#129 〈エデン〉――ギルドハウスにお引っ越し!
今日はCランクギルド引っ越しの日です!
ゼフィルス君は相変わらず忙しそうにしていて今日は不在、というか引っ越しのことも知りません。引っ越し日はギルドメンバーで決めて、ゼフィルス君の負担を減らしたのです。
みんなゼフィルス君が大好きですね。
「ハンナ、おはよう」
「おはようございますカルアちゃん。そんなところで何をしているんですか?」
朝、私たちの所属している、いえ、もういた、でしょうか。Dランクギルド部屋の前にカルアちゃんが立っていました。
私は首を傾げて尋ねます。
「ん。戦力外通告。私は見張りだって」
「見張り……」
引っ越し作業で、見張り?
私がポカンとしているとカルアちゃんがギルド部屋に案内(?)してくれます。
「ん、ハンナ中入る。――ハンナ来た」
「あ、ハンナさん! お待ちしておりましたわ」
「えっと、リーナさん、おはようございます」
「おはようございますわハンナさん」
中ではすでに荷造りが開始されていました。
その指揮を執っているのはリーナさんです。
「ハンナさんの部屋は勝手に手を出すわけにはいきませんのでそのままですの。今日中に荷造りは間に合いますか?」
「は、はい。大体の物は〈空間収納倉庫〉か〈空間収納鞄〉に入ってますので、作業も1時間程度で終わると思います」
リーナさんにそう返します。
Dランクギルド部屋には一つの大部屋と四つの小部屋がありますが、その一つは私が錬金部屋として使わせてもらっています。
今日は部屋の物を荷造りして引っ越し作業です。
普通ならとんでもない作業量になるハズですが〈空間収納鞄〉のおかげですぐに済みますね。
「うんとこしょ、どっこいしょ、なのです」
「ルルさん、ぬいぐるみが落ちましたわ!」
「あ、ありがとうなのですリーナお姉ちゃん!」
「このショーケースは少しバラした方が良さそうですね」
「中のぬいぐるみは、迷子が出ないよう一つずつ確認しなければいけないな」
至る所で荷造り中ですが、ぬいぐるみ組と思われるルルちゃん、シェリアさん、リカさんがちょっと羨ましい。私もそっちに参加したかったかもしれません。
そこで気が付いたのですが、あれ? いつもの場所に祭壇と〈幸猫様〉〈仔猫様〉がいません。
「あれ? そういえば祭壇と〈幸猫様〉たちはどこにいったのですか?」
「ラナ殿下たちが取り外して持っていきましたわ。〈エデン〉で一番重要なものですからとのことですわ」
「うーん、間違いではないのですよね」
リーナさんと一緒に苦笑してしまいました。
〈エデン〉で最も重要なのは〈幸猫様〉。ぬいぐるみの中でも一番です。
その扱いも他のぬいぐるみとは比べものにならないです。
ですが、そのラナ殿下はいったいどこにいったのでしょうか?
見当たりませんけど。
「あ、いけないいけない。私は錬金工房の荷造りしなくちゃ」
ゆっくりしている時間はありません。ゼフィルス君が帰ってくる前に終わらせないと。
ゼフィルス君、忙しい身だというのにこういうことは率先して手伝ってしまいますから。少しは休んでもらいたいものです。
「引っ越しが終わったら引っ越し祝いですから、色々買い出しも行かなければなりませんわね」
指揮を執りながら今日の予定を組むリーナさんに心の中で頑張ってくださいと送り、私は錬金部屋へと入りました。
1時間掛けて荷造りと掃除を終わらせて、この部屋ともさよならします。
部屋を出ると、さっきまでの大部屋が様変わりしていました。
「大体終わりましたわね。あ、ハンナさんの方は終わりましたか?」
「はい。こっちは掃除も終わっています」
「予定どおりですわね。後はこちらも掃除だけですので先にギルドハウスに行ってきてくださいな。――あとルルさん、ぬいぐるみの運搬よろしくお願いしますわね。ハンナさんと一緒に先に向かってください」
「あいなのです! ハンナお姉ちゃん、一緒に行くのです!」
「うん! よろしくねルルちゃん」
〈空間収納鞄〉を三つ両肩と首に掛けて、なんだかごちゃっとしつつも、園児を思わせる雰囲気を醸し出す格好のルルちゃんを少し鑑賞させてもらい、一緒に新しいギルドハウスへと向かいました。
向かうはC道、よく買い物などに来ていた道ですが、そこに自分のギルドがあるというのは、なんだか新鮮な気持ちになりました。
「着いたのです!」
「ここが、新しいギルドハウス」
C道でも端の方に位置する場所に私たちのギルドハウスがありました。
見れば、ちょっと普通? なんだかあまりパッとしない見た目の建物でした。
マリー先輩の〈ワッペンシールステッカー〉を見慣れているからでしょうか? あの華やかな店構えと比べると、本当に同じ規格のハウスなのかと思ってしまいますね。
これから改装して良い感じのギルドハウスに仕上げていきたいと思います。
しばらくギルドハウスを見上げていた私たちですが、不意に扉が開きました。中にはシエラさんがいました。
「ハンナ、ルル、来たのね。入って頂戴」
「あ、おじゃまします」
「ハンナお姉ちゃん、ここはもうルルたちの拠点なのです! おじゃましますではなくただいまなのです!」
「そうですね。ただいま!」
「ただいまなのです~」
「はい。おかえり、2人とも」
シエラさんの出迎えに少しテンションを取り戻して中に向かいます。
今は荷ほどきの真っ最中でした。
「あ、〈幸猫様〉がありますね」
「真っ先に設置したもの。あれが無いとゼフィルスが悲しむから」
「そうなのです。ゼフィルスお兄様は〈幸猫様〉が無いととっても悲しむのです!」
そこら中で荷ほどき中の状況で、祭壇と〈幸猫様〉、〈仔猫様〉はすでに設置してありました。さすがですね。これでゼフィルス君がいつ帰ってきても安心です。
改めて中のギルドハウスを見渡します。
「なんだか、新しい家ってドキドキしますね」
「少し前まで〈テンプルセイバー〉が使っていたけれど、今は全部ピカピカで新築のようにリフォームされているからね」
「早速新しいおうちにぬいぐるみを出してしまうのです!」
こうして私たちはギルドハウスに引っ越してきました。
このギルドハウスは初期モデルのようで、ここから学園の許可が下りれば好きに改装しても良いのです。
錬金工房を持つも良し、お店を開くも良しです。
ゼフィルス君にお願いしてみましょう。せめてどっちかだけでもしてもらいたいなぁ~。
そう思っていたのですが、この後ゼフィルス君は二つ返事で最高級錬金工房とギルドのお店を開くことを了承してくれたのでした。
さすがゼフィルス君です!




