#033 なんで私のことを様付けで呼ぶんですかー!?
「へ?」
そう呟いたのはチエ先輩か、メリーナ先輩か。
それとも二人共からかもしれません。
思わず呆けてしまうほど、それは理解できない光景だったようです。
メリーナ先輩が用意された〈空間収納倉庫〉は持ち運びを優先した小型のタイプです。
後で知りましたが、普通のタイプより入る数が少ない代わりに持ち運びに便利なんだとか。
それでも〈空間収納鞄(容量:中)〉を超えるほどの容量があるらしいです。
普通の納品であればこの小型のタイプでも問題は無かったと思います。
でも私は普通ではありませんでした。自分で言っといてなんですがごめんなさい。知らなかったんです。
まさか〈空間収納倉庫〉が溢れるなんて。
私は〈空間収納鞄(容量:大)〉で持ち運べるだけ〈魔石〉を持って来ました。それにより、小型の〈空間収納倉庫〉の容量を超えてしまい、受付のデスクにじゃらじゃらと〈魔石〉が浸食しました。私は慌ててそれ以上出すのをやめます。
「あ、あわわ!?」
「ちょ、これ何?」
「わっわ、ちょっと待って、待って」
水を入れたコップが勢いよく溢れたように広がった〈魔石〉の浸食に、私もビックリし、チエ先輩は硬直して目を丸くし、メリーナ先輩は慌ててデスクから〈魔石〉が落ちないよう両手を広げてブロックしてくれました。
数秒が経ち、〈魔石〉が音を鳴らさなくなると、ようやく私たちの硬直は解けました。
メリーナ先輩も慎重に〈魔石〉が落ちないようデスクに押し戻しながら立ち上がります。
そして一言。
「「ハンナさん、これはいったいどういうこと?」」
「えと……、すみません」
とりあえずどういうこともこういうことも、私が持って来た〈魔石〉が予想を遙かに超える数だったということでした。
「はぁ。いっぱいって言っていたけどこれほどまでとはね。〈エデン〉ってそんなに持っていたのね」
「でも助かります。これだけの量の〈魔石〉があれば……、いえまだまだ足りないかもしれませんね」
二人して驚く量だったとは言え、これだけではまだまだ足りないみたいです。
そうでしょうね、この学園の在校生は2万人、ここに出しただけで1万個くらいですから。くらいと言うには、多い量かもしれませんが。
しかし、チエ先輩はこれをいかにして使うかが重要だと言います。
「これだけの数よ。やり方次第では学生の安心を買うことはできると思うわ。まずはどれだけの数を〈ハイポーション〉に加工して、魔石をどれだけ残すかね。買い占めが発生しているのは〈ハイポーション〉が無くなるかもという不安から来ているものだもの。不安さえ取り除くことができれば市場の混乱も沈静化するはずよ」
「うん。でもそれでも1万個では、供給が滞ればまた同じ事が起きます。この数ではまだ舵取りをするには不安ですね」
「市場に〈ハイポーション〉が溢れ、尚且つ在庫も大量にあると分からせるにはどうすれば良いかしら。これは学園長にも相談して効率的なやり方を模索しないと――――」
なんだか難しい話をしています。
でもこれだけでは数が足りないというのは分かりました。
それなら私でもなんとかできます。
「大丈夫です、安心してください」
「?」
「へ?」
私は二人に安心してもらえるよう、精一杯の思いを乗せて告げます。
「ここにある〈魔石〉は〈エデン〉が持っているほんの少しだけです。在庫はまだまだありますよ」
キョトンとする二人は、なんだか私の言葉を上手く理解できないようすでした。
〈空間収納鞄(容量:大)〉で運べる素材の量はそれほど多くはありません。(?)
〈魔石〉は小さいので多く運べますが、それでもギルドにある魔石の10分の1も運べませんでした。
しかも、途中で小型の〈空間収納倉庫〉が溢れただけで私が持って来たのは1万個とは言っていません。
その3倍はあります。
全部〈魔石(中)〉ですね。
ギルド〈エデン〉の部屋にある〈魔石〉は全体で見れば40万個以上は確実にありますが、〈魔石(中)〉に加工するとずいぶん減ると思います。
それは〈魔石(中)〉を『錬金』するには〈魔石(極小)〉が8個必要だからです。
スラリポでゲット出来るのは〈魔石(極小)〉なので、私はそれを8個『錬金』することで〈魔石(中)〉をゲットしていました。
ギルドの〈魔石〉は、どれくらい〈魔石(中)〉があるか、正直多すぎて覚えていませんが今持ってきている数の倍くらいはあったと思います。
そのため今用意できる〈魔石(中)〉は6万個くらいですね。
それに〈エデン〉で埃を被っていた〈ハイポーション〉300個も一緒に納品してしまいます。
そして私は一度ギルド部屋に戻り、〈魔石(中)〉と〈ハイポーション〉を軽くなった〈空間収納鞄(容量:大)〉に入れ、もう一度〈総商会〉に持って行きました。
すると、メリーナ先輩の態度が変わりました。おかしな方向へ。
「ありがとうございます。ハンナ様! あなたは救世主です!」
さ、様付け……。
なんでみんな私のことを様付けで呼ぶんですかー!?
今後、ハンナちゃんの~〈魔石(中)〉簡単大量生産講座~
もやる予定なのでお楽しみに。




