#124 ハンナちゃんのエキシビジョンパフォーマンス!
エキシビジョン。
主にその大会などでとても優秀な成績を出した選手によるパフォーマンスやご褒美的なイベントだそうです。
クラス対抗戦でエキシビジョンが行なわれたことも、過去何回かあるそうで、アイス先生は「名誉なことですから、どうぞハンナさん」ととても良い笑顔で送り出してくださいました。
どうやら、私が一生懸命この日のためにしてきた準備などを全部潰してしまったと思い込んだアイス先生が手を回してくれたようです。こ、これは純粋な厚意ですから、拒否することも出来ません!
これからやるのは〈作品作り〉。
本来の〈作品作り〉はチームが一斉にそれに取り掛かりますからそれほどプレッシャーはなさそうですが、今回は私1人です。
この大きな会場に私だけポツンと立つプレッシャーはとてもお腹に悪いです。
「さあなんとなんと! 本クラス対抗戦初となる、エキシビジョンが行なわれることになりました! 選ばれた選手はやはりこの方! クラス対抗戦ではなんと34年ぶりとなる殿堂入りを果たした生産職のトップ! ハンナ選手でーす!」
「「「わーーー!!」」」
「ひえぇ」
司会者のお姉さんがしゃべると会場が大きく盛り上がりました。
私の言葉も一瞬でかき消されて自分の耳にすら届きません。
「さてさてハンナ選手が本日出してきた作品は10種類、この中から一つを選んでいただき作製を実演していただきまーす!」
「「待ってましたーー!」」
「上級アイテムの作り方、見せてくれー!!」
司会者のお姉さんが説明しているのは普通の〈作品作り〉です。
私は普通にやる予定だった〈作品作り〉をすればいいだけだと心に言い聞かせました。
「それではハンナ選手! どの作品を作っていただけるのでしょうか!?」
司会者のお姉さんが私に近づき、マイクを差し出してきました。
これに、言うの? 本当に?
どうしましょう。本当は難易度がちょっと高めで実用性も高い、本当なら10作品目に登場するはずでした〈ミスターソードくん〉を作製しようと思っていました。
ですが、とてもではないですが今は自信がありません。マイクに言うなんて無理です。
もっと簡単で、手ごろに作れるものにしないとです。
それなら一番簡単なのは……。
あ、そうです、ポーションの〈エリクシール〉にしましょう。
これなら簡単に作れますし、下級職でもスキルと素材次第では作製できると聞きます。
ちょうどいい選択ではないでしょうか? 私はマイクに口を近づけてしゃべりました。
「エ、〈エリクシール〉を作りたいと、思います!」
「おおおお! ハンナ選手が選んだのは〈エリクシール〉だー! 【錬金術師】の基本でもあるポーションの上級アイテムです! さすがの選択ですね! ではハンナ選手、お願いします! エキシビジョン始まりまーす!」
「は、はい!」
ゴーサインが出たので早速作製に入ります。
観客席の皆様は、ちょっといないものとして考えましょう。
私は少し俯き加減で作業します。
まずは基本となる〈魔石(大)〉と、〈エリクシール〉の土台となる〈霊草〉、そしてタルを〈空間収納鞄〉から取り出しました。
両方とも上級素材です。
上級素材で作らないと劣化ポーションと言って、粗悪品という効力が70%に落ちたポーションになってしまいます。
高品質を狙うなら全部上級素材で作らなきゃ、ですね。
そしてダンジョン水です。
これも学園長先生からいただいた素材で、上級ダンジョンで確保できる水だそうです。
これもタルで出しておき、〈上級浄石〉を投入して〈上級浄化水〉にしておきます。
土台となる薬草と水、そして魔石はポーションの基本です。
本当ならこの三つで〈エリクシール〉は作れます。
ですが私はまだ上級職のレベルが低くてDEX値とRES値に難が有り、これだけだと普通級が結構な確率で出来上がります。
どうせ作るのなら高品質にしたいですよね。
1個だけ作るというのもなんなので10個ほど作っておきましょう。
10個なら全部高品質で作れる自信があります!
ということで、私が取り出したのは別の〈魔石(大)〉、つまり2個使っちゃいます。
〈エリクシール〉を作る時は1個で良いのですが2個使う事でさらに高品質になりやすくなるんです。
今回は10個作るので〈魔石(大)〉20個用意しておきましょう。
加えて〈毒〉〈麻痺〉〈睡眠〉の状態異常を回復することが出来る〈麻酔直しポーション〉の土台にも使える〈キュラキの葉〉を用意しました。
〈キュラキの葉〉も上級素材ですね。
では、取り掛かりましょう。
「錬金起動。調薬開始」
自分にいつもの暗示を掛けます。
すると、耳にはあまり雑音が入らなくなり集中力が高まった気がしました。
「お薬すりすり~、お薬混ぜ混ぜ~」
いつも通りポーションを作る手順で〈霊草〉と〈キュラキの葉〉をすりつぶし、ダンジョン水を注いで、調合、それぞれの薬効を抽出します。
「『上級調合』!」
ここの〈錬金セット〉は最高級品が揃っているのでとても良い仕上がりですね。
良い色が出ています。
「出てきた〈霊草〉の薬効を〈錬金釜〉へ投入。かき混ぜましょう~」
ここで使うのは私の〈猫の手の錬金棒〉ですね。
これだけは借り物だと勝手が代わってしまいますからマイ錬金棒を使います。
「まーぜ、まーぜ、ここに魔石を2個と〈キュラキの葉〉の薬効を加えてさらに混ぜ混ぜ~」
全ての素材が錬金釜へ投入されました。
ここからは一定の流速を維持しつつ、スキルを付与していきます。
「『薬回復量上昇付与』!」
私がスキルを使うと錬金釜の中がぴかりと光り、スキルが上手く付与できたのが分かりました。
うん、これで仕上げです。
「『上級錬金』!」
これは上級ポーションなので『上級錬金』を使います。
錬金釜の中がピカーっと輝くと液体類が消え、10本のポーションが表れていました。
私は早速〈解るクン〉で『鑑定』します。
そこにはしっかり〈エリクシール〉高品質と書かれていたのでした。
もちろん10本全てです。




