#179 学園でデモ発生!?〈エデン店〉開店してー!
ハイスラリポマラソンで休日を過ごした翌日。
それは12月22日の朝のことです。
唐突にその依頼はやって来ました。
私の部屋にノックの音が響いたんです。
「? はーい。どなたですか?」
「ハンナさん、セラミロです」
「セラミロさん?」
セラミロさんは学園から派遣していただいたメイド服の美人さんで、〈エデン店〉の売り子を担当してくださっている方です。
私が扉を開けると、朝早くにもかかわらずいつものメイド服姿のセラミロさんがいました。
「朝早くにすみません」
「いえ、起きていましたから大丈夫ですよ。中入りますか?」
「お邪魔させていただきます」
セラミロさんを部屋に招きました。
こんな朝早くに来られるなんて、よほどのことだと思ったんです。
すぐにリビングの椅子に案内すると、一部の部屋を見て固まるセラミロさんが居ました。
あ、その部屋は!
「その、ハンナさんの部屋は魔石で埋まっているはずだとゼフィルスさんから聞いていました。冗談だと思ったのですが、まさか本当だとは……」
すぐに部屋の扉を閉めました。手遅れかもしれませんが、必殺の誤魔化し笑いでその場を乗り切ります。
「え、えへへ。違うんですよセラミロさん」
ちょっと今さっきまで日課のハイスラリポマラソンをやっていて、ドロップした魔石を魔石倉庫部屋に持っていったところにセラミロさんが来ただけなんです。
うっかり扉を閉め忘れたのは痛恨でした。
と、とにかくセラミロさんの要件を聞かないと。
私は強引に「こっちですよ」と言ってセラミロさんを引っ張りました。
「セラミロさん、紅茶でいいですか?」
「……はい。では紅茶で」
無事椅子に座ってもらい、紅茶を飲んで一息入れます。
ふう。
「突然の訪問、度々失礼いたしました」
「い、いいえ。大丈夫ですよ?」
ええ。普段は大丈夫なんです。
本当ですよ?
その気持ちが通じたのか、セラミロさんはさっきのことはスルーして話を進めてくれました。
「本題なのですが、学園からハンナさん、いえハンナ様に緊急依頼が出されています」
「あ、あの。私のことはハンナさんでいいですよ?」
なんで今言い直したんだろう?
私は慌てて修正しました。
「そうですか? 今回の依頼の切っ掛けになったみなさんがハンナ様ハンナ様って言っているのですが」
「その人たちの敬称は聞かなくても良いです」
ええ。良いのです。
というより売り子さんにもハンナ様って言われたら本当にこの学園でハンナ様が定着しちゃいそうなので、どうかセラミロさんは「さん」付けでお願いします。
「わかりました。話を続けますと、現在学園は未曾有の上級ポーション不足に陥っております。回復からバフ、耐性ポーションに至るまで全てです。原因は――〈エデン店〉が閉店しているからです」
「あ、あ~~」
「それだけなら別に大したことはなかったのですが、時期が悪く、学生がデモを起こしかけました。理由は――〈学園出世大戦〉が目前に迫っているのに上級ポーションが手に入らないからです」
「ああ!」
「加えてテスト期間中もずっと〈エデン店〉は閉店していました。テストが明けても〈エデン店〉は開店していません。〈学園出世大戦〉の準備のために上級ポーションを欲しがっていた学生が悲鳴を上げているのです」
「はわわ!?」
「さらに加えて」
「ま、まだあるのですか!?」
「…………いえ、もうありませんでした」
「がくんっ」
私は大きく滑りそうになった体を元に戻します。
セラミロさん?
「ですが、学園で唯一上級ポーションを販売している〈エデン店〉が長期間閉鎖は学生にとって深刻な問題となっているようです。早急に解消してもらいたいと学園から緊急依頼が出されるほどに」
「え、えぇー」
そんなことになっているなんて、驚きを通り越して変な声が出てしまいました。
「こちらが正式な依頼書になります」
セラミロさんが1枚の紙を取り出して渡してきたので受け取ります。
その内容は、確かに今セラミロさんが言った通りでした。でも。
「か、解消と言っても、どうすれば?」
「私に考えがあります。要は上級ポーションを売ればいいのです。〈エデン店〉が閉まっているからデモが起こりかけたのであれば、オープンすれば解決です。事実、〈エデン店〉をオープンさせてほしいという懇願書も大量に届いています」
「な、なるほど。え? でもCランクギルドハウスの〈エデン店〉はリフォームしてしまいましたよ?」
前のCランクギルドハウスは引っ越しとなったのでリフォームして元に戻してしまいました。
そしてBランクギルドハウスは改装していません。
緊急でということは、話の流れから〈学園出世大戦〉までにってことですよね?
でもギルドハウスは改装するのに2日掛かると言います。そして〈学園出世大戦〉は2日後に開催するのです。
ま、間に合わない、よ?
「安心してくださいハンナさん。何も〈エデン〉のギルドハウスを使う必要はありません。すでに確保してある店があります。そこを臨時店にして上級ポーションを売ってほしいのです」
「あ!」
そうでした。確か昨日も、「売りたければマートを使おう」的なことをゼフィルス君と話したとき思いました! 慌てすぎてうっかり出てきませんでした!
「というわけで、ハンナさんに緊急依頼です。臨時の〈エデン店〉を〈学園出世大戦〉が始まるまでで良いのでどうか開店してください」
「えっと、はい。2日間くらいでしたら大丈夫です。上級ポーションなら〈エデン店〉を再度オープンしたときのために用意したものがたくさんありますし、大丈夫ですよ。でも、補充のために工房は欲しいですし、売り子さんもたくさん必要だと思いますよ?」
「そちらはお任せください。すでに手配してあります」
「そうなんですか!? さすがですねセラミロさん!?」
「私は〈エデン店〉のサポーターですから」
さすが学園の方です!
こうして私は臨時〈エデン店〉をオープンすることになりました。




