかもしれません。
私の問いにミーア先輩が見たことも無い真剣な表情をします。
「そうね、正直私たちには手に負えないわ。教員の方々に任せるのが一番だと思う、けど」
ミーア先輩の視線が場を治めようと必死に駆け回っている教員の人たちを見ます。
しかし、はっきりとした対応方法が明かされないからでしょうか? 買いに走っている学生たちは誰も帰る様子がありません。
「とても任せられるようには見えませんわね。でも私たちではどうにもできませんわ」
「…………」
アルストリアさんが険しい顔で言います。ちなみにシレイアさんは緊張が昂ぶりすぎて硬直しています。
「でも今はここを離れたほうがいいかも」
「ええ。見つかると大変なことになるかもしれませんわ。あの人たちが求めているのはハンナさんが持っている品物なのですから」
ミーア先輩とアルストリアさんが引き返すように言いました、が少し決めるのが遅かったみたいです。
〈総商会〉の窓口にいる男子学生が私たちに気が付いて立ち上がり声を上げたのです。
「ハンナ様! お待ちしていました!」
瞬間、一瞬で周りにいた人たちが私たちの方へ振り向きます。
「最悪ですわね……」
アルストリアさんが呟きますが、その通りだと思います。




