#099 夏祭り夜。やっと落ち着いたので順番に休憩です!
夏祭りって夜が本番なところがありますよね。
どっぷりと日が暮れて提灯の灯りが会場全体を照らす時間になると、喧騒が増したように感じます。
一度は落ち着いた私たちの出店もお客さんが並び始め、例の男子の方々がまだ列の整理をしていてくれました。
後で夕食もお持ちしましょう。
「ハンナはん焼きそばとトン汁とトウモロコシ一個ずつ、お待たせや~」
「はい! お会計が~」
「焼きおにぎり二つ頂戴~」
列は延びましたが、先ほどとは変わって注文の数は激減しました。
買いだめや大人買いが減り、その場で食べる人たちが増えたからでしょうか?
とはいえまったくいなくなったわけではなく、ぼちぼちはいるのですが。
「在庫がまだまだあると知れたからな~、みんな在庫の取り合いはやめたようやな」
「アルルちゃん、在庫の取りあいって?」
「そんなん決まっとるやん。みんなハンナはんの料理はたくさん買いたかってん、だから早め早めに、売り切れないうちに走ったんが朝の光景や。まあ、あれだけ買われてもまだ在庫があると知れたんやから落ち着くのも当然やな」
「えっと、そんなにみなさん楽しみにしてくれていたんですね。私の料理なんてそんな大した事無いと思うのですが」
「ハンナはんは学園の人気者やしな~。しかも手料理が絶品だと風の噂で広まってたかんな。みんな実はこの夏祭りを狙ってたんや」
「ええ!? そうなんですか?」
えっと、そんな期待されるほど大した物でも、普通の料理だと思うのですが、これがネームバリュー効果なのでしょうか?
「まあ、せやからこれからはメニューを替えない限り朝の混雑は無いと思うから、少し余裕あるわ」
「そうですね」
そう言ってアルルちゃんの話に頷き、振り向くと、マリアさんが少し落ち込んで見えました。きっと売り上げが下がったからでしょう。
ですが、これくらい余裕のあったほうが良いと思います。
それからしばらくは作っては売って、作っては売ってと精を出し、少し休憩時間を設けて、他の出店を回るくらいの時間を確保することにしました。
「本当に行ってもいいのです!?」
「もちろんです。ルルちゃんは頑張っていましたからね。少しくらい多めに休憩時間を取っても問題ありませんよ」
「ありがとうハンナお姉ちゃん!」
「私からもお礼を言わせてくださいハンナさん。ルルと同じ時間に休憩を取らせていただきありがとうございます」
「いえいえ、どういたしましてですよ、ルルちゃん、シェリアさん」
まずはお2人からですね。
あまり時間は取れませんが楽しんできてもらいたいです。
ですが明日はどうしましょうか?
今日と同じスケジュールでお客さんにこられたらとても大変です。誰か手伝ってくれる方を増員するべきですね。
どなたかいないでしょうか?
そう思いながら少し時間が経った頃、ルルちゃんたちが戻ってきたときのことです。
見るといつも3人でいるサチさん、エミさん、ユウカさんを連れ添っていたのです。
「みんなお疲れ様~」
「みんな元気してる? これ露店で売っていた〈フルーツジュース〉なんだけど飲んで飲んで」
「差し入れです。色々と買って来ましたので是非どうそ」
差し入れ!? 優しさが染み渡ります!
「サチはん、エミはん、ユウカはんやん。差し入れ嬉しいわ~おおきに~」
「3人ともありがとうございます。とっても嬉しいです」
「喜んでもらえてよかったよ~」
「偶然ルルちゃんとシェリアさんがフォークダンスに参加しているところを見かけてね。声を掛けたんだ~」
「あれは尊い光景だった。シェリアさんなんて顔が緩みきっていましたからね。普段はあんなにクールな表情をしているのに」
「ちょっとユウカさん、それ以上はおやめください。あれは仕方の無いことだったんです。ルルの可愛さ100%超えのダンスを一緒に踊れば誰だってああなりますよ」
「シェリアお姉ちゃんと踊ったてきました! とっても楽しかったのです!」
短い時間でしたがルルちゃんとシェリアさんはお祭りを少しは堪能できたみたいです。
続いてマリアさん、メリーナ先輩が休憩に入っていきました。
「マリアさん、メリーナ先輩、楽しんできてくださいね」
「ありがとうございます。楽しんできますね」
「ハンナ様、忙しくなったらすぐに呼んでください。駆けつけますからね」
「もうメリーナ先輩、休むときはしっかり休んでくださいよ」
そうして2人を見送りますと、代わりにはっぴを着込んだルルちゃんとシェリアさんが持ち場に着きます。
「ルルがバリバリ働いちゃうのです!」
「休憩ありがとうございました。復帰しますね」
今なら5人で出店は回りますから休憩は2人ずつ可能です。
お客さんも減ってきたので差し入れのジュースを順番にいただいていたら、サチさんたちが戻ってきました。
「なんか休憩が足りなくて大変何だって?」
「ハンナちゃん、私たちでよければ手伝おうか?」
サチさんとエミさんの申し出はとてもうれしいものでした。
「いいんですか! こっちはすっごく助かりますけど」
「もちろんさ。それに私たちは夏祭りをとても堪能させてもらったからね。楽しませてくれた出店側の方にお礼が出来ないかと思っていたんだ」
私の質問にユウカさんがかっこいい言葉で快く頷いてくれました。
マリアさんとメリーナ先輩のはっぴを拝借させていただき、予備の1着と合わせて3人に来てもらいます。
「わー、このはっぴ可愛いねー」
「うん! 実はこれ着てみたかったんだよ~」
「着ただけで、なんだか一体感というか、夏祭りの一部に自分も入ったという、仲間意識に近いものを得られるのだな」
3人ともお揃いのはっぴにきゃぴっとしました。女の子ですからね。
3人には出来上がった商品を〈空間収納倉庫〉から取り出して売ったり、寸胴鍋からトン汁をよそって出したりする仕事を頼みました。
作業自体はシンプルにしているので、すぐに慣れた様子ではしゃぎながら手伝ってくれました。
マリアさんとメリーナ先輩が戻ってくる頃にはもう立派な売り子さんになっていましたよ。
こうして働き手が増えたことでさらに余裕が出来ましたため、私も休憩に入ることが出来るようになりました。
私とカイリさんが着ていたはっぴをマリアさん、メリーナ先輩に着てもらい、私、カイリさん、アルルちゃんの3人も休憩を取らせていただきます。
私たちは、夜の夏祭りへと繰り出しました。




