#204 〈生徒会室〉で、ハンナは決心する!
明けましておめでとうございます!
衝撃の告白がローダ先輩から告げられました。
理由は、認識の違いだそうです。
「元々ハンナ君が有名すぎた、というのもある。言ってしまえばミーアよりも認知度が高かったんだな」
「え、でも、それだけですか?」
「いや、さすがにそれだけではこの数の推薦票は来ないな」
ローダ先輩の視線を追うとそこには山になった紙の束がありました。
そこには全て私の名前が書かれています。最近になって投票箱は私の名前で常にいっぱい状態なんだそうです。
最初の頃はミーア先輩の投票ばかりだったそうですが、その時はこれほど山になるほど投票はありませんでした。
いったいどういうことなのか、目が白黒になってしまいます。(元からです)
また、実は私もこれを機に知ったのですが、生産隊長というのは立候補の他に推薦も可能なんだそうです。
立候補している生産隊長に不満、もしくはもっとふさわしい人物がいるときは推薦投票してもいいんだそうです。
ですがこちらは立候補者とは違い、投票数で立候補者に大差を付けて勝たなければ生産隊長とは認められないそうです。具体的に言えば1000票差以上つけて勝たなければいけないそうです。
確かに、立候補もしていない人にお願いして生産隊長になってもらうのですから立候補者に1票2票勝ったとしても難しいです。それなら立候補者がやれ、となりますからね。
1000票くらい差を付ければ「あなたに生産隊長へ就いてほしがっている人がこんなにいるんですよ」と言って説得はできるでしょう。
そして、今の私がまさにそれに当てはまります。
「ハンナ君。ハンナ君を推薦する票がミーアの投票より2500票ほど多いんだ」
「ちょっと多過ぎじゃないですか?」
おかしいです。ミーア先輩って確か2000票くらい集まっていたはずです。ということは私は4500票? 学園の4分の1近い学生が私に投票してくれたことになります。
いえ、きっと気のせいでしょう。気のせいだと言ってほしいです。
「これが現実なんだハンナ君」
「…………」
えっと、本当にどうしたら良いのでしょう? 見てください、ミーア先輩なんてさっきから窓の外を見て動きません。何を見ているのでしょうか?
「ミーアのことはそっとしておいてやりたまえ」
「あ、はい」
少し前まであんなにおだやかで慈愛に満ちていた表情をしていたのに、見る影もありません。ろ、ローダ先輩の言うとおり、そっとしておきます。
「さて、困ったことになったな。学園で推薦なんて制度を知っている学生なんて限られている。学生手帳のとあるページには書いてあるけれど、そんなところをわざわざ読む学生なんて少ないからね。つまりは誰かがハンナ君を生産隊長にしようと暗躍している、ということになる」
「ハンナはどうするのじゃ? 希望するなら〈秩序風紀委員会〉に連絡してしょっ引いてもらうことは可能じゃ。ただ、不正票でなければ投票数は覆らないのじゃ」
「えっと、それなら保留で。悪意があったのじゃなければ捕まえるのも可哀想ですし」
「ハンナは優しいのじゃ。迷惑を掛けたらそれが善意でも反省させ、行動は改めさせなければまたやるのじゃぞ? 世の中には間違った善意というのもあるのじゃ」
そう私を諭すのはフラーラ先輩です。確かにその通りかもしれません。ですが、本当に私が必要だと思ってしてくれたことなら責めにくいですよぉ。
「まあまあフラーラ。今はハンナ君を生産隊長にするか否かだ。僕は是非ハンナ君に次を引き継いでもらいたいのだけど」
あ、視界の端でミーア先輩がビクンと動きました。
とてもこちらが気になるみたいです。
結局話は纏まらず、とりあえずは私は立候補者ではなく、ミーア先輩が生産隊長立候補者であると色々な手段で学生全体に伝えることになりました。
これでミーア先輩の票があと1500票集まれば私は降りることが出来ますし、良い案だと思いました。
数日後。
「ハンナ君の票だけど、ミーアとの差は3000票になったよ」
「差が開いています!?」
おかしいです。真実を伝えたはずなのになぜ立候補もしていない私に投票が来るのですか!? 差が縮まるどころか逆に開いています!?
「ハンナ。もう諦めたらどうじゃ? 投票締め切りは今日じゃぞ?」
「…………」
生産隊長。つまり今のローダ先輩たちです。
私にできるでしょうか? あと今まで頑張ってきたミーア先輩を差し置いて私が生産隊長になるのはやっぱり違うと思うのですが。
ど、どうしましょう。
「うむ。やはりハンナだけでは決心に至らないようじゃ」
「まあ、分かっていたけどね。では助っ人に参上してもらおうか」
「ふえ?」
フラーラ先輩とローダ先輩が席に座り手を叩くと、〈生徒会室〉の扉がガチャリと開きました。
中に入って来たのは私の知っている人、というかゼフィルス君でした。
「失礼しまーす」
「ゼフィルス君!?」
「うむ。ハンナ1人では決められなかったようじゃしの。〈エデン〉への説明も兼ねてギルドマスターに参上願ったのじゃ」
「〈エデン〉ギルドマスターゼフィルス、召喚に応じて参上したぜ!」
「ああ、ゼフィルス君がノリノリだ」
この時点でなんとなくこの後の展開が予測できてしまいました。
それからローダ先輩とフラーラ先輩はゼフィルス君に現在の状況を説明。
私がなぜか推薦過多で生産隊長に抜擢されそうということを知ったゼフィルス君は、最終判断は私に任せると言ってくれました。
それなら私の心は決まっています。やっぱり今まで頑張ってきたミーア先輩こそ生産隊長になるべきだと思うんです。――そう思っていたのですが。
「はい! ハンナちゃんが生産隊長になるなら私は副隊長になるわ!」
「あれ!? ミーア先輩!?」
まさかのミーア先輩の言葉で私の思いは行方不明になってしまったのです。
ミーア先輩ったら、ここ数日で生産隊長の座を諦めてしまったのでした。
あの選挙活動も私のためだったと思えば受け入れられるそうです。
「ミーアはこう言っているけれど。どうするハンナ君?」
「え? で、でも私には〈エデン〉が、それに生産隊長なんて荷が勝ちすぎる気が――」
「そんなことないよハンナちゃん。ハンナちゃんはもっと自分の実力に自信を持つべきなんだよ!」
「は、はい!」
「大丈夫、ちゃんとフォローするから。副隊長に任せて!」
「み、ミーア先輩がもう副隊長気分です!?」
この時点でああ、やっぱりなぁという思いでしたが、ミーア先輩に持ち上げられ、ローダ先輩やフラーラ先輩にも私なら出来ると言われ、アルストリアさんとシレイアさん、そしてサトル君まで役員として支えてくれると言ってくれて、とても心がぽかぽかしてきたんです。嬉しい、誰かに期待されるのはプレッシャーですが、認められるのはとても嬉しいと思います。
ゼフィルス君の方を見上げたら、ゼフィルス君は何も言わなかったけど笑みだけは絶やしませんでした。長い付き合いでそれは私なら出来るって信じている顔だと分かってしまいます。それが決め手でした。
「わかりました。みなさんが支えてくれるなら。やってみます」
私は力強くそう言ったのでした。




