#032 総商会で魔石の買い取り、ジャラジャラジャラ~
「凄く困ってたんだよー、助けてあげて良いかな?」
「おう、いいぞいいぞ~。ハンナのお好きにどうぞだ。というかあの〈魔石〉集めたの、ハンナじゃん」
ゼフィルス君がとある一部屋を指差して告げます。
ゼフィルス君が指差すのは〈エデン〉のギルド部屋の一室。
そこには以前私の部屋で雪崩を起こした大量の魔石が仕舞われています。
どこからそんな大量の〈魔石〉を手に入れてきたのかというと……、私には心強いスラリポマラソンがついています!
はい。ちょっとスラリポマラソンにハマった時期がありまして、いえ、今もなのですが、以前はそれはそれはもう時間があったので、暇があれば〈スラリポマラソン〉をして〈魔石〉を貯めていたんです。
ゼフィルス君はすぐに飽きてしまったようですけど私は続けています。
でも少しやりすぎてしまったようで部屋が埋もれてしまい、ちょうどゼフィルス君が部屋を訪ねてきたときに雪崩を起こしてしまったのは痛恨でした。ゼフィルス君からの印象がちょっと落ちたのを感じました。
でもその後ゼフィルス君は〈魔石〉を全部ギルドの部屋へと移動し、私を助けてくれました。
お説教は軽く貰いましたけど、それだけです。ゼフィルス君は優しいです。
おかげで今は部屋を広々と使えています。
さて、そんな〈魔石〉ですが、今は私がスラリポで生産したものをギルドに買い取ってもらっている形を取っています。
なので、厳密に言えば私の〈魔石〉ではありません。ギルドの〈魔石〉ですね。
ポケット魔石もいくらかありますけど。ギルドのほうがたくさんありますから。
ゼフィルス君はすぐに、なんでもないように許可をくれました。
だからゼフィルス君はかっこいいんです。
私は部屋の〈魔石〉を入れられるだけ〈空間収納鞄〉に入れて、ゼフィルス君に「ありがとう」を言って〈生徒会室〉に急ぎました。
「ハンナです! 入っていいですか?」
「どうぞ」
「失礼します! 〈魔石〉持ってきました!」
私は〈生徒会室〉の扉をノックすると、チエ先輩の短い許可の後入室します。
「早かったわね。でも助かるわ」
出迎えてくれたのはやっぱりチエ先輩でした。
ミーア先輩はどうしたのでしょう?
あ、奥で頭から湯気を出しながら書類を片付けています。大丈夫でしょうか? 大丈夫ではなさそうに見えます。
「どれくらい用意できたかしら? ここのお皿に乗せてくれるかしら?」
私はチエ先輩の言葉に我に返ります。とりあえずミーア先輩のことは考えないようにしましょう。今はチエ先輩がここの支配者です。
ですが、チエ先輩の手が指すところにあった大きな深皿、重量計の上に置かれたそれを見て私はちょっと困った顔をしました。
「あの、チエ先輩、そのお皿では多分足りません」
「え?」
私が言ったことの意味がよく理解できなかったようなキョトンとした顔をしてチエ先輩がこちらを見ます。
す、少し言葉足らずだったかもしれません。
「あの、このお皿では小さすぎて溢れてしまいます。その、いっぱい持ってきたので」
「いっぱいって……、どのくらいいっぱい?」
「えっと、とにかくいっぱいです!」
「……なるほどわかったわ、場所を変えましょう」
正直私も焦っていたのだと思います。つい力だけが前に出てしまいました。
しかし、そんな私の言葉でもチエ先輩は理解してくださいました。さすが〈生徒会〉の三年生さんです。
「〈総商会〉に出向きましょう。――ミーア、後を頼みますね」
「え!? チエちゃん冗談だよね!? 私一人でこの山を制覇するのは無理だよ!?」
「チエちゃんではありません、先輩と呼びなさい。――そういうことですから、行きましょうハンナさん」
「え? はい……」
「チエちゃん!?」
ミーア先輩の切実な声を、チエ先輩はそれはそれは凶悪なスルースキルで聞き流して〈生徒会室〉から出ます。
私も付いていくしかありませんでした。
「行かないでハンナちゃーん!!」
扉が閉まる直前、ミーア先輩の私を呼ぶ声が聞こえました。
あとで甘いものを差し入れしましょう。
場所は変わって〈総合買い取り商会〉通称:総商会にやって来ました。
ここはあまり入ったことはありません。
ゼフィルス君があまり高く買い取ってくれないと言っていたので、前に来たのはこの学園に来た初めの頃、ゼフィルス君と二人できた以来です。
どうしてチエ先輩はここに来たのでしょうか?
そう思っていたのが顔に出ていたのでしょうか、チエ先輩が歩きながら説明してくれます。
「ここは様々な物の買い取りもしているけれど、それは正直無くてもいい機能なのよ。ほとんどの素材はギルドが買ってくれるから」
確かにそうです。
ゼフィルス君も言っていました。ここは最低価格でしか買い取りをしてくれないと。
ここで買い取られた素材などは学園の購買に定価で並びますが、そのお値段はここで買い取りした時のざっと五倍らしいです。
かなりお高いです。
そのため、ギルドだって購買では買いたくありません。
そうなるとギルドはダンジョンに潜った人たちから直接買い取ることを選びます。
その方がギルドは安上がりで済みますし、売りたい人は〈総商会〉の最低価格で買い取られなくて澄むので儲かります。
ということはです。〈総商会〉はほとんど利用する人がいなくなるという意味でもあります。
チエ先輩の話は続きます。
「だから〈総商会〉はクエストなんかの管理も一緒にやっているの。依頼や納品なんかの管理をね」
そこで私は理解しました。
つまりここにはクエストの物を納品に来たということですね。
私たちはその窓口の一つに向かいました。
そこには……、どこかで見たような気がする人がいました。
「あ、チエ庶務担当、ご無沙汰です~」
「メリーナ、久しぶりね。大量納品があるの。手続きしてくれるかしら」
「わ、例のやつですね。よく手に入りましたね」
メリーナと呼ばれた窓口の人は、口では質問をチエ先輩にしつつも高速で手を動かし始めました。凄い仕事の速さです!
「ええ、こちらのハンナさんが大量に卸してくれるそうなの」
「わ、すごく助かります! あれ? あなた前に勇者君と一緒に来た方ですか?」
「あ! あの時受付してくれた先輩ですか!」
思い出しました。以前ゼフィルス君と〈総商会〉に来たときに受付をしてくれたのも、偶然にも同じ方でした。二年生のメリーナ先輩、ゼフィルス君が少しデレってしていたんです。
「知り合いだったみたいね。こちらのハンナさんが持ってきてくれたのだけど、すごい量らしくてね。少なくともうちにある深皿が溢れるくらいの量は確実だそうよ」
「へ~それは助かりますよ~。もう本当に〈魔石(中)〉は空っぽの状態なんです。納品してくれた方だって数個ですよ。ありがたいことではあるのですがもっと納品してもいいのですよ、と言いたいです。おかげで毎日ひっきりなしに確認に問い合わせてくるギルドが多くって多くって。もう、無い物は無いって言っているのに。だからハンナさんみたいな方がいて本当に助かりますよ」
どうやら私が感じていた以上に大変そうです。
「ええ。本当に立派な行ないよ。ハンナさんありがとうございます。私たち〈生徒会〉からも感謝を送らせてください」
うっ、メリーナ先輩、チエ先輩、そんな純粋な目で見ないでください。お金に目がくらんでたくさん持ってきたとは口が裂けてもいえません。
「ではこちらの〈空間収納倉庫〉へ入れてもらえるかしら?」
「は、はい! 分かりました!」
私は深く考えないようにしてメリーナ先輩に言われたとおり、〈空間収納鞄〉から〈魔石(中)〉を取り出してジャラジャラとメリーナ先輩が用意した小型で受付に乗るくらい小さな〈空間収納倉庫〉へ入れていきました。
――〈空間収納倉庫〉が溢れました。




