#187 Aランク戦当日の朝、応援団姿の〈幸猫様〉。
「わー! ゼフィルス君、なんか、なんだか学園がすごいことになってるよ!?」
「お祭り騒ぎだな。今日は12月24日のはずなんだが、大晦日かよって感じの出店具合だぜ」
「? 24日が関係あるの?」
「いんやこっちの話だ」
私は小首を傾げてゼフィルス君を見ましたが、本当になんでもない話のようでしたのでそれ以上聞きません。
そんなことよりも学園がすごいことになってるんです!
昨日と一昨日は臨時〈エデン店〉で日中は大忙しでした。
だから知らなかったのですが、なんだかもの凄く出店が多く出ているんです。
「なんか〈学園出世大戦〉の影響らしいぞ。外からもたくさんの来賓やらお客さんが来ているものだからこうして露店が開かれているんだと」
「しょ、商魂たくましいね」
「ハンナもだけどな」
〈学園出世大戦〉ってやっぱり大規模なお祭りなんですねぇ。
あと、ゼフィルス君はこう言いますが、私、商売はそんなに得意じゃないよ?
商売が上手くいっているのはアルストリアさんのアドバイスがあってのことです。
アルストリアさんが居なければ、ぷるぷる。
「ふっふっふ、とりあえず食うぞハンナ! 露店が俺たちを待っている!」
「あ、待ってよゼフィルス君ー」
今私たちがこうして露店巡りをしている時間はまだ早朝です。
ですが気合いの入った露店の人たちはすでに店を開き、良い匂いを嗅ぐわせ、お腹を誘惑してきます。
うう、ちょっとだけだよゼフィルス君?
うん。ちょっとだけなら良いと思います。
今私たちが向かっているのはBランクのギルドハウスです。
あんまりのんびりしていると集合時間に遅れてしまうかもしれませんが、まだ集合時間には結構あるので大丈夫なんです。
そして気が付けば何個もの露店の品を持っている私たちが居ました。
今更ながらに思います。
「ねえゼフィルス君。本当にこんなことしていていいのかな~?」
「ハンナは出番無いんだからいいんじゃないか? これ、美味いぞ。ハンナもどうだ?」
「私は無いけどゼフィルス君はすごく大事なのがあるでしょ~もう。でも頂戴。はぐっ、ん! これ、すごく美味しい!」
「はは、だろ?」
そう、私は出番がありませんし応援だけなのでいいんです。
でもゼフィルス君は大事なAランク戦に出場するのです。
こんなところで油を売っていていいの? ってちょっと思いますよね。
ゼフィルス君はとても良い笑顔でお肉を食べていましたけど。
でもこのお肉美味しい。凄く美味しい。〈上ミノ串〉ってこれ〈食ダン〉のレアボスのお肉じゃなかったでしたっけ?
なんだか久しぶりに食べました。美味しかったぁ。
お礼に私のもゼフィルス君にあげましょう。
「じゃあゼフィルス君にもこれあげるね。フォークが1つしかないから食べさせてあげる。はい、あーんして」
「あーん、ぱくり」
自然に、本当に自然にゼフィルス君が私のフォークをパクリってしました。
瞬間、私はとんでもないことをしてしまった気がしてあわあわします。
「はわわ! なんかとんでもないことしちゃった気がするよ!?」
「今頃かよハンナ」
私のフォークを口に入れてもなんでもないことのように笑っているゼフィルス君が少し憎たらしくなりました。
シエラさんがよくするジト目で見てあげます。
すると、なぜかゼフィルス君が喜んでいる気がしました。
あれ? 気のせいかな。
そんなことを思っていると、いつの間にか私たちはギルドハウスに到着していました。
シエラさんが居ました。
「ゼフィルス、第二アリーナへ行くと言って別れた割にはずいぶんと楽しそうね」
「おう! 出店がたっくさん出ていてな。まだ7時半なのにもうやってんだよ! しかも良い肉を使っててなぁ」
「…………そう」
「は、はわわ!」
シエラさんの視線が私を向きましたが、私はつい首を振って否定しました。
何を否定していたのか自分でも分かりません!
シエラさんは1つ息を吐くとそのままクルリと後ろを向いてギルドハウスへと案内してくれます。
「まあいいわ。入って。すぐにミーティングを行ないましょう」
「オーケー。そうだ、後でみんなで例の〈上ミノ串〉買いに行かないか? すっげぇ美味かったんだよ」
「……いいわよ」
少し間があった気がしましたが、それでシエラさんの雰囲気がかなり緩和したので少しホッとしました。
こうしてゼフィルス君たちは〈学園出世大戦〉Aランク戦の作戦を練るためのミーティングに向かいました。
一緒にギルドハウスに入ると、そこはすごくファンシーでした。
なんとぬいぐるみがいろんな応援団の格好をしていたんです。
「あい! ルルたちが勝てるよう、ぬいぐるみさんたちにも応援してほしかったのです!」
どうやらルルちゃん主導だったみたいです。
すごく可愛いですね。
あ、〈幸猫様〉と〈仔猫様〉です。
応援団のハッピを来て、わぁ、可愛いです。
こんな応援団に応援されたら上位入賞間違いなしだよ。
「可愛いですねルルちゃん! これならきっと勝てますよ!」
「愛!」
ルルちゃんの返事には愛が込められている気がしますね。
「って、学ランを着た〈幸猫様〉がいる!?」
あ、ゼフィルス君も気が付きました。
「私が提案したのよ。〈幸猫様〉は〈エデン〉の一員よ! せめて応援団としてみんなと心を1つにするべきだと思うの!」
「な、なんだってー!?」
「見てよゼフィルス、この〈幸猫様〉の姿、かっこいいでしょ?」
「すげぇかっこいい……これはときめく!」
「ふふん! サプライズは成功ね!」
ラナ殿下がとてもドヤ顔でした。
どうやら〈幸猫様〉と〈仔猫様〉を応援団の格好にさせたのはラナ殿下みたいです。
そういえば〈エデン〉で〈幸猫様〉に触れられるのはラナ殿下だけでしたね。
「ゼフィルスがトリップしながらお祈りを始めたわ」
「うむ、これはしばらく戻って来ないな。成功と見て良いだろう」
ああ、ゼフィルス君が行ってしまいました。
これはいけません。ここで起こしておかないと深く行ってしまいます。
私が起こしてあげないと。
「ぜ、ゼフィルス君、そろそろ戻ってきて! もうみんな来たよ! ミーティング始まるよ!」
「ふにゃ? あれ? 俺のパラダイスは?」
「あ、やっと戻ってきてくれたよぅ」
無事ゼフィルス君が戻ってきました。ほっと一息ですね。
紆余曲折ありましたが、ようやくミーティングが始まりました。
 




