#125 対抗戦コンテスト終了。そしてハンナは伝説へ。
「〈エリクシール〉出来ましたー! ちゃんと全部高品質です、よ? ――!!」
そう言って顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、齧り付きで食い入るように〈エリクシール〉を見る目を血走らせた審査員さんたちでした。
な、何事です!?
「で、出来たのですか?」
「ご、ご拝見させてもよろしいでございますでしょうか?」
「え? えっと、どうぞ?」
若干言葉がおかしい審査員の人が震える手を伸ばしてきたので出来上がったばかりの〈エリクシール〉を渡します。釜に入った10本の〈エリクシール〉を両手で1本ずつ、大切に持った審査員さんが会場中央へ向かいました。
よく見るといつの間にか会場には、先ほどは無かったはずの台座が設置されていました。
確かあの台座は、授業で見たことがあります。〈宝卵の台座〉という鑑定アイテムで、非常に高い『鑑定』スキルを持っているのに加えて、鑑定結果がアイテムを使った本人だけではなく、大きく表示されるためにこういう場では有用なアイテムだったはずです。しかも複数同時『鑑定』も可能だったはずです。
ですが、あれは〈金箱〉で数が少なく貴重なため、あまり出さないと聞いていたのですが。
もしかして私の〈エリクシール〉を鑑定するためだけに出してきたのでしょうか?
「お、おい、お前ら、絶対に落とすなよ? 気をつけろよ?」
「お、おおう。だ、だだだ大丈夫だ。おっ!? ――おととと!?」
「「あああ!?」」
「とっとっと。はは、だだだ大丈夫だ」
「不安しかないよ!?」
「何も無い所でなんで躓いた!?」
「いいから慎重に運べ! ハンナ様の前だ、騒ぐなお前たち!」
審査員の方がもつれそうな足を動かして台座にたどり着くと、慎重にエッグ型の台座にそれを置きました。
審査員の1人が台座を使用すると、頭上に鑑定結果が表示されたのです。
それは私がさっき〈解るクン〉で『鑑定』した数値と同じですね。とてもよく出来たと思います。
集中しすぎてエキシビジョン中で失敗出来ないことを忘れていましたが成功して本当に良かったですよ。
「おお、おおおおお!!」
「「「「おおおおお!?」」」」
すると、その鑑定結果を見た審査員と観客席がざわめきに包まれました。
「回復値が1800!?」
「た、高ぇなんてもんじゃねぇ!?」
「どんな高名なタンクでも一発で全回復するんじゃねぇか!?」
「今までの【錬金術師】の最高が1200だったのに、五割増し、だと!?」
「しかも10個同時作製だぞ!? そして10本全部が高品質!?」
「これが、上級職の力なのか!?」
「いやいやいや、これはハンナ様のお力だ! 君は10本同時作製でそもそも全てを高品質になんて出来るのかね!?」
「……無理」
「今までは不純物が多すぎて粗悪品の〈エリクシール〉か、頑張って普通級にたどり着いても上昇値があまり伸びなかったからな」
「〈ハイポーション〉の最高値が1150なのがな。今まで〈エリクシール〉はそこまで注目されていなかったが、この回復値は」
「一本で全回復なら最前線で腹たぷたぷになりながら戦うことも無くなりそうだ」
「ボスの攻略も捗るぞ。タンクの戦線復帰が容易になる。一瞬誰かが抑えているうちに1本飲めばいいわけだからな。ヒーラー不足の〈戦闘課〉にはありがたい福音だ」
「これ、量産は出来るのか?」
会場のみなさんがすっごくざわめいていました。
えっと?
困惑しているところに司会者のお姉さんがやってきました。
「凄まじい! 凄まじいポーションだー! なんと回復値が1800という驚異の数値! 下級職であればどんなタンクでも一本で全回復! 上級職でもこれで全回復できるだろう1品! それがなんと10本同時作製で作られた物であると誰が予想出来たでしょうか!? そしてみなさん気になっているでしょう、これは量産出来るのかと! では、皆様を代表して聞いてみます! ハンナ様、果たしてこれは今後も量産し、供給し続ける事が可能なのでしょうか!?」
「あ、素材が無いので無理です」
「あっさり終わったーー!!」
「「「「おおおおお!?」」」」
えっと、ガッカリしているところ申し訳ないのですが、この素材は学園長からもらったもので、実はもうほとんどありません。この日のために使い切ってしまいました。
「なので、次の作製は上級素材が手には入ったら、になりますね」
「ではこの〈エリクシール〉を買い取ることは可能なのでしょうか!?」
司会者さんがめげません。その一言に観客席中、いえ、審査員の方々も前のめりになりました。
しかし、それに物申したのはアイス先生です。
「お待ちなさい。今回ハンナさんがコンテストへ出品した物は全て展示すると決まっております。これは全て学園が買い取りますので売ることはありませんよ」
「な、なんということだー! これは仕方がありません! 会場のみなさん、残念ですが諦めてくださいね」
あ、あっさり引きますね。いえ、もしかしたらこれは予定調和?
もしかしたら会場の人たちにこれは売り物では無いと、混乱を避けるためにアイス先生と結託していたのかもしれません。先ほど審査員さんが〈エリクシール〉を運んでいた時に司会者さんとアイス先生が一緒にいたようですし。あ、ありそうです。
「では上級素材を入手したらハンナ様のところで作製していただくことは可能ですか!?」
「え、えっと。そういうのはやっていないです。すみません」
「なるほどなるほど。ですが、ハンナさんのギルドが上級へ到達し、素材を手に入れた暁には販売すると判断しても宜しいのでしょうか!?」
司会者のお姉さんがぐいぐい来ます。
アイス先生を見るとコクコクと頷いていました。
これは「はい」って言えということでしょうか。
「えっと、はい。その時は売りに出そうと思いますので、買ってくださいね?」
「「「おおおおお!!」」」
「絶対買う! 買い占める!」
「俺だって買うぞ! ハンナ様のポーション元気1000倍だ!」
「俺ももしかしたら上級ダンジョンに行けるかもしれない!?」
「うおおお! え、〈エデン〉に投資は出来ますか!?」
なんだかすごいことになっていますがアイス先生!?
後で知ったのですが、期待させてあれもダメこれもダメでは色々爆発される可能性があったため、未来の希望を示す必要があったとのことでした。
なるほどです。確かに将来のことなのでまだ分かりませんからね。
会場は熱気に包まれてしまいましたがアイス先生がそれを冷やし、表彰が始まったのでした。
〈錬金術課1年生〉の部、優勝者、アルストリアさん。
2位がシレイアさんと続き、3位までが表彰されていました。
そして最後に私の番です。
「殿堂入り。――ハンナさん、前へどうぞ」
「ひゃ、ひゃい!」
1位と2位の位置に並んだアルストリアさんとシレイアさんが目で頑張れと応援してくれる前を通り、アイス先生の前へと立ちます。
「殿堂入りおめでとうございますハンナさん。あなたはコンテストで高い成績を残し、比類無き素晴らしい作品を仕上げましたためここに殿堂入りを表します。ハンナさんの作品は学園に展示され、自由に見ることができるようになります」
「は、はい! ありがとうございます!」
殿堂入りということ自体珍しいことなので、この時に私に渡されたのは表彰状でした。
とても恐縮ですが、私は背を伸ばしてそれを受け取りました。
そこにはしっかり、〈錬金術課1年生ハンナ・殿堂入り〉と書かれていました。
私、本当に殿堂入りなんてしちゃって良かったのでしょうか?
こうして無事コンテストは閉幕。
私たちのクラス対抗戦は終わったのでした。
第三章 ―完―
後書き失礼いたします。
更新再開して1ヶ月。無事、第三章クラス対抗戦編-完-いたしました!
毎日更新、結局出来ましたね!
また、第四章は文化祭編のため本編がそこへ到達するまでハンナちゃんストーリーはまたお休みとなります。
1ヶ月間ご愛読ありがとうございました!
また、現在ラノベランキングサイト「このライトノベルがすごい 2023」が開催中で、もしよろしければ〈ダン活〉本編を投票してくださると大変嬉しいです!
締め切りは9月25日までとなっております!
どうか作者と一緒に〈ダン活〉を盛り上げてください!




