#107 メモの片付け。ゼフィルス君には困ったものです
―――通称〈ゼフィルス君メモボックス〉。
〈エデン〉では、この小さな〈空間収納倉庫〉は主にそんな風に呼ばれたりしています。
シエラさんを初め、多くの方が厳重に保管していたりしていますが、当のゼフィルス君は多分身に覚えがないのではないのでしょうか?
シエラさんが頭を抑えている理由が分かる物ですよね。
「――ハンナさん、お待たせいたしました。どうぞ」
「あ、はい。ありがとうございますマリアさん」
先ほどのハイテンションの姿はどこヘやら、仕事モードのマリアさんが持って来た箱がテーブルの上に置かれます。
その時のマリアさんの手は緊張で震えていました。
それほどの物がこの中に保管されているのです。
この〈空間収納倉庫〉は珍しく鍵付きです。
鍵が無いと開けることは出来ません。
そして、その鍵は私を含め3人しか持っていません。シエラさんと、セレスタンさんですね。
なんで私がこれの鍵を持っているのか、それはゼフィルス君メモが錬金関係のレシピメモだらけだから、ですね。
他にもダンジョンの詳細な地図とか、〈最強育成論〉と書かれた【姫騎士】の各ルートへの育成方法、なんてメモも保管されています。
ゼフィルス君、皆さんを育成するときに最強育成論を考えて来てくれるのはありがたいのですが、複数案持って来て選ばせてくれて、そしてボツになった案とかは平気でその辺に置いておくので気が抜けないんです。
ええ。シエラさんが頑張っています。
そんな回収されたボツ案のメモ(至宝)が大量に入れられて厳重に保管されているのがこの〈ゼフィルス君メモボックス〉です。
見る人が見ればまさしくお宝の山ですよね。多分商売人のマリアさんやメリーナ先輩なんて、これの価値が私よりもハッキリ感じているんだと思います。
だってマリアさんがこれを持ってくるって言ってから、あのメリーナ先輩も緊張で黙ってしまいましたし。
「えっと……」
私は鍵を取りだしたまま2人の方を向きます。
「! 失礼いたしました!」
「私たちは向こうを向いていますのでごゆるりとどうぞ」
「あの、すみません。作業の邪魔をしてしまって」
「い、いえいえ、とんでもないです。私たちももう片付けて撤収しますから」
「はい。ですからハンナ様は本当にごゆるりとくつろぎながら読んでいてください」
「えっと、はい……」
〈助っ人〉に来てくれて〈エデン〉で誠心誠意働いてくださるとは言え、2人は〈助っ人〉の方です。信用はとてもしていますが、さすがにこれを見せるわけにはいかないです。
私は恐縮しつつもさっと鍵を開けて中の物を確認していきます。
そして〈錬金レシピの基礎上級〉と書かれたメモをいくつか取り出しました。〈基礎〉で〈上級〉とはこれいかに? と思うかもしれませんが、ゼフィルス君的には上級を作るにはまず入門口があるんだそうです。それが基礎。
上級錬金をしたければ、まずはその基礎を学ぶべし、そんなことをゼフィルス君は言っていました。
メモをギルドに置いといたと言っていたゼフィルス君でしたが、案の定メモボックスに入っていましたね。さすがはシエラさんです。
えっと、これで全部でしょうか?
数枚のメモを取り出して自分の〈空間収納鞄〉に入れ、私は〈ゼフィルス君メモボックス〉をしっかりと施錠します。
「あの、終わりましたのでこれは片付けてきますね」
「え? 私がやりますよ?」
「いえいえ、その私個人の用でしたから大丈夫です」
マリアさんに断って奥の小部屋の一つに〈ゼフィルス君メモボックス〉を持っていって保管し、私はその足で寮に戻ることにしました。
マリアさんとメリーナ先輩は横断幕を丁寧に収納している所でした。
「マリアさん、メリーナ先輩。私はこれで失礼します。クラス対抗戦、頑張ってくださいね」
「ありがとうねハンナさん、ハンナさんも頑張ってね」
「この勇者君横断幕が有る限り私たちに敗北は無さそうですけどね。ハンナ様も頑張ってください」
「ありがとうございます!」
私はそう挨拶をして自分の部屋へと戻りました。
そこには1年生の錬金工房では見ることができない、立派な工房設備が整っていました。
それもこれも学園が色々と準備してくださったおかげです。
今回チャレンジする上級のレシピは〈大図書館〉にも置いてある、国が作製許可を出している物限定なので、先生の監督はいらないですからね。ここで練習できます。
国が作製許可を出していないレシピについては、今は読むだけにする予定です。
私は早速〈空間収納鞄〉から〈錬金レシピの基礎上級〉メモを取り出して読みました。
ゼフィルス君は読みやすい表現でいくつもの重要なことが書かれていました。
「えっと、なになに? 『ハンナはこれから読むこと①』? 『〈魔石(大)〉の作り方』? ってわぁ!」
これ、〈魔石(大)〉の作り方じゃないですか!
今まで私は〈魔石(中)〉までしか作れませんでした。それは【錬金術師】のスキルでは作製ができないからです。ですが、これには【アルケミーマイスター】では作れると書いてあります。
『上級錬金』のスキルを使うみたいです、〈魔石(大)〉は様々な上級のアイテムを作る時に使用する素材だと知られていますので、〈大図書館〉にもレシピがある素材です。
〈魔石(中)〉だとハイポーションやMPハイポーションが作製できるように、〈魔石(大)〉を使えば上級の〈秘薬〉や〈エリクサー〉なんかが作れるようになります。
ゼフィルス君メモを熟読しますとつまり、よく使う素材だから量産しとくのがオススメってことですね。
早速ギルドにある〈魔石〉をあるだけ持ってこないと!




