#024 商売へ向けて一歩ずつ?
昨日は更新できなかったので今日は2話更新!
「〈発射〉」
サティナさんの端的な声の後、手に持っていた〈筒砲:音玉〉が火を噴きました。
これは音の弾ですね。【砲術士】さんの最も弱く、初歩の初歩と言われているスキルを模したアイテムです。撃つと破裂した瞬間バーンと爆発音が鳴りますが、威力はあまりありません。主に音で相手を怯ませノックバックさせるために使うスキルですね。
初級下位級のアイテムなので威力はお察しなんです。
「使い勝手が良い、回数も20回と破格、取り回しもしやすいです。でも威力がしょぼいですね」
「まったくその通りです」
「ですが、発射、発射、発射。……この爆発音は楽しいですね。少なくとも石を拾って投擲するよりも強いです。連射能力も高いです」
「あ、サティナさんもしかして気に入ってます?」
さっきの〈手投げ〉系よりよっぽど饒舌なサティナさんです。
お金が無かった初期の初期は本当に拾った石ころを投げてモンスターを相手にしていたそうですから、いくら初歩と呼ばれている〈筒砲〉でも、石ころに比べたら連射できる分強いですから、ちょっと感動しているみたいですね。
「そ、それならお値段、お友達価格で200ミールで、ど、どうですか?」
シレイアさんがサティナさんの様子を見て商売します。
「!! そんなにお安いのですか。是非買わせていただきます」
「それが通じるのは初級下位のモンスターだけなんですけど……」
いえ……、余計なことは言いっこなしですね。
逆に言えば初級下位のモンスターには効くのですから、備えあれば憂いなしです。オーバーキルは勿体ないですからね。
それからもサティナさんに筒砲をどんどん試していて貰いました。
サティナさんも筒砲がかなり気に入った様子で次々と撃っていきます。
このうちかなりの本数が商品化出来そうだと分かりました。
サティナさんは全部買うような勢いでしたが……。
「これで〈筒砲〉は最後ですね」
「うっ、お金が全然足りません」
「まあまあ、じっくり買っていってもらっていいですから、商品が無くなればまた作りますし」
「ありがとうございます。助かります」
サティナさんは本当に筒砲が気に入ったみたいですね。
ですが筒砲はここまで。次からは〈魔弾杖〉に移ります。
「次は〈魔弾杖〉ですね」
「はい、受け取ります。狙いの付け方は、こう……ですね」
続いて〈魔弾杖〉をサティナさんに渡しました。
これも一番威力の弱い〈火球の杖〉ですね。【魔法使い】が使う『ファイヤーボール』が撃てます。これも回数制限のあるアイテムですね。
サティナさんは杖を受け取ると、おそらく職業の囁きに従ったのでしょう、杖を的に向けました。
「行きます。発射」
サティナさんが呟いた瞬間、杖の先端から火の玉が飛び出し、そのまま的に直撃しました。
さすがサティナさん初めての〈魔弾杖〉なのに初めから命中させるとか凄いですね。
「なるほど、魔法系のアイテム。魔法ダメージなのですね」
「はい。〈筒砲〉は物理、〈魔弾杖〉は魔法ですね」
「購入するときは両方購入した方がよさそうです」
「さ、サティナさん、つ、次はこれを! どんどん頼みます、です!」
「はい。任せてください」
どうやらサティナさんは〈魔弾杖〉も気に入ったようです。
欲しい物がどんどん積み上がっていく様子に、サティナさんはうっすら汗をかいているようすですが、大丈夫でしょうか? ですが手は止まらないみたいですね。
と、そんな時です、練習場にアルストリアさんがやってきました。
「あ、まだやってましたわね。わたくしも見学させていただいてよろしいかしら?」
「アルストリアさん、いらっしゃい!」
「も、もう用事は終わったのですか?」
「ええ。一段落付きましたわ。それで、わたくしも見させていただいても?」
「もちろんですよ! アルストリアさんならむしろ歓迎です!」
「はい。私も構いません」
「もちろんなの、です!」
いつも世間知らずな私のために色々とアドバイスしてくださるアルストリアさんです。
大歓迎です。
サティナさん、シレイアさんも問題無いと頷きます。
「ありがとうございます。今は、〈魔弾杖〉の試作かしら?」
「はい。どれが売れるのか、どのくらいの威力があって何に有効なのか、色々試しているところですね」
「て、〈手投げ爆弾〉と〈筒砲〉は、終わって、今は〈魔弾杖〉を試し中、です」
アルストリアさんに説明しつつ、作業を再開します。
サティナさんが試し撃ちし、それを私とシレイアさんで意見を交わしながらメモを取っていきます。
「なるほどね。あら? これは売らないのかしら?」
「そ、それですか? 中古で残り回数が1回ですし、売れないと思いますです」
「そんなことありませんわ、これはそれなりに需要があるのですよ?」
アルストリアさんが手に取ったのは最大回数が5回でしたがすでに4回撃ってしまい、次にまた撃てば壊れてしまうという筒砲アイテムでした。
すでに中古品ですし、回数を回復してあげればまだ使えますが、このまま最期の1回を使いきれば筒砲は自壊してしまいます。
ですが、アルストリアさんはこれが売れると言います。どういうことでしょうか?
「これは払い下げ品ですわ。確かに回復しなくてはいけない手間はありますが、その分安く売ることができます。高品質な残り回数1回のアイテムは回復すれば使い回しが可能なのですから、本体のみを売るのと変わり有りませんの。ここで本体価格と回復価格という考え方ができるようになるのですわ」
アルストリアさんの話は私たちからすれば目から鱗でした。
「回数を回復するには素材が要りますわね。ですが、その素材をご自分で取ってくればコストをカットすることも可能ですの。つまり格安で、回復価格を抑えることも可能になるのですわ。フル回数の品よりも、本体のみをお求めになる方が得をするかも、ということですわね。これを利用し、新たな客層を掴むことが可能なのですわ」
さすがは大手錬金術店の令嬢のアルストリアさんです。
なるほど~。確かにご自分で素材を入手できる客層はフル回数の商品より残り回数1回のアイテムの方がお買い得です。
そういった客層を捕まえる手段として、あえて本体のみを売るという事をするのですね。
私とシレイアさんは思わずアルストリアさんに拍手をしていました。
「さすがアルストリアさんです!」
「です! でしゅ!」
シレイアさんは思わず噛むほど喝采を送っていました。
「ちょ、おやめくださいな。ちょっと実家の売り方を披露しただけではありませんの。恥ずかしいですわ」
照れた顔をしつつもまんざらでもなさそうなアルストリアさんがとても可愛らしいです。
その後もアルストリアさんから、どういう商品にどういう客層が存在するのかというアドバイスをいただき、サティナさんの協力もあって無事に試作品の試し撃ちを終えることが出来たのでした。
うん。大体掴めたかと思います。
「良い感じですわね。では次は商品の量産体制の確立と商売の目玉となる商品作りを目指してみましょうか」
アルストリアさんが満足そうに次のステップへ移ると言いました。
そういえば、私ここまで流されるように来ましたけれど……あれ? 本格的に商売をするんでしたっけ?
最初はシレイアさんに錬金を教えるだけだったのが、いつの間にか商売する話が本格的になっていました。




