#182 激務の臨時〈エデン店〉閉店後の雑談。
「ふぃー、疲れたよー」
「お疲れ様ですミーア先輩」
「ハンナちゃん癒して~」
夜になって〈エデン店〉を閉めると、まるでスライムのように蕩けたミーア先輩が抱きついてきました。
私はミーア先輩の頭を良し良しと撫でて慰めます。
「やれやれ。後輩にそんなことをしてもらって、そんなことで〈生徒会〉の生産隊長は務まるのかな」
「人の目が無い所だけだから見逃してローダ~」
「まあ、今日は本当に大変だったのじゃ。ローダも少し大目に見てやるのじゃ」
「そうだね。でも本当に疲れた。こんなことはフラーラがぬいぐるみの予約を受け付けた時以来だ」
「う、嫌なことを思い出すななのじゃ」
ローダ先輩の言葉にフラーラ先輩の顔が引きつりました。
何があったのでしょう?
「閉店作業、終わりましたわ」
「み、みなさん、お疲れ様です!」
そこへ作業を終えたアルストリアさんとシレイアさんが戻ってきました。
作業を全部任せてしまいましたが、お二人から私はここでドーンと休憩していてくださいと言われています。今お客さんたちが欲しがる品物を作れるのは私しかできないのでみんな妥当だと言って一足先に休憩させてもらっていたというわけです。
また他の方はすでに帰っていますね。セラミロさんも報告があると言って先ほど帰られました。
「うむ。お疲れ様。しかしアルストリアさんとシレイアちゃんは体力があるんだね」
「そりゃいつも激務の〈エデン店〉で売り子しているもんね~」
ローダ先輩が意外だという感じで2人に視線を送ると、ミーア先輩が自慢するように答えます。
「いえ、いつもではありませんわ。でも体力はありますわね」
「はい。体力が無いと【錬金術師】はやっていけませんから」
「【錬金術師】ってそんな武闘派な職業だったかな? 僕は【闇錬金術師】なんだけど」
「まあ、2人が言わんとすることも分かるのじゃ。売り子をして錬金もして、今日みたいな激務が続くのならそりゃ体力がいるのじゃ。ローダは研究肌じゃからのう」
はい。〈エデン店〉は体力勝負なところ、ありますよね。
「でも今日は特別人が多かったよ」
「そりゃ、学園が「臨時〈エデン店〉オープン!」と通知を送ったからね。ここ2週間以上〈エデン店〉は閉まっていたわけだからそのしわ寄せが一気に来たんだよ」
「凄まじかったのじゃ。いくら〈学園出世大戦〉が目前とはいえ。明日はもう少し収まってくれることを願うのじゃ」
〈エデン店〉が開いているのは明日までに決まりました。
というのも明後日は私も〈エデン〉の応援に行きたいですし。
その情報も込みで流れたそうで、数日後に出場を予定されていたギルドも今日買いに走ってきていた、というわけですね。
また、普段はお客さんの入りが少ない時を見計らってくるお客さんもいるのですが、そう言う人は普段行列を見ると買わずに諦めて帰ってしまうんです。でも〈学園出世大戦〉が近いため長蛇の列に並んでも買い求める人が大勢居ました。
それも、忙しさが今日に集中した理由ですね。
「ううむ。〈エデン店〉のこの客入りだと、店自体を膨大なお客に対応できるよう改造する必要があるね。今日は列の整理に学園が人を出してくれたけれど、普段はそこまでできないだろう。あの列もどうにかする必要がある」
「なるほど。Cランクギルドハウスの時でも度々問題になっていましたわ。人が居なくても列を管理できる物理的構造を造る。良いアイディアですわね。さすがはローダ先輩ですわ」
「で、でしたらこんなのはいかがでしょう? Aランクからはギルドハウスもお店もデッカくなるんですよね? なら、店内にたくさんのレジと並ぶためのレーンを造っちゃうんです」
「ほう。シレイアちゃん詳しく聞かせてもらおう」
「は、はい! えっとですね」
ローダ先輩とアルストリアさんが店の問題点を洗い出し始めました。
そしたらシレイアさんからアイディアが出て色々検討を始めました。
私は話に入ることを諦めてミーア先輩の頭をナデナデします。
「あふん。至福~」
「ミーアのだらしなさに後輩が全くツッコミを入れないのじゃ。お主、普段からだらけておるのじゃ?」
「そんなこと無いのじゃ~」
「嘘をつけぃ、あと真似するでないのじゃ!」
「まあまあフラーラ先輩。今日はミーア先輩もがんばってくださったんです。少しくらい良いじゃないですか」
「あまり甘やかさんほうが良いのじゃハンナ。ミーアにだらけを教えるとどこまでもだらけるのじゃ」
「失敬な~。フラーラ言い過ぎだよ~」
「えっと。忠告に感謝します?」
「うむ。素直な後輩は好きなのじゃ」
「ちょ、ハンナちゃん? 冗談だよね?」
「……ミーア先輩、今日だけ特別ですよ?」
「ハンナちゃん!? じゃあ明日は!?」
「そこはフラーラ先輩に聞いてください」
「フラーラー」
「知らんのじゃ」
こっちも雑談で盛り上がります。
お茶を用意したいのですが、ミーア先輩が抱き付きから膝枕に移行してしまったので動けません。
どうしましょう?
そんなことを考えていますとローダ先輩の方も盛り上がっていました。
「ふっふっふ、これでどうかね?」
「まあ! 素晴らしい! これはとても良いですわ!」
「ローダ先輩は設計も出来るのですか!?」
「設計なんて大層なものでもないさ。ただ僕は今日気が付いた問題点を洗い出しただけ。それが改善された店を書き出しただけだよ」
「でも素晴らしい構造ですわ。特に列のこのレーンを店内に組むこと。レーンの長さと数も絶妙ですわ」
「レーンは4つあるが、基本このレーンの距離は同じに統一しなければならない。じゃないとレジまで早いレーンと遅いレーンが出来てしまい、トラブルが起きてしまうからね。そこが要注意点かな」
「レーンを手すりとチェーンで分けるのも良い考えです! これなら横入りトラブルも防げますね」
「問題は〈エデン〉がこれを受け入れてもらえるか、ですわね」
「それは問題無いんじゃないかい? 〈エデン〉のギルドマスターはハンナちゃんに甘いからね」
「分かります分かります! すっごく甘いですよね!」
「なるほど、ハンナさんに渡してもらえれば良いわけですね。――ミーア先輩そろそろ退いてくださいな。ハンナさんをお借りしますわよ」
「待ってアーちゃん! このままだと、今日でハンナちゃんの抱きしめサービスが終わっちゃいそうなの! せめて今日が終わるまで待って!」
「今日が終わるまでって、何時間抱きついている気ですか。――シレイアさん手伝ってくださいな。ミーア先輩をハンナさんからひっぺ剥がしますわよ」
「あ、アイサーです!」
「みゃー! アーちゃんとシレイアちゃんの裏切り者ー!」
そんな感じでミーア先輩が離れると、今度はローダ先輩が設計図のような紙を持って来ました。
これは〈エデン店〉のAランクギルドハウスの設計図だそうです。
な、なんかすごいお店ですね?




