#164 ゼフィルス君はやり過ぎ。お土産が凄すぎです
その日の朝、とんでもない話が出ました。
「今日は周回に行ってくるぜ!」
「え?」
一瞬何を言っているのか分かりませんでしたが、すぐに飲み込めました。ゼフィルス君が言っているのは上級ダンジョンの1つ、〈嵐ダン〉の周回のことです。
ついこの間ゼフィルス君たちは上級ダンジョンの攻略という偉業を成し遂げたばかりなのに? え? もう周回するの?
「え? でも。大丈夫なの? それにシエラさんたちは……」
「おう。シエラたちもノリノリだ!」
ノリノリなの!? ほ、本当に!?
とんでもないことになりました。
上級ダンジョンの攻略がなぜ難しいのか?
道中の苦労もさることながら、最奥のボスが強いからです。
話によれば、普通は1本しかないHPバーが3本もあるらしいのです!
しかも1本バーが無くなるごとに形態が変化するのだとか。
私の脳裏にはかの〈ヘカトンケイル〉が甦りました。
あんなボスを、周回?
しかもみなさんとてもノリノリらしいです!?
これが生産職と戦闘職さんの差でしょうか!?
私に出来るのはゼフィルス君たちの無事をお祈りして、ポーションを渡すくらいです。
「えっと、がんばってね?」
「おう! お土産を期待しててくれ!」
そんなことを言ったからでしょうか?
次の日の朝。ゼフィルス君が何気なく私に鉈を渡してきたのです。
なんで鉈? とりあえず促されるままに〈空間収納鞄〉に仕舞います。
それが〈優しい上級鉈〉という〈優しいシリーズ〉の上級アイテムと知ったのはしばらく後になってからでした。
だって、ゼフィルス君ったらそれよりもとんでもないものを取り出すんだもん。
「それと、ほらハンナ。昨日のお土産だ」
「? ありがとうゼフィルス君? えっとこれなに?」
「昨日ドロップしたレシピだ。後で見てみるといい」
「なんかそこはかとなく強そうなオーラを放ってるものがあるんだけど! これもしかしなくても上級ダンジョン最奥ボスからドロップしたレシピだよね!?」
「おうよ。それもうち3つは〈金箱〉からドロップしたんだぜ?」
「き、〈金箱〉!?」
私は一瞬目がミールになってしまいましたがすぐに振り払いました。
ま、待ってゼフィルス君。それすっごく高いやつだよ!?
「そんで〈銀箱〉産のレシピも多数。これらはハンナに預けておくな。実はまだ鑑定してなくてな」
「か、『鑑定』しておけばいいんだね」
上級ダンジョンボスから出た〈金箱〉産と〈銀箱〉産レシピ。
それは市場にはほとんど出回っていません。
なぜか? 絶対数が少なすぎるからです。
〈キングアブソリュート〉の時に騒がれたみたいに、普通は上級ダンジョンの攻略なんてできません。潜る人もそんなにいません。
だからボスと戦う人もいなくて、〈金箱〉の上級レシピを持っている人なんてほんの一握りしかいません。それを私がこんなに持っていていいの!?
そんなことをゼフィルス君に訴えましたが、「いいのいいの」と笑って流されてしまいました。
そして授業の合間の休憩時間のことです。
生産職は様々な素材を使ったり、アイテムを生み出したりするので、実習室には『鑑定』や『解読』の使えるアイテムが常備してあり、学生は好きに使っていいことになっています。
レシピは『解読』しなくては読めません。『解読』のLVは7。上級下位ダンジョンの物は全てこれで鑑定出来ます。
私は〈空間収納鞄〉からそのレシピを取り出して『解読』してみることにしたのです。
朝はゼフィルス君のお部屋で見られませんでしたし、正直早くこれの正体が知りたいというのもありました。その時です。
「あら? ハンナさんそれはなんですの?」
「どひゃん!?」
突然アルストリアさんに話しかけられてとても変な声が漏れてしまいました!?
「だ、大丈夫ですのハンナさん。急に話しかけて申し訳なかったですわ」
「い、いえ。大丈夫です。ビックリしただけですから」
「どうしたのです?」
私たちのやり取りを見てシレイアさんまで来てしまいました。
えっと、2人は〈エデン店〉で働く身内みたいなものですし、教えても大丈夫でしょう。
「ちょっと、新しいレシピの『識別』をしようと思いまして」
「新しいレシピですか!」
「それも、こんなにですの!?」
「は、はい。昨日ゼフィルス君がゲットしたみたいで。『解析』している時間が無かったのか、私に任されたんです」
「そうでしたのね」
「あの、ハンナ様ハンナ様! 私たちも見ていってもいいでしょうか!?」
「あ、ハンナさん。よろしければ私もお願いしたいですわ」
「はい。大丈夫です。ですが、ちょっとだけですよ?」
「ちょっと?」
えっと、少し間違えたかもしれません。
2人は身内です。他の人に見られなければ問題ありません。
私は『レシピ解読』用アイテム〈解どクン〉を使ってレシピを鑑定してみました。
そしたら。
「これ、ほとんどが〈爆弾〉系のレシピですわね」
「こっちは能力を付与する物もありますよアルストリアさん」
〈銀箱〉産レシピで【錬金術師】系のものは私が得意なものというよりも、どちらかといえばアルストリアさんとシレイアさんが得意とする系統のものばかりでした。
最近ではアルストリアさんは武器への能力付与にこっているらしいです。
例えばナイフに麻痺を付与して〈麻痺〉付きのナイフにするとかですね。
シレイアさんは相変わらず〈爆弾〉系に重きを置いて作製しているところです。テーマは安価で強力な〈爆弾〉とのことでした。
その2人にはぴったりなレシピではありますが、残念ながら2人は下級職なのでこれを作製することはできません。
ですが、それとこれとは違うようで。
「ハンナさん、このレシピ、いくらですの? 言い値で買わせていただきますわよ!」
「わ、私も稼いだお金、たくさんあります! ほしいです!」
「え? でも、2人はまだ下級職ですし」
「挑戦してみたいのですわ!」
「(コクコク)」
どうやら2人の生産魂に火が付いてしまったみたいです。
私が最近上級アイテムばかりを生産しているのを羨ましそうにしていましたから。ですが。
「これは預かり物なので売れません」
「「がくん」」
「でも、ゼフィルス君に頼めばあるいはいけるかもしれません」
そう私が答えると、2人はキラキラとした視線で私を見つめてきました。
その後レシピは、ゼフィルス君によって「〈エデン店〉をこれからもよろしくね」と格安で売ってあげていたのでした。




