#102 一週間が過ぎてクラス対抗戦がやってきました!
月日が経つのは早いもので、あの忙しくも充実していた夏祭りから1週間が経ち、学園ではとある大きなイベントが開催されることになっていました。
「まさか、今年はこんなに早く来るとはね、クラス対抗戦」
「ま、またお祭りですか?」
「そうね、お祭りみたいなものよ!」
ミーア先輩の言葉に私は疑問で返します。
だって、先週片付けたばかりなのに、また櫓を始め、色々と出店が出ているんですもん。
今回は〈戦闘課〉の校舎では無く、普通の通学路などに露天が張られているなどの違いはありますが、どう見てもお祭りです。
それは、これから1週間掛けて行なわれる、クラス対抗戦というイベントがあるからです。
「クラス対抗戦は本来10月にやるイベントだから今年は一月早いのよ。それも〈転職制度〉を10月にやるものだからクラス対抗戦が9月にズレ込んだのよね」
「それで1週間で、再度お祭りですか」
「ま、お祭りは何回有ってもいいわよね!」
ミーア先輩は楽しそうです。ですが、クラス対抗戦の内容を聞いた私は気が気ではありません。
「クラス対抗戦はね、本来クラス同士で比べあい、実力を高めることを目標にして作られたイベントね。また、これには企業も見に来るわ。3年生は卒業まで残り半年、ここで良いところをアピールしてスカウトされる子も少なくないわね。だからこそ、みんな本気でこれに挑むのよ」
「な、なるほど」
「優勝したクラスは学園の覚えも良いし、2年生以下の学年は次のクラス替えにも少なからず影響するからね。〈戦闘課〉なんてクラス数が100クラスを超えているからすごい迫力よ」
「あ、あれ? でもそれですと、私の所属する〈錬金術課〉は1組しかありませんけど、どうするのでしょうか?」
クラス対抗戦というからにはクラスVSクラスの対決になるのでしょうけれど、そもそも2組もいない〈錬金術課〉では相手がいません。
私の課は一体どこと対抗戦を……、ま、まさか上級生と!?
「クラス数の少ない課はパーティ単位の対抗戦になるわね。同じクラスの子がライバルになるわ。もしくは個人戦ね」
それを聞いてちょっと安心して、そして不安になりました。
もしかして、アルストリアさんとシレイアさんは今回相手側なのでしょうか?
あ、私のことばっかりではいけませんね。
ミーア先輩はどうなのでしょう?
「ミーア先輩のクラスは」
「私の〈調理課〉は〈錬金術課〉よりはだんぜん人は多いからクラス対抗戦ね。生産職で唯一トーナメント式になると思うから今から張り切っているわ」
「なるほどです。ミーア先輩、頑張ってください」
「ありがとねハンナちゃん」
ミーア先輩の言うとおり、実は〈ダンジョン生産専攻〉で一番人が多いのが〈調理課〉です。ミーア先輩のクラスは激戦区です。
私はミーア先輩の苦労を思い、励ましました。
「勝負方法なんだけど、〈戦闘課〉はギルドバトル〈拠点落とし〉であるように、私たちもギルドバトル〈作品コンテスト〉で決着を決めるのよ」
「〈作品コンテスト〉、ですか?」
初めて聞くギルドバトルです。ちなみに私はギルドバトル〈城取り〉しか出場したことはありません。Eランク試験でしたけど。
「あれ? ハンナちゃんもしかして初耳だったりする?」
「はい。〈城取り〉ならやったことがあるのですが」
「あ~、ハンナちゃんの所属って戦闘系のギルドだもんね~」
私の言葉にミーア先輩が納得という顔をして腕を組みました。
それから人差し指を顔の前に出す仕草で話を続けます。
「基本的にギルドって戦闘系のギルドと生産系のギルドに別れているのは知っているわよね?」
「はい。ギルド〈エデン〉の登録するとき戦闘系のギルドで提出しましたから」
「そうそう。それだと〈ランク戦〉を挑むときも戦闘系ギルドにしか挑めないし、ギルドバトルの内容は〈城取り〉と〈拠点落とし〉になるのね。ちなみに生産系ギルドになると〈作品コンテスト〉一択よ」
「そうなのですか!?」
ビックリです。ずっとギルドバトルは〈城取り〉だけだと思っていました。
でも考えてみれば当然かもしれません。文字通り戦闘がある〈城取り〉を生産職がこなすのは大変でしょうから。何か生産系のギルドバトルがあるハズですよね。
「〈作品コンテスト〉のやり方は単純よ。ギルドに所属する作製者の品を出し合って、その作品の〈総評価ポイント〉数と、〈作品対決〉での勝ち負け、〈作品作り評価〉の三つで勝負。審査員と観客にポイントで評価してもらい、ポイントが高い方の勝ちよ」
ミーア先輩の真剣な様子の説明を頭にメモしていきます。しっかり聞き逃さないようにしないと。
「まずは〈総評価ポイント〉ね。基本的にここで10作品が出品されるわ。単純に作品一つ一つを評価して100点満点でポイントを付けるだけね。それで最終的に赤チーム、10作品で850点、白チーム10作品で780点、とかね。とはいえ良い物を出せばそれだけ高得点に直結するという単純な話じゃ無くって、高得点を獲得するには色々とテクニックが要るのだけど、それは今はいいわ」
なるほど。
名前の通りみたいですが、対決、とはまた違いますね。これは自分との戦い、でしょうか?
でも良い作品を出しても高得点を貰えるわけじゃ無いというのはどういう意味なのでしょうか? 気になりますが、まずは話を全部聞かないとですね。
「次に〈作品対決〉の勝ち負けだけど、これは勝ち抜きじゃないのが注意点ね。1回戦から10回戦まで毎回各クラスが一作品を出し合ってどっちの作品が優れているかを勝負するの。一度勝負した作品は二度と〈作品対決〉には出せないわ。そして勝ったギルドに100点が入る。負けた方には50点しか入らない。最高で500点差が付くわね」
「勝っても負けてももう出せない、一発勝負ですか」
「そ、だから相手がどんな作品を出してくるかを予想して、それを上回る作品で勝負するなんてバトル方法が取られるわけ。結構白熱するわよ。一番良い作品を出したらヘンテコな作品を相手に出されて損をした話しとかね」
「あ、あはは……それは辛いですね」
「だからこそ、普通に全作品を出し合ったら白チームの方が良い作品が揃っているのに、赤チームが勝った、なんて話も多くあるのよ。そういう商売人としての素質も問われる訳ね」
「ふえぇ、き、厳しいですね」
「最後は〈作品作り評価〉、これは文字通りコンテスト中に作品を作ってもらうことね。時間制限があるからどれだけスピーディかつ品質を高められるのか、そのパフォーマンスの場よ。最高1000点が付くわ」
「ぱ、パフォーマンスですか!? そんなのやったことありませんよ!?」
「まあ、ハンナちゃんなら大丈夫でしょ。普通に作るだけよ、安心して」
「ほ、本当ですか?」
「というわけで、この三つのポイントが加わって、より点数の多いギルドの勝ちって訳。1対1の〈作品コンテスト〉も良いけど、これが集団〈作品コンテスト〉になると本当に熱くて面白いのよ」
「ミーア先輩、結構ノリノリです!?」
「だってギルドバトルって好きだもの! 見てる分にはね」
さ、さすがはミーア先輩です。こういう所は尊敬します。
「でも今回は私たちが出場するわけですが」
「ま、ハンナちゃんなら敵無しなんじゃないかな?」
そう言ったミーア先輩の目が、とても興味を引かれているかのように私の目を捉えます。
「だってハンナちゃん、上級職に就いたんでしょ?」
――はい。
ミーア先輩の言うとおり。
私は下級職の【錬金術師】から、上級職の【アルケミーマイスター】へ〈上級転職〉していたのです。




