#186 マッスルバージョン新コテちゃん――完成!
「えっと、性能を上げるには見た目よりも中身が重要。ふむふむ」
私は1人、自分の部屋でゼフィルス君メモを読みふけります。
ゴーレムは本当に奥が深いようで、様々な種類の加工台でアップデート出来るのだそうです。加工台の種類によってはゴーレムの外装を作れたり、あるいは武器を作れたりするそうで、そうして強化していき最高のゴーレムを目指すのがロマンなのだと締めくくられていました。
そして、〈エデン〉で唯一手に入れたのが〈魔錬筋肉加工台〉。
これはゴーレムの内側、中身を強化する加工台で、ゼフィルス君曰く、かなりの当たりとのことでした。
「〈魔錬筋肉加工台〉で内側を強化しておけば、様々な衝撃に対応可能で、厄介な反作用にも耐えることが出来る……反作用ってなんだろう?」
メモには時々分からない言葉が混じっていることもありますが、ゴーレムを作ること自体に影響はありません。
それに、作っている最中でなんとなくニュアンスが伝わることもありますし。
「あ、反作用って反動のことなんだ。メモメモっと」
部屋には辞書もあるので調べることもできます。
つまり、砲撃などを放つときの反動に強くなるってことですね。
腕力なんかも強化出来るみたいなので、それは大型の武器を装備出来るということでもあります。
今は〈加工台〉が無いので武器は作れないのですけど。
「でも、武器って本当に〈加工台〉で作ったものじゃないといけないのかな?」
別に普通の武器でも装備出来る気がします。もしできれば大幅なパワーアップは間違いありません。
試しに私の〈メイちゃん四世〉を持たせてみました。もちろん改良したコテちゃんの右手に装備してもらいます。
でも、コテちゃんは掴んだはいいですが、力が入らないようで振るうと簡単にすっぽ抜けてしまいました。
何度か武器を変えたりして検証してみたところ、やっぱり普通の武器では装備出来ないようです。
試しに武器を握らせるのではなく、コテちゃんの腕にくっつけてみました。固定してみます。
するとコテちゃんが明らかに機能不全を起こして動かなくなってしまいました。
慌てて固定した武器を外すとコテちゃんはちゃんと動いてくれました。
やっぱり〈加工台〉でちゃんと作った武器じゃないと装備できないみたいです。
メモメモ。
「となると、やっぱり武器無しのステゴロってことになるよね。そうなるとゼフィルス君はスタンダード型が一番良いって言ってたけど」
明日の試作品投入では、前回のコテちゃんとは違う、パワーアップしているところを見せたかったのですが、見た目が変わらないとインパクトに欠けます。
だからといってゴーレムの姿を変えると、その分いろんなところを削らなくちゃいけなくて能力が落ちます。
ゼフィルス君曰く、見た目を変える〈加工台〉を使わないのであれば二足歩行の人型ゴーレムが一番性能が良いらしいです。
時間もありませんし、見た目は変わりませんけどやっぱり人型ゴーレムにしてみようと思います。
「じゃあまずは練習から。コテちゃんはそのまま〈加工台〉の上に居てね。私は配合に使う素材を作っちゃうから」
モンスターからのドロップをそのまま使うより、加工した方が遥かにゴーレムとの同調率(?)というのが上がるらしいです。要は加工した方が強くなるということですね。
私は手始めにゼフィルス君が採ってきた〈ミスリル鉱石〉を加工して、〈ミスリルのインゴット〉にします。アルルちゃんと比べると拙い素材ですが、どうやら『錬金』系で加工することが大事らしいので自分で作りました。
ここにゼフィルス君が狩ってきたという徘徊型の素材を加え、〈真素材〉へと加工します。
「『魔釜』!」
錬金釜の中がピカッと光り、徘徊型の素材が消えて普通よりも大きく輝きを増したインゴットだけが残っていました。
これで〈ミスリルのインゴット〉の〈真素材〉が出来ました。
コテちゃんに〈加工台〉の横に寝そべってもらい、左腕だけ加工台の上に乗せてもらって、〈ミスリルのインゴット〉の〈真素材〉を腕に乗せます。
「じゃあ行くよ。『上級錬金』!」
ここからがちょっと難しいです。
錬金釜であれば全部溶かして混ぜ合わせて、融合させて固めるという感じで終わりますが、〈加工台〉の場合は正しく加工していかなければなりません。
何に?
もちろん〈魔錬筋肉加工台〉なのですから筋肉繊維に、です。
それは不思議な現象で、インゴットだったものが解れるようにして糸になっていきます。
これが金属の糸ですね。たまにマリー先輩も使うそうです。
これを束ねて伸ばし、筋肉っぽい形にしていきます。
ゼフィルス君のメモではこの辺は書かれていないのですが、私は〈錬金術課〉ですからね。授業でちゃんと習っています。
さすがに糸を筋肉にするのは初めてですけど。〈魔錬筋肉加工台〉が補助してくれますし、朝の右腕でなんとなく感覚を掴みましたからいけるはずです。
「こんな感じで、どうかな?」
そうして出来たのが人工筋肉。
実際は糸の束ですが、腕っぽい形になっています。
さすがは〈加工台〉。1発目から上出来だと感じました。
これを腕の中に入れます。
「『上級錬金』!」
筋肉の姿に形作った糸の束がコテちゃんの腕に沈んで消えていきます。
これで中身を人工筋肉にすることが出来たはずです。
早速不具合が無いかコテちゃんに動作確認してもらいます。
「ミスリルは伸縮が違いますね。真素材にしたことでかなりのパワーが出ています。でも物を掴むことは相変わらず出来ないと」
メモメモ。
データをたくさん取って練習していきますよ!
本番で間違わないために!
そこから私の挑戦は始まりました。
と思っていたのですが、割とすぐに終わりました。
まだ日付を跨ぐどころか20時にすらなっていません。
「できちゃった……」
私はちょっと呆然とコテちゃんを見上げながら呟きました。
理由は私のLVです。挑戦が始まった直後に気が付いたのですが、私のLVがですね、30になっていたんです。
【アルケミーマイスターLV30】です。
そして上級職のLVが30になるとゼフィルス君曰く、五段階目ツリーを開放できるとのことなんです。
その〈育成論〉メモも貰っていました。
メモの通りにステータスを振って、指示されていた『錬成生物強化』にSPを全部振ります。
なんでゼフィルス君がスキル名を知っていたのかは些細なことです。だってゼフィルス君だもんね。きっとどこかで知る機会があったんだよ(大らか)。
それでこの『錬成生物強化』がとんでもない性能だったの。
これ、ゴーレム作製の時に使えるみたいで、使いながら筋肉を加工したらすっごいのが出来ちゃった感覚。
うん。〈ミスリルのインゴット〉を使った強化が思った以上に大成功、ミスリルの人工筋肉を得たゴーレムはそれはもうスムーズに動き出してしまったのです。
それはもう人と見間違うほど俊敏な動きです。屈伸からジャンピング土下座まで色々させてみましたが、前のコテちゃんではできない芸当でした。
もちろん戦闘力もかなりのものです。
それで気をよくして、本番用の〈ムテキン〉素材を加工して思いっきり使ってしまったのでした。
もちろん大成功です。
まさかこんなに早く出来てしまうなんて予想外過ぎました。
「でも、ちょっと見た目は変えたいなぁ」
中身は予想外ではありましたが出来ました。
でも見た目は何も変わりません。
ただのゴーレムです。
うう~ん、もう少し違いというか、パワーアップした感じが出したいです。
そんな時、私の頭にピカッと閃きが点灯しました。
「あ、そうだ筋肉っぽい感じにすれば良いんだよ~」
それはナイスアイディアだと思います。
パワーを増やしたいなら筋肉を増やせって聞いたことあるもん。
えっと、フィジカルアップ、でしたっけ?
とりあえず強そうな見た目にしてみましょう。
こうして私のコテちゃんはフィジカル方面に見た目を変えていきました。
多分、私はこの時テンションが上がって高揚していたと思うんです。
翌日。
寝て起きて、冷静になった頭で部屋のコテちゃんを見たときに思ったのです。
「あれ? この人どこかで見たことがあるような?」
コテちゃんが、この学園で一番強そうな人の見た目に変わっていたのです。
「…………」
なんとなく、これ違うと思ったことは胸に秘めておきました。
初めての作品だから、ちょっとくらい失敗することもありますよ。




