今日も、また。
────もう、これで何人目になるだろうか。
大人でさえも寝静まって、本当に人ひとりいなくなるような暗い、深い夜。
コツ、コツと足音が聞こえ、振り返ってみると
今日もまた、怒りや憎しみに顔を歪めた来客がひとり。
「......もう、嫌なの」
自分の目の前で立ち止まったかと思うと、そう零した来客。
「いつも、いつも...殴って、蹴られて、物を投げられたり...そんなのの、繰り返し...今日は......首、しめられて。アイツの目......本当に、本当に人を殺しそうな目をしてた!」
最初は俯いて、たどたどしく、必死に言葉を続けていく。
だが彼女の中でのスイッチかなにかだったのだろう。
思い出したくないように話したその言葉をきっかけに、顔を上げ、叫ぶ。
その目は恐怖で見開かれていた。
「だから、だからッ!もう、あの家に帰りたくない、アイツに会いたくない!もし帰ったら...きっと明日も、明後日もそのずっと先まで!...いやだ...嫌だよ...嫌...嫌......嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ...嫌...」
恐怖で混乱しているのか、頭を抱え、蹲り、叫び続ける。
落ち着いたのか、声は徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなる。
「だから...」
目の前の来客は顔を上げる。
そうして今までの皆と同じように、こう言うのだ。
「...アイツと私の、縁を切って」