#113 コンテストは厳しい! 不正行為は一発確保!
最初のチームの評価は、最初は散々なものでした。
〈呪いのハッピー薬液〉の点数は、審査員28点、観客席3点でまさかの31点だったのです。
これはこれで勉強になりますねとアルストリアさんと話し合っていると、そこから信じられない展開を見せました。
2品目〈ワイルドポーション〉72点。
3品目〈純白のテーブルクロス〉76点。
4品目〈ポイズンパチンコ〉79点。
5品目〈パイ投げ用のパイ〉61点。
6品目〈クッキング甘甘クッキー〉82点。
7品目〈機雷轟樹〉92点
8品目〈クロスブーメラン〉77点。
9品目〈活性の栄養剤〉83点。
10品目〈氷牢の酌〉97点。
「おおおお!! 最初のチームの得点は、なんと合計750点だーー! これは初っぱなから高得点が出てきたーー!!
「「「うおおぉぉぉぉぉ!!」」」
なんと、最初の辛い評価が嘘のように高得点だったんです。
合計は750点。
蓋を開けてみると、最高点数の4分の3という非常に高い得点を稼いでいたのです。
おかしいです。最初は31点という辛口な評価だったのに。
「アルストリアさん、これは」
「……なるほど、これは頭脳戦ですわね」
アルストリアさんが1人手を顎に付けながら物思いに耽っていました。
さすがはアルストリアさん、この結果がどういうことなのか、分かるようです。
私たちはちんぷんかんぷんでした。確かにいい作品もありましたが、途中変な作品も混ざっていたんです。それなのにその〈パイ投げ用のパイ〉ですら61点も貰っているなんておかしすぎます。絶対〈呪いのハッピー薬液〉の方が点数は高いと思うのです。
私たちがアルストリアさんに救いの目を向けていると、苦笑したアルストリアさんが応えてくれました。
「これは一種の持ち上げ、価値の勘違いですね。最初に価値の乏しい物を見せることによって、その後の期待値を下げ、さらに最初の作品と比べさせて、あれよりかはマシだと思わせているんです。これは審査員よりも観客にターゲットを絞った戦術ですわね」
「観客にターゲットを絞る、ですか」
「ええ、先ほどの点数ですが、審査員さんの評価も少々持ち上げられていますが、観客の点数が大きかったのが分かりましたか?」
「あ、確かにそうかもしれません、あの〈パイ投げ用のパイ〉は確か、審査員が18点の観客席43点でした」
「そうです。これは〈パイ投げ用のパイ〉をチームメンバーに投げてウケたのもありますね。ですがそれこそがあのチームの狙いだったようです。他の作品でも、最初のよりマシ、というかさすがに3点は可哀想だ、という心理が働いて観客側の点が多くつけられたと思われますわ」
なるほど。アルストリアさんの考えは的確でした。
確かに〈呪いのハッピー薬液〉は、あれでも中級中位級アイテムです。
さすがに観客側の3点は可哀想でした。それを作ったショタ系の男の子が崩れ落ちて慰められていたのも含めて、あれはまさかの作戦だったのですか!
驚愕でした。
「し、仕方ないから点数あげようか、なんて考えで点をあげた観客が多かったと言うわけですか!?」
「ええ、もっと言うと順番も考慮に入れていたのでしょう。最初に変な作品で気を引き、中盤に面白さを入れて観客を飽きさせないようパフォーマンスを入れ点を増やし、後半は最高傑作で点を取りに来た、という考えが妥当でしょう」
な、なんて壮大な作戦ですか!
まさか観客側にターゲットを絞るなんて、そんな方法があるなんて。
普通にいい作品だけ出すだけでは点は稼げない、ということなのですか!?
「なるほど、〈錬金術課〉は他の生産課とは違い、大きく目立ちませんわ。だからこそコンテストにこのような工夫する要素が生まれるのかもしれませんわね」
アルストリアさんの言葉を咀嚼します。
なるほど、確かに他の生産職さんは特化型です。
〈鍛冶課〉でしたらやっぱり花形は武器であり、形から性能、武器としての価値から美術品の価値まで付いて高得点になりやすいらしいです。
ですが〈錬金術課〉は縁の下の力持ち、どちらかといえば目立たないものが多いので点数自体が低い傾向があるみたいなのです。
例えば〈鍛冶課〉では1位は900点。〈錬金術課〉では1位は750点。みたいな感じです。
その後の〈錬金術課〉の〈総評価ポイント〉でも、2チーム目は652点、3チーム目が713点、4チーム目が599点と、少しパッとしない点数が続きました。
最初のチームさんは750点でしたからかなり高いほうだったのですね。
最初の作品は点数が低くなる代わりに、他の作品は高得点を獲得する。
改めてすごいと思いました。
でも、正直マネ出来そうにありません。
「さすがは上級生、最初のチームは良いアイテム、でも微妙というところを上手く突いた選択でしたわね」
「はい」
コンテストは進行し、このまま最初のチームの得点を抜けるチームが現れないかと思ったときでした。個人出場のあのセルマ先輩という人がとんでもない物を出品したのです。
「これは、写真立て、にしては大きいですね、地図を飾るような額縁とでもいいましょうか! セルマさん意外にも地味目の選択です!」
「いいえ、これの真価はそこではないの。中を見て」
「はい? これは何かの地図、いえ校舎の地図でしょうか? そこに何かルートのようなものが書いてありますね」
「これはね。何を隠そう〈エデン〉のギルド部屋へ巡回の邪魔者を回避してたどり着くルートが書かれているわ。そして見つかったときの逃走ルートから隠れる秘密部屋まで、私が長い月日を掛けて調べ上げた〈秩序風紀委員会〉を躱す正確な情報よ。あの人たちを躱したい人は必見ね。私に点を入れてくれるなら、少しくらい見せてあげても――」
「確保――!!」
「――あ! 〈秩序風紀委員会〉!? ちょっと何触ってるのよ!? ちょ、どこに連れて行く気!? この、――隙ありダッシュ!」
「逃げたぞ!」
「追え追え!」
「絶対に捕まえるのよ! 〈スタンロッドアウト〉の使用を許可するわ!」
「くっ、捕まんねぇ!?」
「無駄に逃げ慣れてる!?」
「「わぁぁぁぁ!」」
……。
…………。
………………。
「えっと、今のはいったい?」
「わ、分かりませんですわ」
何かものすごく聞き捨てならないような発表の後、突入してきた〈秩序風紀委員会〉の方々が一度はセルマ先輩を確保したものの、一瞬の隙を突いてセルマ先輩は逃走。
そのままブースから飛び出して行ったのでした。
あまりのことなのに、会場では逆に歓声があがっていたのが不思議でした。
「えー、失礼いたしました~! 1人ルールに反したため失格になりました~。〈作品コンテスト〉では不当な評価を要望することはルール違反となりまーす! みなさんも気をつけてくださいね~。では7チームになってしまいましたが、続いて〈作品対決〉行ってみましょう~!」
司会者さんも大変だなって、私は思ったのです。




