#163 みんなで大浴場。1人でもできる肩もみ術。
「なに言ってんだハンナ。大量生産は【錬金術師】の分野だぞ? 確かにソフィ先輩には上級職になってもらったが、彼女は【魔道具師】系の上級職【マスター・アイテム】。得意分野は【アルケミーマイスター】でも作れないクオリティの高いアイテム全般の作製だ。〈転移水晶〉や〈霧払い玉〉はそもそも【錬金術師】系の方が作製に向いているんだよ」
「がーん!」
ゼフィルス君の言葉に思わず感情が口から吐露してしまいました。
確かに、私の得意分野は大量生産。
クオリティの高い一点物のアイテムを作製するよりも、一定の効果を持つアイテムを大量に作り出すことに長けています。
つまり私の両肩に乗った重荷は取れないということです。そんな~。
「ということみたいなんです……」
「ドンマイですハンナ様」
「大丈夫ですわ。私たちが付いていますわよハンナさん」
ゼフィルス君から聞いた話をシレイアさんとアルストリアさんに言うと、慰めてくれました。嬉しいです。つい口元が緩くなってしまいます。
「肩の荷が重すぎるんですよ~。重すぎてもうとても肩がこっているんです。そろそろ重荷を変わってくれても良いと思うんです」
「い、いえいえハンナ様、肩がこっている理由はそれではなく別に原因があると……」
「?」
「まあまあ、ハンナさん。そういうこともありますわ。私でよければ肩を揉んで差し上げますわよ。こう見えて、私もよく肩がこるので揉むのは上手いんですの」
「い、いえいえアルストリアさんも見た目通りでしゅよ!?」
「あら? 本当にこっていますわね。これは気合いを入れないといけませんわ」
「あ、結構気持ちいいかも」
シレイアさんがなぜか俯きながら自分の胸に手を置いていましたがどうしたのでしょう?
アルストリアさんの肩もみはとても絶妙でした。どうやらアルストリアさん曰く、私はかなりこりが酷いみたいでした。
「まるで長い間長物を振り回しているかのようなこりでしたわ。後で自分で肩をほぐすやり方をお教えしますからお風呂上がりに試して見てくださいな」
「あ、ありがとうございますアルストリアさん」
長物……そういえば最近は〈ハイスラリポマラソン〉が楽しくって、時間があれば常にメイスを振るっていたような気がします。それが原因だったのでしょうか?
ずいぶん楽になりました。
「それ、私も気になります! わ、私も必要になることがあるかもしれませんし!?」
「あら。なら今日はみんなで大浴場に行きませんこと? その方が教えやすいですわ」
「いいですね!」
また、今日はこれからみんなで福女子寮にある大浴場に行くことになりました。
実は大浴場には結構行きます。
部屋にも個室のお風呂がありますが、大浴場の方が広いですからね。
ただお嬢様方がたくさん入りに来られるので少し緊張しますが。
「ミーア先輩は?」
「お誘いのメッセージをお送りしましたら来ると返信がありましたわ。向こうで合流しましょうとのことです」
「了解です」
私たちはそれぞれの寮の部屋へ一時的に戻り、お風呂の準備をしてから再集合しました。
そのまま大浴場まで行きます。
ここの大浴場は本当にすごいんですよ。
なにしろ300人が一斉に入ることを想定して作られていますからね。とても広いんです。
貴族舎の方はもう少しこぢんまりとしていて、質の良い空間とでも表現したら良いのでしょうか。上品さがあります。
ここ福女子寮の大浴場ももちろん上品ではあるのですが、プールが隣接していたり、テーブルに臨時売店が開いていたり、どちらかというとセレブとか豪華という感じですね。プールから上がってそのまま浴場に来るお嬢様も多いです。
でもお嬢様が多すぎて私はまだプールを使ったことないんですよね。
アルストリアさんとシレイアさんは水着自体持っていないそうです。水着をもっていること自体が一種のステータスなんだとか。でも当然のように「ハンナさんは入りませんの?」と聞いてくるのはどうしてでしょう? 水着は持ってますけど。
「ハンナちゃん、シレイアちゃん、アーちゃん、お待たせ~!」
「ミーア先輩!」
大浴場に到着すると、すぐミーア先輩が合流してきました。
4人で服を脱いでいると、シレイアさんが私たちの体をジッと見ていました。
どうしたのでしょう?
「みなさん、大きいですね」
「ま、まあまあシレイアさんもそのうち大きくなりますわ」
「そ、そうだよシレイアさん」
「別にそのままのシレイアちゃんでも可愛いよ?」
シレイアさんの目から悲しみが伝わってきたのでアルストリアさんと私で励ましました。
ミーア先輩の言葉は私もそう思います。だから元気を出してください。
私も結構大きい方だと思っていますが、ミーア先輩とアルストリアさんはその上を行きますからね。あれは比べてはいけないと思います。
大浴場で気持ちよく湯に浸かりながら、アルストリアさんから自分でできる肩もみを教わります。
「私もすごく肩がこってるのよ。アーちゃんの話はすごく助かるわ」
「ですがミーア先輩。筋肉を痛めてしまう場合もありますから、特にSTRを高めに振っているミーア先輩は力加減に気をつけてくださいまし」
「はいはーい」
「うう。私の肩。やわらかいです」
「シ、シレイアさん、それでいいと思いますよ? 肩はこらないに限ると思います」
あれ? そういえばなんで肩こりの話になったんでしたっけ?
うーん、何か重要そうだった気がしますが、別に良いですね。
今はこの気持ちいい湯を満喫したいです。




