#128 祝いの席で不穏な言葉。3年生がもうすぐ引退?
最近、お祝い事がありました!
「ハンナさん、Cランクギルドへの昇格、おめでとうございます」
「おめでとうですハンナ様!」
「おめでとうハンナちゃん~抱きしめてあげるね!」
「むぎゅ!?」
そうお祝いしてくれたのはアルストリアさん、シレイアさん、ミーア先輩です。
今日は〈生徒会〉のお仕事の日なのですが、先日私が所属するギルド〈エデン〉がCランクギルドに昇格したことで生徒会のみなさんがお祝いの席を設けてくれたのです。
私は今ミーア先輩にガッツリ頭をホールドされていて真っ暗で見えないのですが、いくつかの長テーブルを合わせてテーブルクロスを被せただけの簡易テーブルにお茶菓子を置いてお祝いしてくれています。
「まあまあミーア。ハンナ君が苦しそうだ。そろそろ離してあげたらどうだい?」
「うむ、ばたばた慌てるハンナも見ていて良いものじゃが、このままではまずそうじゃ」
「あ! ハンナちゃんごめんね!」
「ぷはっ!」
あ、危うくミーア先輩の豊かな胸で溺れるところでした。ふうふうと息継ぎします。
ローダ先輩とフラーラ先輩には心の中で感謝を送ります。
「まったくミーアは、ハンナさんの迷惑だから私の隣の席に来なさい」
「断る!」
「そう、強制したほうがいいかしら?」
テーブルを挟んで向かいには怒りマークをして薄ら笑いを浮かべるチエ先輩がいました。
その後、スッとこちら側に歩いてきたチエ先輩にミーア先輩は捕まり、向こう側の席へ強制的に連れて行かれてしまいました。
「ひど! チエちゃんひどいよ!? このケーキとか誰が用意したと思ってるの! ハンナちゃんにあーんして食べさせるために横の席を確保したっていうのに!」
「チエちゃんではありません、先輩をつけなさい。まったくもう、代わりに私が食べてあげるから諦めなさい」
「チエちゃ、チエ先輩じゃ意味無いんだよ!?」
「ん~相変わらずミーアのケーキは美味しいわね」
「ほらほらほら! 自分で食べて自分で感想言ってるし! それほどでもあるけどさ!」
〈生徒会〉のメンバーはみなさん仲良しです。
特にミーア先輩とチエ先輩はとても仲良しですね。
ちなみにこのお茶菓子は【高位料理人】であるミーア先輩の手作りです。
とても美味しいです。
でもあーんは恥ずかしいので、出来れば自分で食べたいです。
「でも〈エデン〉のみなさんは本当に成長が早いですわ。1年生でもうCランクだなんて」
「は、はい! すごいですハンナ様! これでギルドハウスの施設が、色々使えちゃいますね!」
アルストリアさんとシレイアさんの私を見つめる目がキラキラです。
2人がこうなるのも無理はないです。Cランクギルドといえば、生産ギルドからすれば現実的な一番上のギルドランクなんです。
この〈迷宮学園・本校〉のギルドはその多くが戦闘ギルドです。戦闘職の方が人数が多く、上級職など実力も高いので結構偏っていますね。
おかげで生産ギルドはSランクギルドには存在せず、最高でAランクギルドです。しかも1枠しかないです。〈青空と女神〉ギルド、ここは企業との繋がりが深く、誰も敵わない不動のギルドとなっています。
さらにBランクに2枠、ここは詳しくは知らないのですが、かつてチエ先輩やムファサ隊長が在籍していたらしいとの話を聞いています。3年生だけで揃えられたギルドで1年生や2年生は受け入れず、この代で消滅する気なのだと噂されています。その代わり全員が相当の腕前です。
そんなわけで、現実的に見て生産ギルドの中で現状上がれるのはCランクギルドなわけですね。
もちろん私のように戦闘ギルドに加わればもっと上を目指せますが、その代わり就活に多大な影響を与えるギルドバトルには参加できませんし、完全に裏方の扱いになります。さらには工房施設など、生産職がその力を発揮するための施設が揃えられないということもあるそうです。
そのため戦闘ギルドなら戦闘職関係、生産ギルドなら生産職関連の人たちで住み分けた方がお互いに良い。というのが定説です。
私のように戦闘ギルドに生産職がいるのが珍しい事例ですね。
なので私は苦笑してアルストリアさんとシレイアさんに返します。
「私は別にすごくなんてないですよ、ギルドバトルをしたのはゼフィルス君たちですから」
「あら、わたくし聞きましてよ。あの地雷罠はハンナさんが御作りになられたって」
「わ、私も聞きました! 教室で!」
「つまりは間接的にギルドバトルに貢献してるってことだよね!」
アルストリアさん、シレイアさんの言うとおり、すでに教室ではその話題でいっぱいでした。いえ、教室だけではありません。先輩方ももちろん、周知の事実となっています。
ミーア先輩の言うとおり、私がギルドバトルに大きく貢献したという認識みたいです。
私もギルドバトルに役に立てたという自負はありますので、そこは少し自慢しておきました。
「後輩がこんなに育ってくれて、僕は嬉しいよ。これで安心して隠居できそうだ」
「まだ気が早いじゃろうにローダは。まあ、後のことを任せられる出来の良い後輩に恵まれて幸せなのは確かじゃ」
「本当ね。とはいえ引退までまだ3ヶ月以上あるし、〈キングアブソリュート〉の結果でも左右されるけどね」
「へ?」
ローダ先輩、フラーラ先輩、そしてチエ先輩の3年生組が引退の話をしていました。
しかも私がいるから安心とか、危険なことが聞こえましたよ!?
「ま、待ってください先輩方!? そんな任されても困ります!?」
「大丈夫だよハンナ君、まだ時間はあるからね。僕たちが引退するまでにしっかり引継ぎはするさ」
ローダ先輩の言葉は安心出来るもののはずなのに、不安に感じるのはなぜでしょう?
「まあまあ、引退なんぞ湿っぽいのはその辺に置いておこう! 今はハンナの祝いの席じゃ!」
「そうだったわね。お祝いだわ」
フラーラ先輩もチエ先輩も、私を祝ってくれています。
ですが背中が震えたのはなぜでしょう?
 




