#101 夏祭りも終わって片付け。〈生徒会〉の訪問。
「ハンナちゃんー! まだ片付け作業中だけどお疲れ様ー!」
「わっぷ、ミーア先輩!?」
9月1日、日曜日。
昨日までの2日間の夏祭りは無事に終わって、今は片付け作業中です。
出店したブースは学園の備品なので、片付けが終わったら返さなくてはいけません。
現在サトル君やカイリさんがどんどん片付けてくれています。
マリアさんとメリーナ先輩が必要なことをどんどん指示してくれているので作業はとても順調です。
そんな作業中、私の頭が急に柔らかいもので包まれました。慌てて触ってみると、これはアレですね。
いつの間にか私はミーア先輩に抱きしめられていました。
「いつの間に接近したんですか?」
「うふふ、こっそり後ろから忍び寄ったのよ。ミーア先輩の巧みなスニーキングよ!」
そんなところで無駄な技術を発揮しなくても、と思っても口には出しません。
「それよりもミーア先輩はどうしてここに? 〈生徒会〉ブースの片付けはいいんですか?」
「いいのいいの、そっちは学園の評価が下るまで展示しておかないといけないからもう少し時間掛かるしね。片付ける作業も今できることは終わっちゃったし、ハンナちゃんの様子を見に来たのよ」
今度は後ろに回って抱きついてきたミーア先輩が私の体を操って後ろを向かせると、そこには〈生徒会〉生産隊長代理のローダ先輩と副隊長代理のフラーラ先輩、そして庶務のチエ先輩がいました。みなさんスニーキング技術を習得しています!? 生産職に必須事項でしたっけ?
「やあ、ハンナ君。噂には聞いていたけれど、盛況だったみたいだね」
「凄まじいお客さんの列に、列の誘導する人員まで付けたと聞いたからのう、驚きじゃ」
「お疲れ様ハンナさん」
「みなさん、お疲れ様です」
私はミーア先輩を背中に背負ったままお辞儀をします。
ちなみにですが、列の整理を買って出てくれていた男子の人たちですが、夏祭りが終了すると同時に「ふ、礼はすでにいただいたからな。これ以上は不要だ」「暖かいハンナ様の食事、馳走になった」と言って帰っていきました。
昨日渡した食事も私が作った物じゃなかったんですけど、それは言いませんでした。
「〈生徒会〉のみなさんは見回りですか?」
昨日も一昨日も〈生徒会〉のみなさんは見回りと称してうちの出店に来ていましたからね。
今日も同じだろうと聞いてみたら、案の定ローダ先輩が頷きました。
「巡回は学園公式三大ギルドの重要な仕事だからね。僕たちも〈秩序風紀委員会〉に任せるだけではなく、自分の目で確かめることが必要だ。それによって知ることは多いからね」
「適度に巡回していれば羽目を外す学生も減るからのう。それにもう夏祭りが終わったとはいえ、ブースは早めに片付けんと、今度は校舎も元に戻す作業が待っておるのじゃ」
私たちの視線は自然と巨大な櫓、〈戦闘3号館〉という〈戦闘課1年生〉の校舎を改造されて作られた櫓の元に向かいます。
明日から学業再開ということもあって、片付けは今日中に済ませなければなりません。
あれほどの巨大建造物をたった半日も掛からず改造してしまうのですから【クラフトマン】の方はすごいですね。
そんな会話をしていると、私のギルドメンバーたちがなんだなんだと顔を出してきました。その内の1人、【ハードワーカー】のサトル君がフラーラ先輩に反応します。
「あ、姉!? なんでこんなところに!?」
「おお弟よ。なんじゃその言い草は、ちゃんとハンナ後輩の役に立ったのか?」
「もちろんだ、ちゃんと裏方の書類なんかは全部片付けたわ」
「はい、サトル君のおかげで助かりました」
私はフラーラ先輩に説明します。やっぱり専門職の方に任せるのが一番です。
ちなみにサトル君とフラーラ先輩は姉弟です。
仲は結構良いみたいですよ。
と、そこでさらにフラーラ先輩に反応した人がいました。
「あ! フラーラお姉さんなのです! いらっしゃいなのです!」
「おお、ルルよ。久しぶりじゃのう」
ルルちゃんです。そのままフラーラ先輩にひしっと抱きつきます。
「だ、誰ですかあの人は」
私の隣でシェリアさんが顔を青くして震えていました。
あまりのルルちゃんの懐きっぷり、いえ、尊敬と信頼のハグを見て衝撃を受けたんだと思います。
私は素直に教えます。
「〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉先輩ですよ。〈生徒会〉所属の3年生でサトル君のお姉さんでもあります」
「こ、この方が〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉様!?」
一転。
プルプルしていたシェリアさんが一瞬でキラキラの目でフラーラ先輩を見つめました。
うちのギルド〈エデン〉のメンバーはみんな、ぬいぐるみには目がありませんからね。
〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉と言えば知る人ぞ知る、学園でも最高のぬいぐるみ職人です。
シェリアさんは早速フラーラ先輩の下にひざまずきました。
「お会いになれて光栄ですフラーラ様。私はケイシェリアと申します。是非シェリアとお呼びください。フラーラ様のぬいぐるみはいつも愛でさせていただいています」
「う、うむ?」
「ルルも愛でているのです! とっても愛でているのです!」
「うむ! それは嬉しいのじゃ」
いきなりのことでビックリしたフラーラ先輩。いきなりのシェリアさんの行動についてこれていませんね。
しかし、ルルちゃんがブースにまだ飾られている〈ゴピップスぬいぐるみ〉を指差してにっこりすると再起動を果たしました。
「フラーラ先輩、うちのギルドはぬいぐるみに目が無いと、以前言ったじゃないですか」
「いやぁのう、それにしても熱が入りすぎてはおらんか? 目に篭った信頼が少し怖いんじゃが」
それは仕方ありません。だって〈天道のぬいぐるみ職人フラーラ〉先輩ですもん。
「なあ、姉ぇ、ルルちゃんにもう一つぬいぐるみを作って――」
「今は忙しいから無理じゃの」
「姉、そこを何とか~」
「こらサトル、〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉様を困らせてはいけませよ」
「いや、でもルルちゃんがな?」
「いけませんよ?」
「ルルもいけないと思うのです!」
「――はい、わかりました!」
「なぜルルの言うことだけ素直に聞くのですか? サトルとは少しお話が必要そうですね」
「ひえ!?」
あ、サトル君のこの後の運命が、ちょっと見えました。
そんなこともありましたが、私のほうはミーア先輩やチエ先輩、ローダ先輩と会話した後、4人は帰って行きました。
ちなみに一緒に〈生徒会〉の出店に参加したはずのアルストリアさんはお留守番だったらしいです。
また、フラーラ先輩が見えなくなった後、サトル君はシェリアさんから何かお小言をもらったらしいですよ。
意外にシェリアさんとサトル君って仲が良いですよね。




