#015 爆弾を食べるなんて良い子は真似してはダメですよ
「いやあ~ハンナちゃん面白かったよー」
「え、そ、そうですか?」
「うん、なんか周りの1年生なんか目を擦ったり、ポカンと口開いてたり、首捻ってる子ばっかりだったもんね~。もう、笑いを堪えるのに苦労したよも~」
そう言ってお腹を押さえているのはミーア先輩です。全然堪え切れていません。口が笑っていますよ?
私たちは最下層のボスを倒し、そのドロップを回収して宝箱を開け(ちなみに〈木箱〉でした、残念)転移陣を使って九人全員で〈初ダン〉に戻ってきたところ、ミーア先輩の我慢が解けました。
「うーん、でもあれって中級のアイテムで、さらに自信作でしたから。それでも一撃には私もビックリしました」
「あれは、おそらく口の中に弱点があったのですわ、それに加えてダメージが多段ヒットになったのが原因だと思われますわね」
「普通なら大口開けて攻撃してくるボスを相手に口の中に攻撃できる人は少ないと思うのでしゅ」
「ですね。私も避けてから胴体を攻撃するつもりでした」
「私も尻尾狙いだったな」
私が感想を言うと、一緒に戦ったアルストリアさん、シレイアさん、サティナさん、アンベルさんが口々に言います。
やっぱり、口の中に爆弾を放り込んだのが一撃でボスが倒れた理由みたいです。
お腹どころか全身が一瞬で膨らんだ瞬間光に還っていましたし、多分お腹の中で爆発したんだと思います。
アルストリアさんの話では、ボスのお腹で爆発したとき、逃げ場の無い攻撃が重なってダメージになったのが原因だとおっしゃっていました。よく分かりませんでしたが、爆弾は食べてはいけないということですね。
爆弾を食べるなんてビックリしました。
良い子は真似をしてはいけませんよ?
「は、ハンナしゃま! あ、改めて、助けてくれてありがとうございました! です!」
「えへへ、どういたしましてですよ」
「本当に、驚きましたわよ。でもあの場面でボスに立ち向かうハンナさん、とても素敵でしたわ」
「はいです! 私なんかハンナさんの後ろで庇ってもらったのでしゅ! あのハンナ様は最高にかっこよかったです。一生忘れないと思います!」
「そ、そんなに褒めないでください。ちょ、ちょっと照れます」
「くぅ~、何この可愛い生き物、ちょっと抱きしめさせて!」
「あうっ、ミーア先輩!?」
なぜだかミーア先輩にぎゅっと抱きしめられて頭撫でられました! 子ども扱いされてます!?
冗談です。でもみんな褒めすぎだと思います。あれは偶然でしたし。
しばらくじゃれあっていると、何か手続きを終えた男子の人たちが返ってきました。
私もやっと開放されます。
「それでは、今日はここで解散ですね。あ、ハンナさんのバッグに預けている素材なんですけど、あっちの〈空間収納戸棚〉に入れてもらってもいいですか? ぼく達〈最終無双〉がパーティーで借りているロッカーがあるので」
モナ君の指さす先を見ると〈初ダン〉の奥にロッカールームが見えます。
ちなみに〈空間収納戸棚〉とは、そのダンジョンで活動する人たちの一時収納場所のことで、ミールを払えば誰でも個別ロッカーを借りることができます。
今回のように素材がパンパンな時などに預けておくと、すぐに探索を再開できるので便利みたいですね。
私が所属するギルド〈エデン〉では使ったことがないのでよく分かりませんが。
ゼフィルス君、〈空間収納鞄〉の容量を常に気にしていますからね。
また、この〈空間収納戸棚〉は〈採集課〉や〈罠外課〉、あとギルド部屋を持たないパーティなんかが多く利用するそうです。
私も使ったことが無かったのでモナ君にやり方を教わりつつロッカーに預かっていたアイテムを収納します。
「助かりましたよ。今日はハンナさんのおかげでいつもの数倍も捗りました。ありがとうございました」
「いえいえ。私たちも素材を分けて貰えるんですからお互い様です。また一緒に探索しましょう」
「はい! その時はまた、お願いいたします! 〈エデン〉の皆さまにもよろしくお伝えください!」
モナ君は笑顔でそう告げると〈最終無双〉全員で帰って行きました。
「私もお腹すいちゃったわ~。ハンナちゃん、アルストリアちゃん、シレイアちゃんも、みんなで学食行きましょう?」
「さ、賛成でし! ――あう、お、落ち着いたらお腹が減ってきましたから……」
ミーア先輩の提案にシレイアさんが手を上げて賛同しますが、途中で「く~」と、お腹の音が聞こえてからはだんだんシレイアさんの声が尻すぼみになっていきました。
うん。そうですね。お腹が空きましたよね!
みんなで学食へと向かうことになりました。
「そういえば、あの〈アリゲータートカゲ〉の素材、全部私がいただいちゃっても良かったのですか?」
「もちろんですわ。元々ハンナさんの戦力に頼った攻略だったのもありますが、ほとんどハンナさんしか戦っていませんもの。それにわたくしたちは〈攻略者の証〉を手に入れることが出来たのですから、これだけで十分ですわ」
「です。ハンナ様は私を助けてくれましたし、全部持っていってくださいです」
そういうことなら、素材はありがたくいただきます。
私は〈静水の地下ダンジョン〉の〈攻略者の証〉をすでに持っているので、二度目以降は貰えません。
私が納得したところで、アルストリアさんがもう一つ付け足しました。
「それに貴重な中級下位級の回数アイテムを使っていただきましたしね。初級下位のボスとはいえ一撃で屠るそのアイテムの一発は、素材を全部受け取るくらいじゃないと元が取れませんわ」
「え? でもこれはそれほど貴重というほどでは無いですよ?」
私が使った〈爆指輪〉は最大7回使えます。そしてお値段ですが、アルストリアさんが言うとおりなら30万ミールでも売れるとのことです。
すると一発のお値段は……、えっと。うう、計算は苦手です。
そして今回の〈アリゲータートカゲ〉のドロップですが、全部売ってもおそらく5万ミールくらいだそうです。すると、えっと……? トントンくらいでしょう。多分。
私が指を折りながらこっそり計算していると、それを見つけたアルストリアさんが答えを教えてくれました。うう、覗かれてしまいました。
「はぁ、ハンナさんは危機感が少し足りませんわ。そんな事では破産してしまいますわよ?」
「そうは言っても、これって自作だからあんまりお金掛かっていませんし」
「……強いメンバーが身近にいるって、羨ましいですわ」
アルストリアさんが嘆いていそうな、でも羨ましいと言った感じの溜め息を吐きました。
そうですね。私も自分が恵まれていると、とても思います。
帰ったら、この素材で新しいアイテムを作りましょう。
私もいつもお世話になっているギルドに貢献しないと!




