#153 ユーリ殿下の大発表! 〈転移水晶〉編。
それはパレード最初の部が終わろうという時でした。
パレードの終着地点、〈ダンジョン公爵城〉の前にある広場に到着し、周囲の混雑具合におののいていると、最初の車両の上にユーリ殿下がいて、何かを発表したのです。
「―――聞いてほしい。ここ〈国立ダンジョン探索支援学園・本校〉がSランクギルド、〈キングアブソリュート〉は、約半年もの間、上級ダンジョンの攻略に邁進してきた――」
私はその時、警邏の仕事をしていたゼフィルス君を見かけて目で追っていたので油断していました。
ゼフィルス君の回りには何やら人が集まっていますね。あれで本当に警邏の仕事が出来ているのかな? なんだか逆に混雑が出来ているようにも見えます。
あと女の子が多いです。
そんなことを考えている間にもユーリ殿下の発表は続きます。
「――そして我々はついに最奥のボスを倒し、上級ダンジョンの攻略を果たしたのだ!」
「「「「わああああああ!!」」」」
「わひゃぁ!?」
突然上がった歓声にびっくりしました。
何事と辺りを見渡し、感動に目を潤ませて拍手しているアルストリアさんに近づきます。
「素晴らしいですわ。ついに〈キングアブソリュート〉が上級ダンジョンの攻略を成し遂げたのですわ!」
それを聞いて私はなるほどと納得しました。
6月最初のあの〈魔薬事変〉は忘れられません。あれが原因でハンナ様と呼ばれるようになったからです。
あれの原因を作った〈キングアブソリュート〉でしたが、無事目的である上級ダンジョンの攻略を成し遂げたようです。これで私たちが奔走した甲斐があったというものですね。
ちょっと言葉にトゲが含まれているのは許してほしいです。
会場は大盛り上がりでした。
それほどの大偉業だったのです。
ですが村出身の私や、田舎町出身のシレイアさんはちょっとピンと来ていない感じです。
私的には、そんな記録、すぐゼフィルス君が上書きしてしまう気がしてならない予感がするからです。
その予感が確信に変わる日は、割と早くやってくることになるのですがそれは別の話。
そして雲行きが怪しくなるのが、その歓声が静まり、ユーリ殿下が別の発表をし始めたところからでした。
「だが、上級ダンジョンの攻略は今後難易度が下がっていくだろう。そして行く行くは学園の学生なら誰でも上級ダンジョンの攻略が可能になる可能性がある! 学園がそうなるよう動き出しているからだ!」
そう言ってさらに会場をざわめかせたユーリ殿下がとあるアイテムを掲げます。
あ、あれは! それはとても見覚えのあるアイテムでした。
「――〈転移水晶〉。これがあれば上級ダンジョンの中から地上まで一瞬で、どこに居ても転移で戻ってくることが出来る」
やっぱり私が作った〈転移水晶〉でした!
ゼフィルス君に渡していたはずですが、もしかしなくてもゼフィルス君、ユーリ殿下に渡しちゃった?
私がゼフィルス君を見ると、ゼフィルス君はユーリ殿下を見ながら神妙な顔で頷いていました。
どういうこと!?
その疑問に答えるようにユーリ殿下の発表は続きました。
「〈転移水晶〉は〈転移リング〉のあるダンジョンでしか使えないため、今後は調査を広げる必要があるが、すでに学園の外にあるダンジョンでも使用が可能と報告を受けている。この〈転移水晶〉があればこれまで危険が多く進む事の出来なかった上級ダンジョンの攻略が飛躍的に進むだろう! そして王家はこの〈転移水晶〉のレシピを公開レシピとすると決定した!」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
瞬間、爆発的な熱狂が広場に広がりました。熱狂している紳士軍団までいます。すごいです。
――公開レシピ。
それは生産職なら誰でも作製が許可されているレシピ群の総称です。
つまりは作製許可に必要なレシピを持っていなくても、図書館などにある公開レシピで誰でも作っちゃって良いってことです。
あ、つまり私はサンプル作りだけしたってことだと思います。
ゼフィルス君はあのレシピをユーリ殿下に渡したのか売ったのか。また色々やっているみたいですね。
そんな感じで私には関係のないこと、みたいな気でいた時でした。
さらに続いていたユーリ殿下の発表が信じられない方向に行ったのです。
「また、この〈転移水晶〉は学園が誇る上級職の【錬金術師】殿が大量生産してくれている。販売には制限を掛けさせてもらっているが、ギルド〈エデン〉に協力を頼み、学生の分は〈エデン店〉にて販売してもらう事となった!」
「ふえ!?」
急に矛先がこちらに向いたのです。学園が誇る上級職の【錬金術師】殿って私のこと!?
公開レシピは!?
名前こそ出していませんが、ギルド〈エデン〉って分かる人には私が錬金してるって分かっちゃうよ!?
「〈エデン〉!? 上級職の【錬金術師】殿と言えばハンナ様じゃねぇか!!」
「す、すげぇ! ハンナ様は〈転移水晶〉も製作できるのか!!」
「なぜ生産トップギルドの〈青空と女神〉では無く〈エデン〉なんだ? と思ったが、上級アイテムってことは、そもそも上級職しか作れないんだ! 〈転移水晶〉が作れるのは今の所ハンナ様だけかも知れないぞ!」
「なんだと!?」
「なるほど、だから〈エデン〉に協力を頼んだのか」
ほ、ほら。すっごくバレてるよ!? 一瞬だったよ!?
見て、アルストリアさんとシレイアさんがほけっとした顔で私のことを見つめてきてるんだけど!?
ってわ。突然マントが私の頭に掛けられました。
「これを被ってなさいハンナちゃん。いいって言うまで顔を隠しておくのよ。あと馬車の中に乗って」
「は、はい!」
ミーア先輩でした。さすがは〈生徒会〉生産隊長になる予定の先輩です。とても頼りになります!
私はすぐに顔を隠しながら馬車に乗り込みました。
「ちょっと君、今話が聞こえたのだがね、ハンナ様とは?」
「き、貴族の方ですか!? ええとハンナ様とはですね――」
「ありゃ、貴族さんにまで広まっちゃってるよ。これは何か対策が必要かな」
そんなミーア先輩の呟きが馬車の外から聞こえてきたのでした。




