#118 お腹をすかせたアルストリアさんとシレイアさん
クラス対抗戦初日が終わり、2日目。
今日は生産専攻1年生の部が行なわれます。つまりは私たちもやるのです。
き、緊張してきました。
「ハンナさんおはようございます。……なんだか顔色があまりよくありませんわね」
「おはようございますアルストリアさん。アルストリアさんは大丈夫なんですか? 昨日はあの後……」
そこで昨日のことを思い出して言葉を出さずに呑み込みました。
〈調理課2年1組〉の決勝進出が決まった後、観客の大移動、もとい食事ラッシュが幕をあけたのです。
あれは、凄かったですね。直前までおあずけをされていたために、皆さんが凶暴化して……なぜか〈秩序風紀委員会〉が出動することに。
通学路などにある屋台が長蛇の列で、列の整理にかり出されていました。
お勤めご苦労様です。
私たちは結局近くの屋台ではとても買えなかったので仕方なく寮に戻ったんです。
寮なら自分で食べ物とか作れますからね。
今日から5日間は営業専攻さんのクラス対抗戦もしているため、食堂はお邪魔になるのでお休みしているのです。
つまり屋台で買えなければ自分で作るしかないわけですね。
幸い食材はいっぱいあるので問題無く作れちゃいます。
「あの、ハンナさん、いらっしゃいますか?」
「はい?」
そうして料理していると、そこへアルストリアさんが頬を赤く染めながら部屋を訪ねてきたのです。再会、早かったですね。
「その夕飯が何も無くて」
「ハンナ様―! お腹が、お腹がー!」
どうやらアルストリアさんは自分では食事の準備が出来ず、訪ねてきたようなのでした。
さらにはシレイアさんも目に涙を浮かべて「お腹が、お腹が空いて」と訪ねてきて。
結局私の部屋でクラス対抗戦の前祝い的な感じで盛り上がってしまったんです。
あれはクラス対抗戦のお祭りの雰囲気に当てられてしまいましたね。
その後、夜も深まり、もう寝る時間というところで落ち着きを取り戻した私たちは、明日出品するアイテムのことを考えて揃って顔を青くし、アルストリアさんとシレイアさんは慌ただしく帰っていったのでした。
私も少し睡眠時間を削ってなんとか納得のいく作品を作り上げましたが、緊張と寝不足です。
しかし、さすがはアルストリアさんです。
私とは違い全然表面に出ていません。さすがはお嬢様(?)なのです。
と思っていましたが、何やらアルストリアさんの表情が遠くを見ている気がします。
「とりあえず、出来る限りのことはしましたわ。あ、あら?」
「アルストリアさん!?」
ちょっとふらついたアルストリアさんを慌てて支えます。
「すみません、朝も食べる物が無くって」
「そういうことは早く言ってください!? あのこのサンドイッチをどうぞ、今なら手軽に食べられますから!」
表情に出ていないと思ったのは間違いでした。アルストリアさん、化粧で誤魔化していますね。私と同じく、寝不足で、さらに朝食も食べていないとなるとふらつくのも当り前です。
私はゼフィルス君に食べて貰うためにストックしているサンドイッチを〈空間収納鞄〉から取り出し、アルストリアさんに渡してラウンジで休憩を取りました。
「お、美味しい。美味しいですわ、ハンナさん」
「そ、それは良かったですよ」
こんなアルストリアさんは初めて見ました。
かなり弱っているみたいです。
そこで思い出しました。シレイアさんは大丈夫なのでしょうか?
私がチャットでメッセージを送ると、ものの数分でラウンジにシレイアさんが現れました。まるでお腹が空いた雛みたいな顔をして。やっぱりでした。
「ハンナしゃま~」
「はいはいシレイアさんも、そこに座ってください。朝からちょっとボリューミーですが、カツバーガーを用意しました」
「い、いただきます!」
ゼフィルス君用に作ってあるものなので、ちょっとボリュームあります。
ですが、シレイアさんはそれをものともせずに齧り付くと、ガブガブとあっと言う間に食べきってしまったのでした。
「ふ~、満腹、です。ハンナ様、とっても美味しかったです」
「それは良かったですよ」
「ハンナさん、ごちそうさまでした」
「いえいえ~」
良かったです。アルストリアさんもシレイアさんも少し顔の血色が良くなったように見えました。
さて、私たち〈錬金術課1年生〉の対抗戦は13時からです。
それまでに準備を整え、お昼を食べて集合しなくてはなりませんが、まだ時間はあります。
「アルストリアさんとシレイアさんはこの後どうするのですか?」
私は2人の予定を聞きました。
現在午前9時前です。クラス対抗戦自体は10時からなので、見学に行くにしても微妙な時間が空いてしまいます。
「私は部屋へ戻りますわ。ギリギリまで作品の質を高めたいと思いますの」
さすがはアルストリアさんです。
つまり、今日の見学はせず、自分の試合に集中したいということですね。
「私は、やるだけのことはやったので、部屋へ帰って寝たいです」
シレイアさんはお眠みたいです。
起きられるでしょうか?
というわけで私たちは一度解散しました。
私も改めて品を見直しするため一度部屋へと帰宅します。
とはいえ、やはり今私ができる最高傑作たちが並んでいるため、問題は無さそうです。
「よし。これで準備完了かな?」
時間を見ればまだ9時半、時間が少し余ったので私はベッドで少し横になりました。
まどろみに身を任せ、少しだけ眠ることにします。
起きたときは、クラス対抗戦、本番ですね。




