#127 悩んでいても、評価はどんどん上がるもの!
上級職になった私の仕事は、実はそれほど多くはありません。
ゼフィルス君曰く、上級生産職というのは上級ダンジョン以降の素材を加工することが出来、より強力な装備やアイテムを生産できるようになるそうです。
下級職ではそもそも中級ダンジョンまでの素材しか加工できないので装備などが強化しきれない。
世の中で上級ダンジョン進出が進んでいないのは上級生産職がいないのが理由なんだそうです。
なぜゼフィルス君がそんなことを知っているのかはいつもの事なので置いといて、要は上級素材が手に入らないので私は『上級錬金』ができないのです。
上級素材は上級ダンジョンじゃないと手に入りませんからね。
そのため、私の生活はいつもとさほど変わりませんでした。
いえ訂正します。私の仕事はあまり変わりませんでした。生活は、それなりに変わってしまっています。
「あ、ハンナ様ですわ。お菓子いりませんこと? 今日は滅多に手に入らないトゥーの砂糖を使ったマドレーヌが手に入りましたの」
「は、はい! ありがとうございます」
「「「可愛い~~」」」
ここは福女子寮。
最近はラウンジで雑談している先輩の前を通りかかると大体お菓子を貰います。
もしかして私、餌付けされています?
有名になってから、よく声を掛けられてはいましたが、クラス対抗戦からはそれが顕著、いえエスカレート? これではもうマスコットでは無いでしょうか?
それでですね、ゼフィルス君にも相談してみたんです。先輩が私をマスコット扱いしてくるって。そうしたらですね。
「ハンナのマスコットだって!? 俺も欲しい!」
「ゼフィルス君!? 欲しいじゃないんだよ!?」
そんなやり取りがありました。
まったくゼフィルス君はもう、まったくもうです。
しかも割と本気でそう思っていそうなので、まったくなのです。
私をデフォルメしたぬいぐるみ……はっ!? 今私は何を!? なんでもないですよ!?
「ふう、やっと帰って来られました。今日もたくさん可愛がられてしまいました」
やっと自分の部屋に戻ってきて一息吐きます。
心労が嵩んでいる気がします。ひとたび歩けば視線を集め、憧れのようなキラキラした視線にさらされ、たまにハンナ様と呼ばれる。
本当に、どうしてこんなことに!?
私は制服を脱いで浄化魔道具に入れ、クリーンを掛けます。
シャワーを浴びてラフな格好に着替えました。
そのままベッドにうつ伏せでダイブして反発するベッドに顔を埋めます。
「ふう。このまま時間が経てば徐々にみんな忘れていくのかな? 忘れて欲しいなぁ」
誰とも無しに呟きます。ベッドに飾ってある〈スラスラさん〉と名付けられたスライムぬいぐるみを抱えて仰向けになり天井を見つめました。
抱えた〈スラスラさん〉をぷにぷにします。形を変える〈スラスラさん〉に少しずつ癒されていくのを感じました。
スラリポマラソンでもしようかな? なぜか手に持った〈スラスラさん〉から怯えた目で見つめられた気がしました。
そんな時です、〈学生手帳〉がピロリン♪と鳴り、メッセージを受信したことを教えてくれます。
「メッセージ? 誰だろ?」
私は仰向けのまま手を伸ばして〈学生手帳〉を取り確認すると、どうやらゼフィルス君からのようでした。
「何々? 〈テンプルセイバー〉と〈決闘戦〉をすることに決まったからまた〈炎爆地雷〉の作製をよろしく? って〈決闘戦〉!?」
ゼフィルス君ったらまた派手に動いているみたいです。
〈決闘戦〉といえば別名〈賭け戦〉とも言われている、ギルドの大事な物同士を賭けたギルドバトルだったはずです。
しかも〈テンプルセイバー〉といえば元Aランクギルドですよ!?
いったいゼフィルス君に何が!
「あ、でもでも〈炎爆地雷〉の作製を依頼ってことは、勝てる見込みがあるってことだよね?」
相手は格上のギルドさん。〈エデン〉に勝ち目はあるのでしょうか?
ですが、ゼフィルス君ならきっと負けませんよね。だってゼフィルス君ですもん。
私は生産職なので戦闘ギルドバトルに参加することはもう無いかもしれませんが、それでも出来る限り生産職としてサポートしたいと思います!
上級職になってさらに腕を上げました私の錬金術で、〈エデン〉を有利にしていきましょう!
早速依頼のあった〈炎爆地雷〉の作製に入ります。
あれ? 以前作った時より性能がだいぶ上がっていますね。もうちょっと上げられそうかな?
私は〈炎爆地雷〉をさらに改良できるよう研究することにしました。
以前〈炎爆地雷〉を作ったのは夏休み、私がまだ下級職の時でしたから、上級職になって作るのではパワーが違いますよ。
私は素材の不足分をスキルやステータスで補強しつつ、以前よりも威力が2割増しな〈炎爆地雷〉の作製に成功したのでした。
古い〈炎爆地雷〉は今度売ってしまいましょう。
今回のギルドバトルで〈炎爆地雷〉が活躍すれば、少しお値段増し増しで売れるかもしれませんしね!
次の日、ゼフィルス君に聞いたところ、なんと〈決闘戦〉にはギルドランクを賭けることになったそうです。
つまりは勝てば〈エデン〉はCランクギルドに昇格。
Cランクギルドと言えば、ギルドハウスです。ギルドのハウスが与えられます。
ギルドハウスには専用の工房が設置できます。
今までギルド部屋の一施設でしかなかった錬金部屋が立派な工房になるのです。
工房ではもちろん品質の高い物が作れますし、失敗も滅多になくなります。万が一失敗してしまっても素材が消滅しにくいなど、恩恵が非常に高いのです。
もちろん成功した品も高品質に非常になりやすく、最高級の工房は生産職の憧れです。
さらにはギルドハウスは自分の店を持つことが出来ます。
マリー先輩やミーア先輩のように、自分のお店をオープンさせることが出来るのです。
今までマートで細々とやって来たお店が、本物のお店が運営できる。
これはとても気合が入ります!
結局2割増しからさらに性能を伸ばし、威力3割増しにすることに成功。思わずまた200個ほど、3割増し〈炎爆地雷〉を作製してしまいました。
気合の入った品です。
これなら十分Aランクにも通用すると思います!
そしてギルドバトル当日、私の地雷は見事に元Aランクの騎士を屠り、また私の名声が上がってしまったのでした。
な、なんで~!!




