#003 〈生徒会〉へ出向。ハンナちゃんに補佐が付いたよ
本日2話目!
「さあさあハンナさん、表は混雑していますからね。まずは教員の出入りする裏口から入りましょう。こっちです、付いて来てください」
「は、はい、アイス先生!」
なぜこんなことになったのか。
今私はこの学園でとても偉い地位にいらっしゃるという生産専攻の主幹教諭を務められているアイス先生の後ろに付いていっているところです。
この御方は本当に偉い方で、私が専攻する〈ダンジョン生産専攻〉のトップにいる先生です。
そんな御方がこのお忙しい入学クラス分けの日とも言われるこの日に、私だけのためにお時間を作って直接案内をしてくれています。
私、一ヶ月と少し前までは普通の村娘だったのですが?
ゼフィルス君と一緒にいたさっきまでの時間がとても恋しいです。
「ではハンナさん、そのまま〈生徒会室〉へ一緒にいきましょう」
「はい。……へ?」
聞き間違えでしょうか? 今〈生徒会室〉に行くって聞こえました。
生徒会室。私の記憶違いでなければそこって学園の三大組織とも言われている〈救護委員会〉〈秩序風紀委員会〉〈生徒会〉の1つ、〈生徒会〉の本拠の名前だったと思うのですが。気のせいでしょうか?
はい、気のせいじゃないみたいです。
〈生徒会〉とはこの〈迷宮学園・本校〉の全学生2万人の中でも超エリートが集まって、学園の運営を補佐していると聞いたことがあります。つまりとっても優秀で、エリートで、選ばれた人だけが入れる場所なはずです。
そんなところへ私を連れて行ってどうするの?
私の頭の許容量がパンク寸前なのですが、アイス先生は、お年を召しているとは思えない軽快な足取りで廊下と階段を進んでいきます。
さ、さすがはお偉いさん。レベルも高そうです。
そうこうしているうちにアイス先生は大きな扉の前で立ち止まりました。
上には〈生徒会室〉と書かれた表札が見えます。本当に来てしまいました。
引きつる顔を自覚しているとすぐにアイス先生は扉をノックします。
「着きましたよ。――入ってもよろしいかしら?」
「どうぞ」
すぐに返事がありアイス先生が扉を開けて中へ入ります。
これは、私も入らなくちゃいけないやつですね。わかります。
表情筋を両手で無理矢理解して緊張を解かし、付いて行きます。
「失礼いたしますわ」
「し、失礼します!」
アイス先生が言う言葉を復唱します。上手く言えている気がしないのが辛いところです。
「ふふ、あなたがいらして失礼なことはないさ。よくいらっしゃいました」
「歓迎しよう。そちらが今期の新入生代表ですな。おはようございます」
中には5人の学生たちがいました。
襟に緑色の刺繍がある制服を着ているのは2年生ですね。それが2人。
赤色の刺繍がしてある制服を着た3年生は3人いました。
生徒会室はコの字型に長テーブルが置いてあって右に2年生2人。
左に3年生1人が座っています。
そして中央奥には一際目立つ2人の上級生さんがいました。
1人は糸目で優しげな雰囲気を持ってアイス先生を出迎えています。
もう1人の方はかた――いえ、凄い大きいです、体格が。叩いたら凄く堅そうという感想が先に来てしまったのは許してください。
大きい人から挨拶されたので私も緊張が口に出ないよう気をつけながら応えます。
「お、おはようございまちゅ!」
ちょ、ちょっと噛んじゃいました。
「ほら、隊長が怖いから女学生が緊張しているじゃないですか」
「ベルウィン副隊長。俺の顔が怖いと言うが、そう言う君の糸目も少々女子学生にはキツイのではないかね?」
「ムファサ隊長。ベルウィン副隊長。アイス先生の前ですよ」
なにやら青筋の入った顔で見詰め合う中央2人を右にいた3年生の女子の先輩が止めました。
わ、私が噛んだのは別に2人の顔が怖かったからではなかったのですが。言い出せませんでした。そっと心の中に仕舞います。
「話を進めさせてもらいますね」
アイス先生が一度断ってから話を始めます。
や、やっと私がここにいる理由が分かりますね。
ですが、その思いと裏腹に、なぜかアイス先生はこっちを向きました。
へ?
「ハンナさんにまず紹介しますね。左にいるのは〈生徒会〉の2年生、書記のヤークス君と会計のミリアスさん。右にいるのは3年生で庶務のチエさん。正面にいるのが2年生の副隊長ベルウィン君。そして3年生で生徒会長のムファサ君ね」
あ、そうですね。まずは自己紹介からですよね。
「あ、はい。私はハンナです。えっと1年生です」
ぺこりとお辞儀すると、なんだか弛緩したような空気になりました。
なんででしょう?
「彼女は知ってのとおり学園初となる快挙を成し遂げました。あの〈ダンジョン攻略専攻〉トップのLVである50を抜き、現在LV52だそうです」
「はぁ、凄いなハンナちゃんは」
「おいベルウィン副隊長、失礼だぞ。敬意を払え」
そう副隊長さんを窘めるのは生徒会長様です。
えっと、私そんなに敬意を払われることなんてしていないので大丈夫ですよ?
「これほどの逸材です。今後の未来でどれほど彼女が活躍するか、これほどの才能、しっかりと育成するべきだと私は考えます。ハンナさんはまだ入学したてで右も左も分からないと思います。なので補佐をつけます。これから新入生代表の挨拶もありますし、どなたかを付けてこれからの明るい未来をサポートしていただきましょう」
えっと、アイス先生、褒めすぎです。
私にそんな才能は、というか全部ゼフィルス君のおかげなのに。
しかもそれって依怙贔屓なのでは?
そう思いましたが口には出せませんでした。
「了解しました。我が〈生徒会〉のメンバーよりサポートを付けましょう。ですがサポート役の子も自分の鍛錬があります。サポートは授業がある日のみに限らせていただきますが、それはご承知ください」
へ? 聞き間違えでしょうか?
今〈生徒会〉メンバーが補佐に付くと言っていたように聞こえましたが……。
「もちろんです。ですが、ムファサ君なら分かると思いますよ。ハンナさんとは共に行動していた方がより深い知識を得られると」
「……なるほど。アイス先生がそこまでおっしゃるのなら是非自分が立候補を――」
「ダメに決まってるでしょムファサ隊長。いろんな意味であなたは不適格です」
「……チエ」
「ハンナさんの補佐役は同性から決めます。これは決定です。諦めてください」
3年生のチエさんの一言で生徒会長が撃沈します。
今、この3年生のパワーバランスが少し見えました。
シエラさんとゼフィルス君の関係に似ている気がします。
「ミーア、あなたの仕事は私が引き継ぐからしばらくハンナさんに付いてもらえるかしら?」
「え? 私でいいのチエちゃん」
「チエちゃんではありません、先輩を付けなさい。構いません、ハンナさんをよろしくお願いしますね」
「はーい、承ったよぉ! ――ハンナちゃん2年生のミリアスよ、気軽にミーアって呼んでね!」
「え、えっと、はい。ハンナですよろしくお願いします?」
なんだか分からないうちに私に〈生徒会〉からサポートが付きました。
えっと、これからどうなるのでしょう?
ゼフィルス君が恋しい。