#149 立候補は私じゃ無くてミーア先輩だよ!?
学園祭の準備は着々と進んでいます。
私たちも生産ギルドへ計画的に足を運んで交渉しました。
結構どのギルドも協力的です。
どのギルドも生産職のトップ、〈生徒会〉の生産隊長に誰が就くのかとても気になるところなのでしょう。
「ハンナさん、現実逃避はおやめになって」
「現実を直視してください」
「うう~」
私は今、隣にいるミーア先輩と同じ顔をしているに違いありません。
というのもです、行くギルド行くギルド、反応がおかしいんです。
「おお! あ、あなたはハンナ様!? まさか自分たちのギルドに来てくれるなんて感激です! ささ、中へ!」
「ハンナ様ハンナ様! もちろんハンナ様のご要望とあらば我がギルドは全面協力しますぞ! 任せてくだされ!」
「護衛の人員は大丈夫なんですかハンナ様!? パレードでハンナ様にもしものことがあったらいけません! うちが契約しているギルドに腕の良い護衛がいるので――」
などなど、なぜかミーア先輩そっちのけで私にばっかり話掛けてくるのです。
「さすがはハンナさんですわ。というか、生産職で一番有名なのはハンナさんなのですからこれは当然のことですわよ?」
「よ、予想の範囲内、です!」
「私にとっては範囲外だよ~!」
アルストリアさんもシレイアさんも納得の展開だったみたいです。
どういうことでしょう? そして私では無くミーア先輩が立候補と告げると必ずハテナマークを浮かべるのもなぜでしょうね?
私は生徒会生産隊長にはなりませんよ!?
「ハンナちゃん、タッチ~」
「えっと、はい、タッチです」
「ナカーマー、えへへ」
ミーア先輩が手のひらを向けてきたので手を合わせてナカーマします。
お疲れなのです。
「ですがスムーズに話が進んだのも確かですわ。この辺の生産職は大体が困っていた時にハンナさんに助けられていますから交渉はしやすかったですわね」
「私は助けた覚えが無かったのですけど……」
アルストリアさんの話では、私がしてきた事が結果的に生産職のためにもなっているのだそうです。
〈エデン店〉という品切れの無いお店をオープンしてしまってお客を奪ってしまったんじゃないかと懸念しましたがそういうことも無く、逆に在庫があるという状況が信用に繋がっていると感謝されました。
私が〈エデン店〉を作る前はどこのギルドも品薄が多く、お客さんをガッカリさせてしまうことが多かったみたいですが、私たちが〈エデン店〉をオープンさせたことでお客さんが分散され、在庫が売り切れずに済んでいるとのことでした。
在庫があるというのはそれだけでお客さんの信用を得られますから、売れまくって何も無いよりちょっと売れ残るくらいがちょうどいいみたいです。
それにうちの〈エデン〉は自給自足型で、販売しているポーションなどは基本自分たちで調達したものです。戦闘職と生産職のいるギルドの強みですね。
そのため一般の生徒が持って来た素材は〈エデン〉以外の他の生産ギルドへと流れることになりました。
結果生産ギルド同士で素材の取り合いになることも減り、取り合いにならなくて済んだということはコストを下げることにも繋がり、売りの値段を低く設定したにも関わらず売上げが増したというギルドが多かったみたいです。
つまりは好景気、好循環です。
その他にも学園の混乱を治めた〈魔薬事変〉によって助かったというギルドも多かったらしいです。
そんなことになっていたんですね。
影響は戦闘職だけではなく、生産職にも良い影響を与えていたみたいです。
そんなわけで弱小ギルドからAランクの生産ギルドまでほぼ全てのギルドが全面協力になったわけです。
「続いてはパレードの出し物ですわ。生産職が張り切っていますからかなりのものが出来上がりますわね」
「い、衣装も鋭意作製中です!」
パレードといえば学園祭で1、2を争うほど注目イベントらしいです。
様々な車両が道を進み、車両の豪華さやその上に乗った人が踊ったり騒いだりして見る人を楽しませてくれるイベントだそうです。上手くイメージ出来なかったのですが、チエ先輩から、
「要は動く演劇会場と覚えればいいのですよ。舞台の上で演劇している人を車両が引っ張る。そんな感じです」
と言われてやっとイメージが湧きました。
衣装はとても大切です。もちろん車両もです。どちらも生産ギルドがミーア先輩用のものを作製してくださっているので完成が待ち遠しいです。
「後は振り付けですわね」
「そ、それは必要なのかなアーちゃん?」
「当然ですわ。まさかパレードの上で棒立ちするなんて言いませんわよね? スポンサーに応える振り付けが求められますわ」
「う、うん。そうだよね。が、頑張らないとね」
なるほどです。
ミーア先輩には今スポンサーが付いているのと同じなんですね。
ミーア先輩を生徒会生産隊長にしようとみんなが協力しています。
本当に、頑張らないとですね。
それからは忙しい日々が瞬く間に過ぎていきました。
アルストリアさん監修の元、ミーア先輩は優雅な、まるで貴族のお嬢様みたいなダンスを踊れるようになりましたし、パレード用に作られた車両が届けられた時はみんなでテンション高く叫んでしまいました。
そしてそれを皮切りに続々と集まる衣装の数々。
どれがどこのギルドのものか絶対に間違えちゃいけないのでそれの暗記とまた振り付け。
日に日に上手くなっていくミーア先輩と協力する私たち。
そんな日常を楽しんでいると、あっという間に学園祭の日がやってきたのでした。




