#019 ハンナの新しい生産専用パーティ?
「それなら商品の生産を手伝ってもらうというのはどうでしょう? 端的にパーティを組んでもらえばいいと思います」
私の提案にアルストリアさんはすぐに考えをめぐらせてくれました。
「……なるほど、あのサティナさんのような人向けの商品ですわね? パーティを組むのも良いアイディアだと思いますわ」
レシピはギルドの共通財産でもあるので貸し出しはやはり難しいです。ですが、貸し出さずに私のレシピでシレイアさんが生産できる方法があります。
それがパーティやギルドなど、同じ組織内で共有するというやり方です。
シレイアさんには私の商品を作るための助手になってもらうのですからパーティを組んでしまえば良いのです。
「はい。私のレシピで作っても良いので、それを対価に商品の生産を手伝ってもらう形で。もちろん、素材は私が持ちますよ」
「も、もちろんです! 任せてください、です!」
シレイアさんが即で回答します。できれば熟考してほしいところ……。
ですが考え自体は悪くは無いと思うんです。
これなら利益にもなりますし、余らせている素材も処分できるので一石三鳥ですね。
実は〈エデン〉ではあまりにも大量に素材を手に入れるので、売るのが追いつかず、余らせている素材がたくさんあるのです。
あとマリー先輩から買い取り不可と言われた物や、いつか錬金に使うかもととって置いたものが大量にありますから、素材は当分考えなくていいですね。
「シレイアさんは本当に私とパーティ組むのは構わないのですか? 別にすぐに判断しなくても大丈夫ですよ?」
「は、はい! ハンナ様の下で学べるのはこれ以上無い対価だと思います!」
「ええ……、私そんなすごい人では無いですし、無名もいいところなんですけど……。売ったのはサティナさんが初めてでしたし……」
「無名……?」
なぜか無名の部分をアルストリアさんが復唱しています。
なぜでしょう? 無名、ですよね? 引っかからないですよね?
そう思ってアルストリアさんの方を見ましたが、返ってきたのは首を傾げる仕草でした。
おかしい……。
「こほん、わかりましたわ。では細かいところを詰めましょう、ハンナさんにどれほど納品すれば、シレイアさんが個人的にレシピを使っていいのか、その回数など決めておかなければなりませんわ」
本当はお友達価格というか、パーティで自由に見れるようにしたいですが、あまり良くないと先生も言っていました。
友達に貸していたらそのまま借りパクされた、ということもあるそうで、レシピの取り扱いには特に気をつけるよう授業で習いました。
親しき仲にも礼儀あり、という言葉もありますし、友達同士で在学中にこういう契約をしてみて学んだ方が良いという話も聞きます。
「まずはシレイアさん、攻撃アイテムを生産する目的はなんでしょう?」
「は、はい! まずは自分自身の成長のため、練習目的です! あと、前回のダンジョンのこともありますし、攻撃アイテムは作りなれておいたほうが今後のためになると判断しました!」
「そうですね。攻撃アイテムは便利です。確かに戦闘職さんと比べると持続性に欠けますし、なにより費用が掛かりますが、護身用として悪くは無いと思います!」
私は強く攻撃アイテムをオススメします。
回数制限もありますし、ずっとは使い続けられませんが、威力は戦闘職さんにも負けません。その分費用は掛かりますが。
サティナさんも苦労していると思います。
ですが、生産職なら自分で生み出せる分、費用の負担は抑えられますし、ダンジョンでは頼りになりますからね。
ゼフィルス君に相談して、私みたいな生産職でも戦える戦闘手段をいろいろ試して行き着いたのがこのスタイルなので、間違ってはいないはずです。
「自分で使う用ですか……、ではシレイアさんはハンナさんのレシピで作った物を商売に使ったり売ったりすることはあまり考えておりませんのね?」
「はい! なるべく経験を積みたいです! 作った物は全てハンナ様に渡します!」
アルストリアさんがカリカリと細かい事を決めてはメモを取っていきます。
そして教室の端にある書類棚から二枚の書類を持って来ました。
「では契約書を結びましょう。見届け人はわたくしが務めますわ。お二人ともこの契約書にサインをお願いしますわね」
アルストリアさんが簡単に書いて私たちに見せてきたのは契約書と書かれた紙でした。
これは【魔道具師】さんが作る契約書、のコピーですね。
正式な契約書では無く、ただの紙です。つまりは練習用。
正式な物なら契約が発生し、片方の意思ではこれを破れない事になっています。
たしか、破棄するには双方の同意が必要だと先生が言っていました。
なんでそんな契約書、のコピーが教室に置かれているのかというと、生産職や営業職ではそれなりに契約書を結ぶ機会が多いからだと聞いたことがあります。
正式な物はアイテムなのでお高いのですが、コピーならたいした金額ではありません。
そのため、学生たちが将来経験するための練習用として〈生産専攻〉では各教室にコピーが置いてあったりします。
私、実はこれ使うのは初めてなんです。
アルストリアさんは慣れた様子ですね。さすがです。
契約書のコピーにはなんの縛りもありませんが、問題になった場合には証拠になって学園が対処してくれるのでそれなりの効力はあります。
今から契約書の扱い方を学ばせる狙いがあるとのことです。
私とシレイアさんは契約書二枚にそれぞれサインを書きました。
「出来ました」
「よろしいですわ。しっかり見届けさせていただきました。では早速錬金部屋へ向かいましょう?」
「あ、その前に素材持ってこなくちゃです。先に行っていてください」
「あ、そうでしたわね。気持ちがはやってしまいましたわ」
落ち着いているように見えましたが、アルストリアさんも実は楽しみなようです。
私もすぐにギルドに行くとゼフィルス君とセレスタンさん、それにシエラさんに素材の使用許可を取り、レシピの件も了承して貰いました。
ゼフィルス君からプレゼントしてもらったものですが、ゼフィルス君は男前なので「ハンナの好きに使ってくれて良いぞ」と言ってくれたのです。
こういうところ、かっこいいです。
それからギルドで保有している素材を〈空間収納鞄〉へ移し、私は錬金部屋へと向かいました。




