#105 〈大図書館〉は大混雑! レシピが探せません!
「はい、ゼフィルス君に言われていた〈炎爆地雷〉だよ」
「おお! 助かるぜハンナ! ありがとな」
「ハンナさん、ありがとうございました。これはクラス対抗戦で使わせていただきます」
クラス対抗戦の前の土曜日、私はゼフィルス君に頼まれていた強力な爆弾アイテム、〈炎爆地雷〉をシズさんに渡していました。
本来ならギルドバトル用に作っていたアイテムだったのですが、急遽クラス対抗戦が決まってしまったのでここで使う事にしたようです。
「しかし、〈炎爆地雷〉の高品質が100個。凄まじいですね」
「一応まだ在庫はありますから無くなりそうなら言ってください」
ゼフィルス君から言われていた数は200個です。
クラス対抗戦で持ち込めるアイテムの量はそう多くはありません、1戦で消費する数は多くても50個程度でしょう。最低でも四戦分はありますから安心です。
でもクラス対抗戦が終わって落ち着いたらもう少し在庫を増やさなくてはいけないかもしれませんね。
「ハンナ様、改めてありがとうございました。このお礼はまた」
「いいですよぉ、同じギルドの仲間なんですから。それにギルドの素材と〈銀箱〉産アイテムを使わせていただきましたし」
「では、美味しいお飲み物とお菓子でもご用意しておきます」
「あ、それは嬉しいです」
シズさんは自分の〈空間収納鞄(容量:小)〉に〈炎爆地雷〉を入れるとお礼を言ってきました。
多分、お茶会のお誘いですね。シズさんが入れてくださる紅茶は本当に美味しいので、お菓子も含めて楽しみです。
「じゃあ、ハンナ、そっちも頑張ってな。あ、そうだ例のメモはギルドに置いてあるから良かったら読んでおいてくれ」
「あ、うん、ゼフィルス君ありがとね。シズさんも、〈戦闘課〉は大変だって言うけれど、頑張って」
「はい。ハンナ様も、それでは失礼いたします」
ゼフィルス君たちもこの土曜日はクラスの連携を深めるために集まって練習するんだそうです。
すごい気合いが入っていますよね。さすがゼフィルス君です。
身近に気合い入った人がいると、私の身も引き締まる思いです。
私は結局個人出場になってしまいましたので、10品の作品を作る必要があります。
あとは〈作品コンテスト〉中に何を作るか、ですね。
私は先日上級職になりましたから、何か上級アイテムとか作れば高得点になりそうです。
早速調べてみましょう。
私は学園の〈大図書館〉へと向かいました。
〈大図書館〉はとんでもない大きさの蔵書施設で、三階くらいの高さのある本棚が並んでいる姿は圧倒されます。本当にすごい蔵書数ですよね。
ここが〈図書室〉ではなく、〈図書館〉と呼ばれている理由でもあるそうです。
この場所を管理する【大司書】の館長さんはそのスキルでどんな本も探し当て、そして『牽引』のスキルと『蔵書』のスキルの組み合わせでどこからでも本を取り出し、戻すことが可能なのです。
そのため手が届かないどころか背表紙も読めない高さの本を探すときは館長さんに頼みます。
私が求める上級レシピは〈大図書館〉に蔵書されてはいます。ですが様々な理由から学生の手が届かない位置にあるとの話を聞いたことがあります。
そのため、まずは館長さんのいる受付へと向かったのですが。
普段は物静かなここ、〈大図書館〉の受付は、今や戦場のような有様でした。
「頼む、〈アリアスの毒〉を調べたいんだ。本を、本を頼む!」
「ちょっと割り込まないでよ! 私が並んでいたのが見えなかったの!?」
「時間が勿体ない! 早く、早く、頼む!」
「お待ちください! 図書館では静かに、静かに願います!」
「騒がないでください! 他の学生さんのご迷惑ですよ」
受付は大混雑でした。
多分、私と同じような考えの人が多いのでしょう。
まだ朝も早いこの時間にもかかわらず、真面目な学生さんが多いみたいです。
館長さんがスキルを使い、本を検索して牽引していますが、明らかに速度が間に合っていません。
周りの司書さんたちが騒ぐ学生さんたちを抑えようとしていますが、次々と増えていく受付に並ぶ学生さんたちを抑えられそうもありません。
あ、〈秩序風紀委員会〉の方々がやってきました。
受付の列の整理を始めたようです。
そして、それでもうるさい学生は、あ、強制連行されていきました。
〈大図書館〉で騒いではいけませんよね。
数人がしょっ引かれると騒ぎは沈静化しました。
その代わり、とんでもない長い列だけが残りました。
え? これに並ぶのでしょうか? 館長さんの仕事ぶりを見ると数時間はかかりそうです。
えっと、私はどうしましょう?
少し迷いましたが、私は〈大図書館〉を諦めました。
大丈夫です。まだ心当たりがあります。
私はその足でギルド〈エデン〉のギルド部屋へと向かいました。
実はゼフィルス君が、上級のレシピだって言ってメモを残してくれていたんです。
本当はレシピじゃないと、売買はしてはいけないという法律になっていますが、練習で作るだけであれば学園の教員の観測の下なら許されます。これは迷宮学園の学生の特権ですね。
レシピを持っている者しか作っちゃいけないと縛り過ぎると、今回のような〈作品コンテスト〉などではつまり財力が高い人が勝つ、ということになります。生産職さんはレシピを買うことがほとんどですからね。
そのため学園では、特権としてレシピの無い作製も教員の監視の下であれば認めていたりします。もちろん作製後は『素材返し』で素材に戻すか、自分で使うかの二択ですね。
私もできれば作った物はギルドに渡したい思いもありますが、今回は〈作品コンテスト〉に集中したいと思います。
そんなわけでギルド部屋に到着し、ノックしてからドアを開けると、なぜか大きな横断幕がありました。〈勇者君〉と書かれていました。




