#012 商談成立。作製したアイテムが売れたよ!
「それで商談なのですが」
「あ、はい。サティナさんは攻撃系アイテムが欲しいんですよね?」
「はい。それが一番優先でありますが、できれば消費アイテムは全般的に揃えたいのです」
〈採集課〉メンバーが採集に精を出している間、私たち寄ってくるモンスターの対応組は商談ごとを始めました。
職業【アイテム士】のサティナさんがアイテムを仕入れたいらしいのです。
ですが出費は抑えたいサティナさん。
これはつまり、ご贔屓にするので割引価格で購入したいということです。
私としても初めての顧客さんですし、素材の供給をしてくださるということで悪くは無い話です。
ですが、私だけならこんな商談は難しかったです。
今は座学で錬金品の相場を学んでいますが、私が作る中級産の物はまだまだ先のようで初級品や初級産ばかり勉強していますから。
勉強不足で値段を決めることの出来なかった私ですが、なんとそこにアルストリアさんが入ってくださることになり、商談はそれなりに進みました。
「やはり中級産は手が出ませんね」
「そ、そうなの、です?」
「中級のアイテムはたとえハンナさん的には普通の品でも販売するとすれば数万ミールから数十万ミールはしますわ。まだまだ一年生には手が出せないでしょうね」
今売れる商品と言われたので、私が使う分以外、つまり練習に作った品や試作品などを出してみたのですが、アルストリアさんの話を聞いたサティナが首を振りました。
あ、あぶないです。
数万ミールから数十万ミール。
中級産のアイテムのお値段ですが、私はそれを「あ、そんなものなんだ」と思ってしまったのがとてもあぶないです!
私、大丈夫!? 10万ミールって言ったら大金だよ!?
か、感覚が麻痺してきてる!?
うう、〈エデン〉にいたらもっととんでもないアイテムやお値段がごろごろしているのでそっちに影響されていたようです。
私、いつの間にか染まっちゃってるよ……。気をつけないと。
「ハンナさん、初級の、そうですね中位級で良いものはありませんか?」
「初級中位級ですか? えっとそれでしたら、これとこれと、あとはこの辺全部かな」
「と、とんでもない数が出てきましたわ」
サティナさんの要望に、私は〈空間収納鞄〉からその場に作業机を取り出し、その上に色々と置いていきます。
ほとんどは練習用に作った物ですが、私はもう使わないものばかりです。この辺なら格安で売っても大丈夫ですね。
とりあえず攻撃アイテムだけ取り出しました。部屋に戻ればまだまだあることも告げます。
すると目をキラキラさせたアルストリアさんがガシッと手を掴みました。
「ハンナさん、素晴らしいですわ! ねえ、卒業しましたらうちの店で働きませんこと!?」
「え、えっと。考えておきます」
まさかの勧誘です!
お気持ちは嬉しいのですが、ちょっと怖いです。
「腕が大変よろしいのです。それに種類がとても豊富です。これだけのレシピを集めるだけでも大変だったのではありませんか?」
「え、えへへ。ほとんどはゼフィルス君が集めてきてくれたのですけど」
ある日突然ゼフィルス君がレシピの束を持ってきたときはビックリしました。
初級から中級産までたくさんのレシピが載っている、ちょっとした資料集でした。
とりあえず初級のものは大体作れるようになりましたよ。
残りは素材が集まれば作れるようになるはずですが、正直もう初級のアイテムはあまり使わないので本当に練習や経験値用です。ちょっと勿体無いのでもう作るのをやめるか迷っています。
ああ、でもせっかくゼフィルス君からのプレゼントだし、全部制覇しておいたほうが……。なんて考えていましたが、これが売り物になるなら、それはとても嬉しいことですね。
そんなことを思っていると、私の言葉に目を輝かせたアルストリアさんが視線を合わせてきました。
「まあ、あの勇者さんですわね! ハンナさん、噂にはお聞きしていましたが、やはりその、親しいんですの!?」
「へ? そ、そうですね。何しろ幼馴染ですから」
ちょ、ちょっとだけ見栄を張りました。でも嘘じゃないですよ。幼馴染なのは本当です。
「羨ましいですわ。――そうですのね、将来は勇者さんの専属に、だからお誘いも断わられたのですね」
後半アルストリアさんは独り言を呟くようにして納得していましたが全部聞こえています。
いえ、まだゼフィルス君の専属になるといわけでは……、あれ? でも今ももうそんな感じだよね?
もしかしてゼフィルス君、ずっと私に付いてきてほしいのかな?
そ、それなら私も付いていきたい、のだけど。
それからサティナさんがアイテムを選んでいる間、アルストリアさんから根掘り葉掘りゼフィルス君のことを聞かれてしまいました。
「これとこれ、それにこれも欲しいです。優先するのはこの三つで、後こっちの12個はミールが貯まったらまた買いたいです」
「わ、わかりました。大丈夫です」
「ではお値段は、そうですわね全て合わせて3万ミールといったところかしら? 普通なら8万ミールを少し超えるくらいですが、素材をもらえるのならこのくらいでしょう」
「それほどお安くてもよいのですか?」
「私はいいですよ。もう私は使わないものですし。アルストリアさんが妥当だと判断したなら信じますよ」
「助かります、ハンナさん」
「私こそ。作った物が売れるなんてもっと先だと思っていました。ちょっと感動です」
こうして私の初めての商談は終わりました。
細かいところを詰めて、今はこの三つの攻撃アイテムだけ。
他の消費アイテムはお金の用意が出来た後日ということになりました。
素材についてもその時に持って来てもらう形になります。
私は初級中位級の攻撃アイテムをサティナさんに渡します。
初級中位級の攻撃アイテムは初級下位ではかなり猛威を振るうはずです。
それに【アイテム士】の能力も合わせたら初級中位でもやっていけるでしょう。
私も自分が作った物が誰かのお役に立つなら嬉しいです。
キャッシュにもなっている〈学生手帳〉同士を重ねるとピロリンッ♪と音を鳴らして入金が完了しました。
お金の引渡しが便利です。でも村にいたときよりちょっと味気ないです。
私は画面に映るデータより、硬貨の方が好きでした。……今では魔石の方が好きかもです。
そうして手続きと後片付けが終わりかけ、私の気が抜けかけた時でした。
「きゃあぁぁ!!」という悲鳴が洞窟の奥から聞こえてきたのは。




