#018 レシピの取り扱いにはご注意を。
レシピアイテムはなぜ所持する必要があるのか、なぜ貸したり広めてはいけないのか。
それはレシピを持つ者の権利を守るためにあります。
そう法律で決まっているのです。
生産職なら誰だって良い物を作りたいというのは当り前の欲求ですが、そのレシピを持ってくるのは戦闘職さんなのです。
だってレシピはダンジョンでドロップするものだから。
そのため、レシピは戦果物という扱いになります。
もしレシピの内容が大きく広まっていたとしたら?
レシピの価格の大暴落は間違いありません。
だってみんな知っているからです。
ですが、そうすると割を食うのは戦闘職さんです。
せっかく大変な思いをしてボスを倒し、宝箱からレシピがドロップしたとして、それがただの紙になるのです。
しかも、レシピがドロップする確率は結構高いのです。中には〈金箱〉の中身がレシピということもあります。
高確率で価値の無い紙がドロップするとしたらどうなるか?
答えは戦闘職に就く人口の低下です。
大昔、これが原因で戦闘職に就く人が大幅に減ったことが有り、そのことが影響して上級職に就ける人が大きく減りました。
大昔は上級ダンジョンだってかなり下層まで探索出来ていたというのですから、今を生きる人たちがどれだけ弱くなったのかが分かります。
現在は中級上位ダンジョンのクリアは出来ても上級ダンジョンを中層までクリア出来る人はほとんど居ませんから。
そのことで、レシピの権利を作り、守ることで戦闘職への見返りをしっかりと確保する動きが出来たようです。
レシピの扱いも大幅に見直され、レシピというアイテムを持っていないと基本的に生産をすることは禁止するという法律まで出来たほどです。
もちろん、それでは経済が成り立たないのでレシピを持たなくても作って良い品という物はあります。たくさん。
それが〈大図書館〉で公開されているものであり、学園で教えてくれるレシピですね。
これは国が公開しているものなので法律の適用外です。誰でも作ってよい、基本レシピという扱いですね。
基本レシピ以外を作りたければレシピアイテムをゲットせよ。というのが国の方針です。
あ、ですがレシピの貸し出しは有りですよ。お互いが認めればになりますが。
例えば戦闘職の方が注文に来て、このレシピの物を作って欲しいと依頼したとします。
生産職さんはレシピを持っていないので、作り方をたとえ知っていたとしても作れません。
ですが、戦闘職さんからそのレシピを借り受ければ作る権利が生まれます。
と、こんな感じですね。これを〈レシピ持ち込み〉依頼と言います。
もちろん依頼を達成した後レシピを戦闘職さんに返したらもう作る権利は無くなってしまいますので、生産職さんは作ってはいけません。
また、その依頼のためにレシピを貸したのであって、その目的以外に物を作ることは禁止されていたりしますね。この時のレシピの権利は戦闘職さんにありますから。
うーん、確かうちのギルドでは〈馬車〉を作る時〈レシピ持ち込み〉をしたはずです。
依頼の時にゼフィルス君がレシピを持っていった覚えがあります。
その後、ちゃんと返却してもらったので、〈馬車〉を作る権利はうちのギルド〈エデン〉にある、ということになります。
こんな感じなので、たとえ生産職同士でも、友達同士でも、生産したいならばレシピを貸し借りしなければいけません。ですが、生産職同士でのレシピの貸し借りはトラブルになりやすいため、あまり推奨されていないと授業で習いました。
シレイアさんを改めて見ます。
うるうるとした視線ビームを放ってきています。ちょっと可愛い。
ってそうではありません!
ちょっと私には判断がつかなかったので、経験豊富なアルストリアさんに頼むことにしました。
「アルストリアさん~、教えてください~」
「あらあらハンナさん。いいですわ、なんでもお聞きになってくださいまし」
さすがアルストリアさんです。頼りになります!
「その、悪くないって言っていましたが、どういうことなのかお聞きしてもいいでしょうか?」
「あら、あ~、そうでしたわね。私たちはまだ学生ですし、ちょっとピンと来なかったですわね」
アルストリアさんは少し首を傾げたと思ったら、思い至ったという顔をして話し出しました。
「つまりは簡単な弟子入りや、労働力確保みたいなものですわ。ハンナさんってギルド〈エデン〉の消耗品生産を全て受け持っているって前に言ってましたでしょ?」
「はい! 頑張っています」
「それで、大変でしょうからシレイアさんはなんとかハンナさんの仕事を手伝いたいと思っていたのですわ」
「わあ、そうだったのですかシレイアさん」
「そ、そんな都合の良い解釈をしないでくださーい!? 私の罪悪感がヒシヒシ言いますから~」
シレイアさんが叫びました。
どうしたのでしょうか?
「うう。お金も無いのにレシピ貸してなんて厚かましいこと言ってすみません。ですが、対価はこの体で払うしか……」
「えーっと……、でも、そんなに労働力って要らないんですよね」
「え? そう、なんですの?」
「はい。ダンジョンはギルドで行きますし、後は『錬金』ですが私は大量生産特化で職業を育成していますので、まだ限界は見えていません。余裕があります」
「が、ガーン!」
「あ、でも〈MPハイポーション〉はたくさん欲しいんですよ」
「私はまだ中級作るにはレベルが足りましぇん!?」
そうですね。大成功を作るためにはDEXがかなりの数値要りますし。
ギルドで使う物の生産は私だけで足りています。
他に何か手伝うこと……、手伝うこと~。
何かないでしょうか?
……あ、それなら一つだけ思いつきました!
実は以前にサティナさんに初めてアイテムを売ったときから考えていたことがあったんです。
サティナさんを初めとしたお客さんに売るためのアイテムを、作るの手伝って貰うというのはどうでしょう?




