#025 商売は準備から難しい。ゼフィルス君ヘルプ!
「とりあえず、当面は初級中位クラスの商品が目玉になりそうですね」
「い、今はまだ金銭面と素材と技術の面から見てもこれ以上のアイテムは作れないのです。でも採集がネックなのです」
私とシレイアさんは最近ずっとこうして意見交換をしています。
そして、この前の試作の実験で大体の目玉となる商品を選定することができました。
そうなると次はその商品の量産体制を整えなければいけません。
しかし、そこで問題に直面しました。
素材を採集してきてくれる担当者に縁が無いのです。
以前ダンジョンを一緒しました〈採集無双〉の方々は未だ初級下位が活動範囲で、私たちの要望には入ダン条件もレベルも足りません。
まだ5月も下旬になったばかりなので、1年生の活動範囲は大体初級下位なんですよね。
だからといって2年生に頼むと高く付きます。彼らは初級上位以上で活躍する実力を持っているので、わざわざ報酬の安い初級中位を引き受けてはくれないと思います。頼むと割り増し価格を要求されるでしょう。
「できれば初級中位ダンジョンで活動出来る採集担当者が欲しいですわね。ミーア先輩、2年生に初級中位ダンジョンを担当し、なおかつ通常の報酬で担当者になってくださるお知り合いはいませんこと?」
「アーちゃんそれは難しいんじゃないかな。いたとしてもすでに他の生産ギルドの専属になっていると思うよ」
「そうですわよね……。……それはそうとミーア先輩。アーちゃんとはなんでしょう?」
「アルストリアちゃんだからアーちゃん。そう呼んでもいいでしょ?」
「ま、まあ、構いませんが……」
戸惑いつつもアルストリアさんがミーア先輩に答えていました。でもちょっと嬉しそうです。
放課後の錬金工房にて最近一緒になることの多い四人で商売のアイデアを出し合います。
この学園では、学生は独自に自分が作った商品を売ってもいいことになっています。
ちゃんとフリーの商売する場所と商売許可をもらえるのですよ。学園内だけに限りますけど。
これについてはまた後ほど詳しく話しますが今は一旦おいて置きましょう。
今話しているのはそこで売る商品についてです。
本当ならミーア先輩には関係無い話なのですが、一緒になって面倒を見てくれています。ミーア先輩はとてもいい人です。
アルストリアさんは同じ〈錬金術課〉の仲間ですし友達です。いっぱい教えて貰いましたし、何か販売することになったらアルストリアさんの生産品も組み込むことになっています。
その代わり経理関係は大体アルストリアさんが引き受ける形になってしまいましたが。
ごめんね、数字苦手で。
それはともかくです。
アイテムを量産出来なければ商売は難しいです。
ゼフィルス君も言っていました。【錬金術師】は量産が出来てなんぼだって。
私のスキルも量産特化型になっていますしね。
そこまで考えて思いつきました。
「あ、そうでした! ゼフィルス君に相談してみましょう」
「ゼフィルス君? 誰ですか?」
「勇者さんのお名前ですわ」
「ハンナちゃんがいるギルド〈エデン〉のギルドマスターでもあるわね」
アルストリアさんとミーア先輩の言うとおり。
そして私の幼馴染でもあります。ここ、重要ですよ。
「それでハンナさん、勇者さんに相談とはどういうことですの?」
アルストリアさんが首を傾げて聞いてきたので答えます。
「はい。私に錬金のなんたるかを教えてくれたのはゼフィルス君でした。もしかしたら素材採集について何かアイデアをいただけるかもしれないです」
「え? あ、そういえばハンナちゃんをここまで育てたのは勇者君って話だったっけ?」
ミーア先輩が少し驚きながら記憶を探って思い出したようです。
はい。私はゼフィルス君に育てられました。なんちゃって。
私はチャット機能が使える〈学生手帳〉を取り出します。
「はい。さっそく聞いてみますね」
「ご迷惑ではないかしら?」
「大丈夫です。ゼフィルス君ですから」
「……信頼していらっしゃるのですね」
「少し羨ましいわね」
「です」
この〈学生手帳〉は本当に便利で、離れていても学園の中ならチャットを送ることができます。
最初は使い慣れなかったので四苦八苦しましたが、これもゼフィルス君が教えてくれたので今ではパパッと打ち込めるようになりました。
私は現在直面している悩みと懸案事項を書き込み、何かアイデアがないかと聞いてみました。
すると、すぐに返事が来ます。
ピロリンッ♪という音が響きました。
三人ともすぐそれに反応します。
「早いですわね。もう返事が来たんですの?」
「な、なんて書いてあるんです? 見せてください!」
「勇者君のチャットかぁ。興味あるわね」
「あ、もう、みなさん狭いですよぉ」
シレイアさんが私の後ろに回り込むと、ミーア先輩が「にししっ」と笑いながらそれに追随し、アルストリアさんが少し悩んだ後すぐに加わりました。
おかげで乗り出す皆さんで画面がよく見えません。
少しだけ手間取りながらチャット画面を開くと、そこには打開の方法がなんでもないような事のように端的に書かれていました。
「えっと。『〈採集無双〉を育成せよ』?」
読み上げると一番に反応したのはミーア先輩でした。続いてアルストリアさんの目にも理解の色が浮かびます。
「あ、あ~。そっかそっか。なんで気がつかなかったのかな?」
「所謂投資ですわね。なるほど、こちらには高レベルで攻略者でもあるハンナさんがいますわ。〈採集無双〉さんを初級中位ダンジョンに進出させる事は十分可能ですわ」
「ハンナ様は、〈アリゲータートカゲ〉一撃で倒していましたですしね」
「あはは。あれは偶然でしたけどね。でもさすがゼフィルス君、一瞬でした……」
そう言えばと思い出します。
育成はとても大事なことだとゼフィルス君は何度も言っていました。力も入れていました。
私も何度も経験してきたことで、現在進行形でシレイアさんを育成中でしたのにうっかりしていました。
本当にゼフィルス君は凄いです。これで解決が見えました。
「光明が見えたわね。早速〈採集無双〉に打診をしましょう!」
「投資をするならどのくらい回収できるかの話も必要ですわ、打診に行くのはその辺を決めてからですわ」
「これなら生産の体制が整いそうですね!」
「はい! すぐにどのくらいの素材が必要になりそうなのか、採集の見積り額なんかも決めないとですね!」
思い立ったが吉日とばかりに出発しようとするミーア先輩にアルストリアさんが待ったを掛け、シレイアさんと私がすぐにどの素材がどのくらい必要になのかを調べていきます。
その後はある程度固まった計画書を手にみんなで〈採集無双〉の方々と打ち合わせをして、無事に交渉は成立しました。
こうして、私が〈採集無双〉を初級中位へキャリーする代わりに、〈採集無双〉は私たちへ優先的に初級中位素材を卸してくれることになったのでした。
ゼフィルス君には感謝です。
あ、そろそろ私たちが商売するときのパーティ名、決めないとですね。




