#199 〈秘境ダン〉の本格的な楽しみ方?
土曜日なので本日3話投稿!
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――〈秘境の温泉ダンジョン〉。
ここのダンジョンはその名の通り、秘境が階層の各地に温泉のあるダンジョンです。
先ほど温泉宿でここの温泉を全て制覇できるでしょうか、なんて考えていたのに、そんな程度ではありませんでした。ちょっと笑ってしまうくらいこのダンジョンには温泉だらけだったんです。
しかも、ただの温泉ではないんです。
見たことも無い変わった温泉が各地にあるんです。
今居るのもその1つ、〈秘境ダン〉の14階層、ゼフィルス君が〈湖温の秘湯〉と呼んでいた、まるで湖のような、周囲を山で囲まれた秘湯だったのです。
「はぁ、広々ですわぁ」
「広々というか、も、もうこれって湖ですよね?」
「ということは、これは水浴びならぬ温泉浴びですか?」
「あははは、ハンナさんその表現面白いです」
「でも、こんな大きな温泉、本当に初めての体験です。これなら泳げてしまいますね」
アルストリアさんが温泉に仰向けでぷかぷか浮いて、シレイアさんが全周囲温泉という状況におののき、私も心地よすぎてぼーっとしながら相槌を打ったら、マリアさんに笑われて、メリーナ先輩はスィーと泳ぎ出しました。
みなさん、この温泉を満喫&楽しんできていますね。
「おーいハンナたち~楽しんでるか~」
「あ、ゼフィルス君~楽しんでるよ~」
満喫していたら湯気の向こうでゼフィルス君が近くを通りました。
どこに行くつもりなのか、ゼフィルス君は先ほどからふらふらしながら楽しんでいます。
「はぁ~、まだ温泉に男性がいらっしゃるのが慣れませんわ」
そう、思わずといった様子で胸を隠していたアルストリアさんが溜め息を吐きました。
なぜ温泉に異性がいるのかというと、この温泉は混浴なんです。
もちろん水着着用です。とはいえアルストリアさん的にはまだ慣れないみたいですね。
「アルストリアさんは胸が大きいですもんね。あの体勢なら仕方ありません」
シレイアさんがそう言って頷いていました。そういえばアルストリアさんは仰向けでぷかぷか浮いていましたからね。豊かなバストが温泉から浮いていました。確かにそれを見られたら恥ずかしいです。
とはいえ湯気で見えなかったと思いますけどね。ゼフィルス君、結構遠くにいましたし。
「水着で温泉なんて、ちょっと新鮮。ほんとに温かい湖って感じね」
「メリーナ先輩は泳ぐのが好きなんですの?」
「ええ。こう広くて貸し切りだと、思わず泳ぎたくなってしまうわ」
「それなら私も一緒に泳ぎます。向こう岸まででどうです?」
「あら? でも浅いから泳ぐときは気をつけないとダメよ?」
「分かっていますよ。ではレディ、ゴーです!」
メリーナ先輩とマリアさんはここを温泉ではなく温かい湖みたいな感覚になってしまったみたいです。お二人で泳いで行ってしまいました。
「私たちも探検にでも行きますか?」
「いいですわね! これだけ広いのですからただ浸かっているというのは勿体ないですわ」
「なるほどです! ここの温泉ってそうやって楽しむのですね!」
私の提案にアルストリアさんとシレイアさんが感銘を受けたみたいな声を出しました。
普通の温泉は肩まで浸かってジッとしているものですが、ここの温泉はむしろ暖まりながら探検するのが正解な気がしてなりません。ゼフィルス君もさっきからふらふら歩き回っていますからね。
というわけで3人で移動すると、結構色々と発見がありました。
温泉には微妙に流れがあって、その上流では温泉の噴き出し口が巨大な杯の中から出ていて、その杯がギルドメンバーで満席になっていたり、逆に下流では幻想的な洞窟があったりしました。
周囲では温泉の熱で雪の溶けた山肌に大量の採集ポイントが現れているのを見つけてみんなで採集したり、罠に引っかかって大きな雪玉が温泉に転がり込んで大量の水しぶきを上げたのち、溶けた雪玉の中から宝箱が出てきたりしました。ちなみに〈木箱〉でした。
中にはなぜかアイス系の料理アイテムのレシピが入っていました。
思わず食べたくなったので、上がって雪と温泉の景色を見ながら持って来ていたアイスを食べたりしました。美味しかったです。
「ふう。満足だよぉ」
「なんだか1年分の温泉に入った気分ですわ」
「体全部溶けちゃうかと思いました」
集合が掛かったとき、私もアルストリアさんもシレイアさんも、大満足~という風だったのですが。
「なに言ってんだハンナ、まだまだ温泉はこれからだぜ? リクエストがあったので次に行きます!」
「「「え?」」」
そんなゼフィルス君の宣言で私たちはハテナマークを浮かべました。
実はここの温泉は、まだまだ始まりだったのです。
今度は15層にあるドーナッツ状の流れる温泉、〈流輪の秘湯〉で温泉に流されて楽しみ、その次は16層の山から滑り台で温泉に着水するアトラクション、〈滑山の秘湯〉で楽しんだりしました。
もう色々と凄かったです。こんな温泉があるんだ!?
ゼフィルス君、こんなところまで調べたなんてどれだけの熱意で計画を組んでくれたのでしょう?
これは私たちも楽しみ尽くさなきゃ失礼というものです。
というわけで楽しみ尽くしてしまいました。
「ふう。大満足です」
「ですわね。――でも」
「戦闘職のみなさんは凄いですね~」
温泉で英気を養ったら何をするのか?
ゼフィルス君曰く、ボス戦みたいです。
私たち生産職が見守る中、戦闘職のみなさんが20層のフィールドボスに挑んで無双していました。
ここのボスって上級ボス並の強さで突破出来た人なんて本当に皆無、みたいな触れ込みがあったはずなのですが、あ、倒しちゃいましたね。
これが〈エデン〉の旅行の普通の光景です。




