#021 〈爆弾〉の作り方~ハンナちゃんの基本講座~
――〈ファウム〉。
基本にして最も弱い爆弾アイテムです。等級で言えば初級下位級ですね。
本来作るなら【爆師】系の職業が本職で、こちらは普通に〈大図書館〉でレシピが公開されています。
しかし、『錬金』で作るレシピは公開されていないので、戦闘職さんから購入する必要があります。
そのため、基本にして簡単な初心者レシピであるのに【錬金術師】で作れる子はほとんどいません。
シレイアさんもその例に当てはまるため、まずは最も簡単な物から始めます。
「使う素材は……、こ、これだけなのですか?」
「はい。基本的に〈爆弾〉アイテムを作りたいときに必要な素材は三つ。〈土台〉〈燃料〉〈鉱石〉ですね。これに中間素材や中和剤、力ある材料なんかを混ぜて性能を伸ばす形です。とは言っても〈ファウム〉では混ぜられる材料は一つまでという制限があるので、そんなに性能は伸ばせないのですが」
説明しながらも私が用意した素材は基本となる三種類。
〈土台〉となる〈大きな石ころ〉、〈燃料〉の〈油砂〉、〈鉱石〉の〈クズ鉱石〉の三つを台に並べていきます。
この〈ベース〉というのが重要で、〈大きな石ころ〉という素材を使った場合は〈ファウム〉を作ることができます。〈ポーション〉なら〈ベース〉は〈薬草〉ですね。他の素材は素材カテゴリーが合うのならなんだって使う事が出来ます。
今回であれば〈燃料〉と〈鉱石〉。これらはどんな種類の材料を使っても構いません。
その代わり〈ファウム〉を作りたければ〈大きな石ころ〉は絶対に組み込まなければいけません。そういう制約です。
正直、本当にこんなので〈爆弾〉が作れるの? と思いますが、普通に作れるのが凄いところです。
この中でも〈大きな石ころ〉と〈クズ鉱石〉は初級下位の発掘で本当に簡単に、しかもゴロゴロ手に入ります。
〈大きな石ころ〉は投擲するくらいしか利用方法がありませんが(サティナさんが重宝していると言っていました)、逆に投擲に使える物でこれほど安価なものはないですね。
〈クズ鉱石〉は〈鉱石〉の素材カテゴリーの中でも最低品質で、練習くらいでしか使われませんね。
ですが、一番安価です。それにいらないくらいガンガン取れます。
〈鉱石〉は爆弾の威力に直結します。
最後の〈油砂〉は〈燃料〉の中で最も手に入りやすい素材です。それなのに品質はそこそこあって、初級の〈爆弾〉アイテムを作る時はよくお世話になります。
〈燃料〉は爆弾の範囲に直結します。
「まずは私がやって見せますので、見ていてくださいね」
「わかったです!」
「まずは〈クズ鉱石〉を砕きます。〈削り機〉でごりごり〈粉砕〉します」
〈錬金セット〉の中には石や鉱石素材を削る〈削り機〉という機具があります。
ここにあるのは初級の〈錬金セット〉なので手動でハンドルを回さなくてはいけません。
中級のなら自動で砕いてくれるのですが。
見た目は搾油機に似ています。ハンドルを回して鉱石を押し潰し、砕きます。
「こうしてある程度砕いたら〈錬金釜〉へ投入します。そこに〈油砂〉も入れて、〈錬金棒〉でまぜまぜします。――まぜ、まぜ、ま~ぜ、ま~ぜ」
「あのハンナ様! その掛け声? は必要なのでしゅか?」
「……あ。……えっと、こほん。これは個人差があります。私は口に出すと成功しやすくなるみたいなので」
「な、なるほど~。こんな所にも秘訣があるのでしゅね。べ、勉強になります!」
「……こほん。それでですね、ある程度〈油砂〉と砕いた〈鉱石〉が混ざったら、そこに〈ベース〉となる〈大きな石ころ〉を投入して。『錬金』!」
「ふおぉぉぉ!!」
私が『錬金』を使って仕上げをすると、シレイアさんが興奮します。
私も覚えがあります。新しい物を作る時って興奮しますよね。
こうして『錬金』の光が収まった時、錬金釜には小さいパイナップルのようなアイテムがありました。
「完成です。これが手投げ小爆弾とも呼ばれている〈ファウム〉ですね。最低限の素材で作ったので威力はあまり強くはないです、多分初級下位ダンジョンのモンスターなら1体倒すのに3個は必要でしょうか?」
「とても割りに合いませんわね」
「練習用ですし、投げる練習には良いみたいですよ? 少なくとも〈石ころ〉をそのまま投げるよりかは威力が高いです」
「特定の職業持ちしか需要がない、いえ、その特定の職業持ちですら買わないでしょうね。まさに練習用ですわ」
「これが〈爆弾〉の作り方の基礎の基礎ですね。ここから威力を大きくしたり、属性を付加したり、範囲をコントロールしたりと様々な方向へ向かいます。強力な物になると、爆発した瞬間電撃が〈鳥籠〉の形になって敵を閉じ込めたり、爆発した瞬間バリアが発生し敵の攻撃を防いでくれる〈爆弾〉もあるそうです」
「もう完全に別物に進化していますわね!?」
〈爆弾〉アイテムは奥が深いです。
全部ゼフィルス君の受け売りですが。
ですが、そんな凄い〈爆弾〉なら有名になっていてもおかしくは無いのに誰も知らないのはなぜでしょうか?
「ハンナ様、私も作って良いですか!?」
「あ、はい。どんどん作ってください。終わったら練習場で試運転してみましょう」
「了解なのです!」
シレイアさんの集中力はもの凄く、あっと言う間にどんどん〈ファウム〉を作っていきます。
最初は慣れない鉱石や砂を使った作業に手間取っていたシレイアさんですが、さすが〈錬金術課〉で第2位の実力を持っている方です。
すぐにコツを掴んだようで次々と『錬金』していきました。
ここまで失敗は皆無。
シレイアさんは『錬金』のレベルがかなり高いようです。
もしかしたら私と同じように『錬金LV10』かもしれません。
ゼフィルス君はLV10が基本だと言っていましたし、みんなそれくらいなのかもしれませんね。
その後、シレイアさんが五個作った時点でもう練習は必要ないと感じた私は、みなさんと練習場へと向かい〈ファウム〉の試運転をしてみました。
シレイアさんは初めて自分で作った〈爆弾〉に目をキラキラとさせていました。
なんだか私まで嬉しくなってしまいます。
「これは、ストレス解消にいいかもしれませんわね。簡単に作れますし、量産して施設を作っても、いえ簡単に真似されますわね、それなら――」
なんだかアルストリアさんがこっそり呟いています。
何やら商売のにおいを感じ取ったみたいです。さすがアルストリアさん。
試運転が終わった後は次のステップへと移ります。
レシピはまだまだ、それこそ分厚い本くらいありますから、本番はこれからですよ。
こうして私はシレイアさんをある程度鍛えるため、協力することになったのです。
そんな様子をミーア先輩はニコニコした顔で眺めていました。
番外編で初めてレビューいただきました!
ありがとうございます!
楽しんでいただけているようで、嬉しいですね。
本編発売日まで二ヶ月を切りました! それまでは毎日更新を頑張りますので、是非これからも楽しんでいってください!




