#117 〈調理課〉コンテスト終了!夕方にこれは危険!
「さあああ! 数々の屍を築いた〈調理課2年生〉の〈作品コンテスト〉もとうとう終わりが見えてきたー! 20人いた審査員も残り7人に減り、全員が動けない状態になっていますがもう少し続きがあります! 最後は〈作品作り〉の時間です!」
「がんばれ審査員!」
「負けるなー!」
「審査員! あと少し、これが最後だから頑張れ!」
おかしいです。
選手は〈調理課〉の学生の方のハズですが、観客側の応援は審査員さんの方に向けられている気がします。
「さあて制限時間は30分! 〈調理課2年生〉の方々は至高の一品を作ってくださいね! そして審査員の方々はインターバル! トレーニング機器を用意しましたのでカロリーを消費させてくださいねー!」
「お、鬼……」
最後の審査は〈作品作り〉。
作品を作っている様子から出来上がった品まで全てが得点の対象になる重要な部分です。
ただ、審査員の方々は今必至にトレーニング機器で汗を流しているのですが、審査はちゃんとできているのでしょうか?
と思っていましたが、ミーア先輩が何か下ごしらえした食材でしょうか? それを持って審査員の下へ向かいました。
「これは〈食ダン〉7層で採れました〈風牙のアスパラガス〉です。これは風に当てながら牙を加工した刃物で斬ると味と品質が良くなる特殊な食材で、今日はこれの味を最大限引き出してフライにしていきます。サクサクの衣にジューシーなアスパラの食感を是非楽しんでください」
そう行って審査員にプレゼンをして見せたミーア先輩、当然観客席に伝わってきます。な、なんだか凄く食欲が刺激されました!
思わずゴクリと喉が鳴ってしまったのを自覚します。
どうやらミーア先輩は、しっかりと見ることの出来そうにない審査員のために説明に行ったようです。これは別に禁止されていません。
しかし、すでに限界ギリギリの審査員の方々にさらに料理の話を振るのはリスクが高いみたいで、誰も審査員の下へは近づかず、料理に集中しているようでした。
そんな中、ミーア先輩だけがプレゼンをしたのです。
審査員の方々の反応は、すごいです、すっかり〈1組〉へ視線を向けていました。
「さ、さすがミーア先輩ですわ。プレゼンの仕方が絶妙ですわね」
「わ、私も、アスパラのフライ、食べたい、です。すごく食べたくなりました。〈1組〉はフライ系で攻めるのですか」
アルストリアさんとシレイアさんもお腹を押さえていました。
もう18時過ぎですからね。
他のクラスも慌てて審査員の下へ赴きプレゼンを始めましたが、最初に来た〈11組〉のリーダーさんの説明を受けた審査員の1人がお腹を押さえてギブアップしました。
食欲が上がるカレーものにしたのは良いと思いましたが、プレゼンでは食欲をあげることはできなかったみたいです。
結局審査員は6人になってしまいました。
観客席の審査員頑張れコールがさらに熱を帯びます。
そうして30分後。
「さあ! 泣いても笑ってもこれで決着です! 最後の〈作品作り〉、その評価のお時間です! さあ、どのクラスも素晴らしい料理を仕上げてきてくれました! 時間ももう18時半となり、お腹も限界ですね! 会場から大きな応援の声が上がっていますが、これはお腹の音を隠すためでしょう!」
司会者さんがジョークを交えて会場に笑いを起こします。
真剣勝負、笑っても泣いてもこれで決勝進出クラスが決まります。
ですが、重い空気にならないのは司会者さんが優秀だからですね。
それから組数が高い〈11組〉から始まり、〈6組〉、〈3組〉と続いていきました。
「そして最後は〈1組〉の料理です! さあ攻めてきましたよ! 男なら嫌いな人はいない、フライものでーす!」
「「「おおーーー!!」」」
「衣をまぶして揚げる、シンプルな料理であるが故に食材の品質と下ごしらえ、そして鮮度が大きく影響する料理だーー! 〈1組〉リーダーのミリアスさん、今回このフライで勝負した理由はなんだったのでしょう!?」
「はい。先ほど司会者さんが言った通り、鮮度と品質を活かすためですね。やはり料理は鮮度が命。その味を活かしきるのが料理人としての腕の見せ所。話し合いを経て、私たちはフライという料理を選択しました」
「おおおー! かっこいい理由ですね! 私は先ほどから涎が止まりません! では審査員の方、どうぞー」
「ふう、量はさほど多くはない。野菜類が多いのも助かる。しかし、味はどうかな?」
先ほどまで大きなお腹をさすっていた審査員たちが真摯な表情を取り戻していました。
これは30分のカロリー消費も大きそうですが、〈1組〉の料理を心待ちにしていたからという理由も大きいかもしれません。
証拠に審査員の方々は、様々なフライがあるのにもかかわらず最初に選んだのはアスパラのフライでした。
実食です。
審査員の方々が口に運んだ瞬間、サクッ、とした音が会場に響いたような気がしました。
同時に自分の喉がゴクリと鳴ります。
「ふぅ~。美味い……」
「こ、これは良いものです!」
「なんと、すでに腹がはち切れそうであるのにまだまだ入る気がするわい!」
「す、素晴らしい鮮度! この野菜の甘みがたまらん!」
「油も、これは貴重な〈レルリンオリーブ〉を使っているな。なんと爽やかな味だ。胃もたれする気がしない」
すでにお腹がパンパンな審査員の方々がみるみる食べていき、一気に皿は空になりました。
お残しはありませんでした。
そして大絶賛。審査員と観客席が点けた点数は、
「おめでとうございます! 〈1組〉の〈作品作り〉は計897点でした! この時点で〈1組〉の優勝が決まりましたーー!」
「おおおおーーー!!」
「ふ、……あとは、頼んだ……」
「ああ! 審査員が倒れた!?」
やり遂げたと言わんばかりに5人の審査員が倒れましたが、会場では大歓声が響いたのでした。
〈調理課2年生〉では〈1組〉が決勝進出です!
ちなみに、生き残った1名の審査員の方も、なぜか優勝扱いになっていました。




