#034 クエスト発生。〈ハイポーション〉の大量作製!
〈ハイポーション〉を筆頭にして市場の混乱が発生、その問題は度重なる説明をしてもらった私が思っているより大問題だったみたいです。
〈総商会〉の人たちが総じてキラキラした視線で見つめてきて私をハンナ様と呼ぶくらいには、です。
「もうね、上位ギルドからの問い合わせ、根回し、裏工作、本当にウザかったんです!」
そう両掌をギュッと力強く握りしめて言うのはメリーナ先輩です。
ものすっごくぶっちゃけてますね。よほどストレスが溜まっていたようです。
〈ハイポーション〉が手に入らない。それは上位ギルドからしてみれば死活問題だったみたいです。
メリーナ先輩の話では、連日、本当に毎日〈総商会〉への問い合わせが多く、それだけならまだしも、もし〈ハイポーション〉を手に入れることが出来たら優先的に自分のギルドに回すよう根回しようとしてきたり、【薬師】系のギルドさんを自分の下部組織に引き抜こうとするギルドが相次いだとか。
〈ハイポーション〉が市場から消える。
たったそれだけのことでここまで事態が悪い方向へ動くとは、学園も予想外だったみたいです。
「でもハンナ様のおかげで解決の光明が見えたました。これだけの〈魔石〉があれば十分すぎます! さっそく〈ハイポーション〉の生産を開始しませんと」
そうウキウキするメリーナ先輩。
私は様付けの撤回を求めましたが、なんでか却下されました。どうして?
しかし、そんな光明に影が差し込みます。それは〈総商会〉でも会長と呼ばれる方がメリーナ先輩に待ったを掛けたのです。
「メリーナ二年生、そのことでちょっと良くないことが起こっているわ」
「会長?」
会長さんは三年生で、この歳でスーツが似合う出来る秘書という感じの人でした。
少しだけメリーナ先輩と席を外すと、それほど待たせずにメリーナ先輩が戻ってきました。
しかし、その表情はさっきまでの明るいものではありませんでした。
「何かあったのね?」
チエ先輩が問います。
「はい。どうやら例の裏工作が思いのほか響いていたみたいで、現在〈ハイポーション〉の大量生産ができるギルドがいないみたいなんです」
「え? いないって、そんなはずないでしょ? 〈ハイポーション〉なら【薬師】系や【医者】系、【神官】系、そして【錬金術師】系が作れるはずだわ」
チエ先輩の言うとおり、ポーションの作製だけなら四種類の職業系統が作ることができます。
ギルドの数としてはそれほど多くはないかもしれませんが、どこも作れないということは無い、と思います。
「それがダメなんです。どこも腕の良いところは上位ギルドから依頼があったみたいで、様々なレシピを報酬に自分たちが取ってきた素材から〈ハイポーション〉他複数のポーション系の依頼をしているらしいんです」
確か、〈ハイポーション〉が市場から消えたために普段はそんなに消費されないはずのバフポーションや状態異常回復のポーションなどが多く消費されたみたいで、軒並み品薄になっていると聞きましたけど。
メリーナ先輩の話を聞いてチエ先輩が難しい顔をします。
「むう。参ったわね。市場からポーション類が品薄になっていると見た上位のギルドが独自に動き始めたのね」
「生産ギルドは戦闘ギルドに比べると規模は小さいですが、今は生産ギルドの需要が非常に高くなっています。それにレシピを報酬に出されては生産ギルドが断るのは難しいですから、というかむしろ食いつきます」
「でしょうね……」
メリーナ先輩の言うとおり、レシピとは生産職の生命線です。そのレシピの所持数が生産職の力と言っても過言ではありません。
故に、チャンスがあれば生産職はレシピを欲しがります。
そして上位の戦闘職ギルドもそれは分かっています。分かっていますのでレシピは万が一の時の報酬として貯め込む事があるらしいです。上位ギルドが攻略するようなダンジョンからドロップした貴重なレシピを、です。
そんなレシピを報酬にされたら生産職は餌に集まる魚のごとく、簡単に一本釣りされてしまいます。むしろ自ら一本釣りされにいきます。
間違いなく、優先度はレシピが一番です。
「〈総商会〉と〈生徒会〉から連名の依頼、さらに学園から多額のQPを報酬に出せばどうかしら?」
「それでも動かないと思いますよ。それほど上位レシピの報酬というのは生産職にとって喉から手が出るほど欲しいですから。それに〈ハイポーション〉は数が要ります、1箇所2箇所のギルドの生産力では市場が回復した、というインパクトを与える事ができないかもしれません」
「時間も掛かるし、参ったわね。戦闘職ギルドに根回しして独占状態に近い依頼を解除できないか話し合う必要があるわ。そうなると市場の回復がさらに遅れるわね。飲んでもらえるかも分からないわ」
「それにそれが片付いても問題があります」
「まだ何かあるの?」
「〈上薬草〉が足りません。今学園が保有している数は1万個ほどしかありません。〈魔石(中)〉はハンナ様の納品で大丈夫ですが、〈上薬草〉の納品も相変わらずありませんから。全てを〈ハイポーション〉にしたとして、次が続きません」
「すぐに取ってきましょう。依頼の額を上げると同時にいくつかの〈採集課〉にも声を掛けましょう。金額の負担は学園側にしておけばいいわ、これは学園が原因の一つだもの、責任は学園に投げて大丈夫。〈『ゲスト』の腕輪〉も大量に借りて、〈採集課〉で中級ダンジョンに行ってくれる方を募集しましょう」
「そうですね。早速話を持っていって募集の依頼を出します。中級ダンジョンツアーですね。〈採集課〉の学生は野良が多いですし、多分集まります。でもすぐには無理ですね、彼ら彼女らはたくさん素材を確保するために朝早くから仕事をしていますから。今日はもうダンジョンでしょう。早くて明日でしょうか」
「仕方ないわ。〈上薬草〉の方はそれで良いとして、問題は生産職ね……」
「あの、それなら私がやります。それと知り合いに声を掛けてもよろしいでしょうか? 1年生なのですが?」
二人が難しい顔をして話し合っているところに割り込むのも躊躇したのですが、私は思いきって立候補しました。
「ハンナ様が、ですか?」
「……いいのかしら? こちらは助かるけれど。でもハンナさんはともかく他の1年生に〈ハイポーション〉はまだ無理でしょ?」
「一人、できるかもしれない子が居ます。それに〈採集課〉にも知り合いがいますので、その中級ダンジョンツアーに連れて行って貰えないでしょうか? 〈採集無双〉なら今日から動けると思います!」
二人は一度顔を見合わせると、すぐに頷きこちらに向きなおりました。
「どっちみち私たちはすぐには動けないし、担当してもらえる生産ギルドを見繕うのも時間が掛かるわ。猫の手も借りたい状況なの。ハンナさんさえよろしければお願いできるかしら?」
「私からもお願いいたします。その〈採集課〉の方と生産職の方とはすぐに連絡が付きますか? 今日から動けるとのことですが」
「はい! 任せてください。すぐに確認します!」
私はすぐに〈学生手帳〉を取り出すとチャット機能を使っていつものメンバーと〈採集無双〉へグループ一斉送信します。
すぐに返事が返ってきました。さすがみなさんです。なぜかミーア先輩からも「私は? どこにだって行くよ!?」という切実な訴えがありましたが、そちらは今は見なかったことにします。
「みなさんすぐにでも集まれるそうです」
「では依頼書を作るわね。少しだけ待っていてください、すぐ作るわ」
私が報告するとすぐにメリーナさんは素早く手を動かして依頼書を作りました。
「出来たわ」
は、早すぎます。青いエフェクトが僅かに光っていましたからスキルでしょうか?
内容をチエ先輩と二人で確認して、不備が無い事を確かめると、私は早速行動を開始しました。
クエスト名〈現在不足している〈ハイポーション〉の作製。素材は〈総商会〉持ち、できるだけたくさん、できるだけ早めにお願いします〉。
報酬〈〈ハイポーション〉1個で3000ミール、もしくは3QPを報酬とします〉。
(大量、迅速なればそれだけ別途報酬有り)
クエスト名〈中級下位ダンジョンツアー。〈盗鼠の根城ダンジョン〉にて〈上薬草〉の採取。上限無し。〈『ゲスト』の腕輪〉とキャリー係は〈総商会〉持ち。(なお〈『ゲスト』の腕輪〉を破損させたら罰金)、できるだけ多くお願いいたします〉
報酬〈〈上薬草〉5個で2000ミール、もしくは2QPを報酬とします〉。
(高品質なればそれだけ別途報酬有り)




