#036 〈中級錬金セット〉作製で開始! まず50本!
「ふわぁ、ここが3年生の錬金工房……」
「で、でででっかいフラスコですね!」
「さすが〈迷宮学園・本校〉が持つ錬金工房ですわね。とても良い質の物が揃っていますわ」
私は錬金工房に来た途端、その光景に圧倒され口がポカリと開いたのを感じました。
見ればシレイアさんも同じ感じです。いえ、キョドっていますね。
アルストリアさんはさすがご実家が大手な錬金術店を経営しているため、驚きはあまり無いみたいです。
〈中級錬金セット〉。
毎日私たちが使っていたのが〈初級錬金セット〉だったのでその存在感はまったくと言っていいほど違います。
まず目に付いたのは巨大な2種類の錬金釜と巨大フラスコでした。大きいです。
初級のは小鍋みたいなものと大鍋くらいの大きさの錬金釜がありますが、中級のは寸胴鍋と、それ以上に横に広い巨大錬金釜がありました。確かにこれなら大量生産向きです。
ゼフィルス君も言っていましたが、【錬金術師】の最大の長所は、その大量生産にあると言っていました。
その意味が〈中級錬金セット〉を見て分かります。
とても大量に作るのに向いた大きさなのです。
他の【薬師】などが使う〈中級調薬セット〉は質を高めるものだと聞きます。
並の品質の素材を使っても、高品質になりやすいのだと聞きます。
それはそれで羨ましいですが、今求められているのは量です。
今は自分が【錬金術師】であったことに感謝ですね。
時間も無いので、気を引き締めて取りかかりましょう。
「アルストリアさん、シレイアさん。早速始めましょう」
「わかりましたわ」
「は、はいです!」
私たちは〈ハイポーション〉担当。
〈ハイポーション〉の素材は最低限3種類、〈上薬草〉〈上質な水素材〉〈魔石(中)〉です。
まず〈上薬草〉ですが、これは1万個の在庫が学園にはありました。
これは問題無く受け取る事が出来ます。足りない分は〈採集無双〉の方々に頑張ってもらうしかありません。
次に〈上質な水素材〉です。これはダンジョンで手に入れた素材や作製した中間素材などを使いますが、今回は以前〈静水の地下ダンジョン〉に行きましたときに採集しました、〈地下清水〉に〈浄石〉を使います。量は結構あるのです。簡単に手に入りますし、〈総商会〉の方でも準備してくれました。
問題は〈魔石(中)〉ですが、これは私が納品した分で足りる予定でした。
ですが、またもトラブル発生です。
私が納品した6万個ですが、そんなにあるのならこっちにも回して欲しいと手を挙げる部署が多かったんです。
実際〈魔石(中)〉の在庫はここしばらく空でした。
そのため、〈魔石〉を使って生み出す類いのアイテムなどの供給が滞っていたのです、
問題は〈ハイポーション〉だけでは無く、もっと大きく広がりを見せていました。
皆さん〈魔石〉を確保しようと必死だったのです。
そのため取り合いが起きて、〈総商会〉はその処理に追われることになってしまいました。
このままでは市場の混乱を収める作業がさらに遅くなってしまいます。
そのため、私は提案しました。
こちらの〈魔石〉の分はこちらで用意すると。
「ではアルストリアさんは〈魔石(中)〉をたくさん作ってください。材料はここに置いておきます。レシピは〈大図書館〉にあったものをメモしておきました、こちらです」
そう言って、私のポケット魔石から〈魔石(極小)〉を大量に出して置いておきます。あとレシピのメモも一緒に渡しました。
「う、承りましたわ……。あの、ハンナさん、これ全部〈魔石(極小)〉なんですの?」
私が山のように積み上げたそれを見てアルストリアさんが目をしきりにパチパチさせています。ちょっと量が多かったかもしれません。
アルストリアさんの『錬金』のLVとDEX値はすでに〈魔石(中)〉を作るのに十分な数値です。〈ハイポーション〉を作るにはまだ少し足りませんが、素材を作るには十分なんです。
そのため、アルストリアさんには〈魔石(中)〉の量産をお願いいたしました。
「シレイアさんは私と〈ハイポーション〉の作製です。レシピはここに、それと私が今から見本を見せるので、見ていてください」
「は、はいです!」
先ほどチエ先輩たちに私が言いました〈ハイポーション〉を作れる方とはシレイアさんのことでした。
最近メキメキLVを上げてきているシレイアさんです、まだ本職ではない〈爆弾〉アイテムの中級品作製は無理でも、【錬金術師】の本職である〈ポーション〉作りであれば、今のシレイアさんのスキルとRES値DEX値でも作製はできます。
まず私が手本を見せます。
「――錬金起動。調薬開始」
自分に暗示をかけます。
【錬金術師】は『調合』スキルと『錬金』スキルが扱えます。
まずは『調合』スキルを使って〈上薬草〉と〈水〉を調合し、薬効を抽出するところからです。これの難易度が、結構高いのです。
「すりすり~、混~ぜ、混~ぜ~」
〈上薬草〉をペースト状にすりつぶし、すりつぶし、どんどんすりつぶします。
〈中級錬金セット〉の巨大錬金釜は1度の錬金で最高で100まで大量生産することが可能らしいです。すごいです。
ただ数が増えれば増えるほど成功率は下がっていくらしいですが、それでも量を作るには便利ですよね。
私も、初級の時には無かった大きなすり鉢を使っていくので50枚の葉がみるみるペーストしていきます。
普通はこんな数をいっぺんにはできないのですが、私のスキル『迅速調合』や『簡略生産』、『迅速錬金』もこのダンジョン週間でLVも上がって両方ともLV5になっていますので、スピーディですね。
まずは見本なので50で行きましょう。〈中級錬金セット〉の運用に慣れたら生産数を増やします。
「ペーストはこんな感じでいいですね」
「は、早いでしゅ……」
錬金は迅速を尊ぶのです。
もたもたしていたら薬効成分が逃げてしまいますからね。
葉物なので素早く処理する必要がありました。品質低下は天敵です。
そうして出来上がった〈上薬草〉50葉分のペーストと、〈地下清水〉に〈浄石〉を使って作った〈純化水〉を〈中級錬金セット〉の1つの〈抽出フラスコ〉に流し込み、『調合』を掛けて成分を抽出します。
「――薬効抽出開始、――『調合』!」
薬効成分が抽出出来ましたら後は魔力を馴染ませるだけなので、フラスコを巨大錬金釜の上に設置して薬液をそのまま巨大錬金釜へと垂らし、〈魔石(中)〉50個をどぼどぼ投入します。
今はまだアルストリアさんがそれほど作れていないので、これも私のポケット魔石から、まだ〈総商会〉に納品していなかった物を使います。
余っているのは500個くらいなので、これが無くなったら私もアルストリアさんと同じく〈魔石(中)〉の量産作業をしなくてはいけませんね。
さて、最後の工程です。
「濃厚、凝縮~、薬効高くな~れっ! ―――これくらいでいいですね、いきます! ――『薬回復量上昇付与』! ――『錬金』!」
適当なスピードで混ぜ合わせたら呪文を掛けて錬金です。
ちなみに呪文は無くてもいいのですが、ゼフィルス君が「言うと薬効が高くなる気がする」って言っていたのでやっています。真偽は不明ですが、私がやると結構高品質が出来やすくなったり、失敗がしにくい気がするのです。なら「薬効高くな~れっ!」と言うくらい大した手間じゃありません。
巨大錬金釜の薬効が輝き、それが収まったとき、大量の小瓶がそこに現れていました。
「10……20……30……40……50! 50本全部成功です!」
「しゅ、しゅごい……でしゅ……」
まずは〈ハイポーション〉50本の作製に成功です。
シレイアさんには1本から初めてもらうとして、慣れたらこれくらいはできるようになりますよ。
さて、どんどん生産しますよ!




