#196 ゼフィルス君のお部屋に集まって年越しです!
〈エデン店〉は大盛況のまま数日が過ぎ、色々あったこの1年もようやく終わりの日を迎えました。
そう、年末です。
この日はちょっと特別です。
私たちはこの日ばかりは〈エデン店〉の閉店時間を早め、みんなで色々と学園を回ったりしました。
この学園に来たのが4月の始めで、もう12月の終わりです。
長かったような、あっという間だったような、なんだか不思議な感覚でした。
「年末、なんですのね」
「はい」
「色々なことがありましたね」
年始のイルミネーションの飾り付けをする【クラフトマン】の学生を見ながらアルストリアさんが呟き、それにシレイアさんと私も頷きます。
やっぱり思い出すのはこの濃かった1年間です。いえ、まだ9ヶ月ですが。
もう村での思い出よりも学園での思い出の方が多いくらいです。
ゼフィルス君に誘われて〈エデン〉に参加して、なんだかひょんな事からハンナ様なんて言われ始めちゃって。ゼフィルス君は相変らず止まらずに学園の最先端を突き抜けていくし、なんだか大変だった思い出の方が多いような?
いえ、気のせいということにしておきましょう。
素晴らしい出会いもたくさんあったんです。
シエラさんたち御貴族様や王女様であるラナ殿下とパーティを組むことになったり、今はもう慣れましたけど最初は本当に大変でした。
あ、また大変な方を思い出してしまいました。
「私、ハンナさんやシレイアさんと会えて良かったですわ。今、毎日が凄く充実しているんですの」
あ、アルストリアさんが眩しすぎます!
で、でも私だって同じ気持ちです。
「わ、私も同じです。アルストリアさんとシレイアさん、ミーア先輩たちと出会えて心から嬉しいと思っていますよ」
「私も同じ、でしゅ!」
シレイアさんはいつもの調子でした。
重要なところで噛むクセは、この1年では直りませんでしたね。
それからも日中は久しぶりに3人で満喫し、夕食の時間が近づいてくるころになって解散することになりました。
「ハンナさんはこれからどちらに行かれるんですの?」
「えっと、実はゼフィルス君の部屋にお呼ばれしているんですよ」
「まあ!」
「そ、それはおめでたいです!」
「あ、いえ、私だけではなく他のメンバーも一緒です。〈エデン〉の集まりなんです」
「それでも殿方の部屋で新年を迎えるということですわよね? それもあのゼフィルスさんの部屋で?」
「そ、そんな贅沢なことが出来る平民は世界が広くてもハンナ様だけです! 凄いです! 憧れます」
「その、えへへ」
年末にはちょっとしたイベント、というかとある制限が解放されるのです。
それが、消灯時間です。
本日ばかりは消灯時間が延び、午前1時まで寮内であれば起きていても良いことになっているんです。つまりは年越しを仲の良いみなさんで過ごすことが出来るというわけですね。
そして私はゼフィルス君たちに呼ばれていたりするのです。
うん。朝ゼフィルス君の部屋に行くのは慣れているけど、夜、しかも深夜にゼフィルス君の部屋にいるなんて、ちょっとドキドキします。
ちなみに外泊の場合は手続き後、女子部屋でしか泊まれない規則になっているので、年越しを祝ったあとはシエラさんの部屋でお泊まりの予定です。
なので夜を一緒出来ないアルストリアさんとシレイアさんとはお昼から学園を回らせていただきました。
アルストリアさんとシレイアさんはミーア先輩も誘って夜を過ごすみたいです。
私たちは一度福女子寮に戻ってくると、私は外泊用に荷物を纏めて出発します。
「ハンナさんいってらっしゃい」
「思いでいっぱい作ってくるのですよ~!」
「は~い」
廊下にいたアルストリアさんとシレイアさんに見送られ私は、待ち合わせ場所へと向かいました。
「お、ハンナ来たな」
「ゼフィルス君! こんばんは」
「おう。こんばんは」
そこではすでにゼフィルス君が待っていてくれました。よく見ればシエラさんやルルちゃん、タバサ先輩もいます。みなさんにご挨拶します。
今日の集まりは14人、ずいぶんたくさん集まりました。
みんなで一度食堂でごはんを食べ、そのままゼフィルス君の部屋へと向かいます。
「うわぁ、ここがゼフィルス君の部屋なんだ」
「私は2回目だけど、今日の方がドキドキしてるわ」
初めてゼフィルス君の部屋に来たと言うトモヨさん、2回目とは言ってもまるで初めて来たようにキョロキョロ部屋を見渡すタバサ先輩など、ゼフィルス君の部屋は一気に喧騒に包まれました。
そういえば、ここに集まった人たちの中で男子はゼフィルス君だけですね。
女子の皆さん、家捜しはほどほどにしてくださいね?
「よーし! ご主人様が何か隠していないか暴くわよ! 来てフィナちゃん! ベッドの下よ!」
「仕方ありませんね」
「こらこらこら、なにが仕方ないというのかね?」
ゼフィルス君の部屋は貴族舎なのでとても広いです。
それこそ14人も居てまったく窮屈ではないほどに。
でもここに入ったことのある人は実はあまりいないらしいです。
「え? シエラさんもゼフィルス君の部屋に来たのは3回目なのですか?」
「ええ。最初【盾姫】に就いた時と、迷子の先輩を引き取ったときくらいで、その時もあまりゆっくりは出来なかったからなんだか新鮮な気持ちよ」
〈エデン〉のサブマスターのシエラさんでも3回目というのはびっくりしました。
私は、ちょっと思い出せないくらい来ています。これは永遠に胸の中に仕舞っておきましょう。
「ねえエミ、ユウカ、これって何かな?」
「う~ん、マグカップだね~、女性用と男性用の」
「さ~て、これはいったい誰のなんだろうね?」
「あ、あ~そのマグカップ私が前に忘れちゃったものです。ゼフィルス君取っておいてくれたんだね」
「お、おう。そうだそれ渡すの忘れてたな、持って帰ると良いぞ?」
「う、うん!」
危ないシーンも少しありましたけど。
事前に歯ブラシとか小物とか全部片したと思ったのにマグカップだけ残っていたってどういうこと? あ、危なかった~。
シエラさんから視線を感じる気がしますが、きっと気のせいです。
もう忘れ物は無いはずです。うん。
抜かりは無いです!
「ハンナ?」
シエラさんからお声が! な、なにか抜かりましたか!?
「ゼフィルスがお茶を用意してくれるみたいなの、ちょっと手伝ってあげてくれないかしら」
「な、なんだ。もちろん良いですよ」
ふう。ミッションはコンプリートしました。抜かりはありませんね!
「なんだかハンナって、ゼフィルスのキッチンを使い慣れているように見えるのよね、なんでかしら?」
シエラさんのセリフに「りょ、料理に慣れているからじゃないですか?」で誤魔化しました。誤魔化せていると思います。
それからは色々と遊んだりおしゃべりしたりしました。
はしゃいでいると時間はあっという間に過ぎていくもので、もう新年のカウントダウンの時間になっていました。
「もうすぐ年明けね」
「カウントダウンはするか?」
「うん! やろやろ!」
みんなでカウントダウン。これは定番ですよね。
「じゃあカウントダウン行くぞ! ――10!」
「「「9! 8! 7!」」」
「「「6! 5! 4!」」」
「「「3! 2! 1!!」」」
「「「明けましておめでとう~!」」」
「「「年載せおめでとう~!!」」」
年が明ければみんな一斉に1歳年載せです。
年が明けましておめでとうと無事歳が載せられたことをみんなで祝いました。
こうして私たちは消灯時間ギリギリまで騒いでいたのでした。




