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異世界運命記  作者: ドカン
外伝 絆の章
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第7話 分断された世界、それでも

 「元気ないようにでも見えた?」

 「え、違うのか? 帰ってきてからてっきりそうだとばかり......。でも違うなら良かった!」

 「ちょっと考え事をしてたんだ」

 「考え事?」

 「あぁ。君へのプレゼントを、いつ渡そうかと思って」

 「プレゼント!? シルバーが、俺に!?」

 「嫌だったかな」

 「ううん! 全然! 嬉しいよ! 凄く嬉しい! でも今日って何かの記念日とかだったっけ?」

 「いや、何でもない、普通の日だ。贈り物に、理由が必要かな」

 「いらない! いらない! 嬉しいよ! シルバーがそう思ってくれてたなんて! そ、それでプレゼントってなんだ!? 俺はお前から貰えるものだったら何だって嬉しいよ!」

 シルバーの周囲を飛ぶように跳ねて、全身で喜びを表すテスカトリポカ。そんな彼に、シルバーは自分のポケットから、颯から受け取った石を手にして、テスカトリポカへと手渡す。

 「......あれ」

 「ん? どうしたんだ?」

 よく見ると、石の色や形、そして質までもがさっきまでとは変化していた。黒く、割れたような断面。先は尖っており、あらゆるものを切断してしまいそうだ。けれども、颯から渡された石はこれで間違いない。変わらずに2つある。

 「いや、何でもないよ」

 そう言って、期待に満ちるテスカトリポカに、シルバーは黒い石を1つ渡した。

 「ありがとう! 絶対に大事にするよ!」

 彼がそう言った直後だった。彼はシルバーへと近付こうとする。しかし全く距離が縮まらない。むしろ開いている。シルバーに近付こうとすればするほどに、彼から遠く離れていってしまう。

 テスカトリポカはすぐ異変に気付く。

 「これは......!?」

 徐々にシルバーとの距離は開き、やがて部屋からも追い出されるようにして離れてしまった。

 「待って、待って......!」

 テスカトリポカは必死に石の力に抗おうとするも、まるで無駄に終わった。周囲の人間は彼に手を差し伸べない。そもそも見えていないのだから、差し伸べることすら出来ない。そして部屋からシルバーは出てこなかった。

 それでもなんとかして、前へと進もうとする。しかし、いつの間にか商会の外へと追い出されてしまった。どうすることも出来ない。ただ無力である。

 一方で、シルバーは自室の中で、殺風景な壁に囲まれながらシンプルなベッドに横たわった。扉から目をそらし、うずくまったまま何もせず、じっとしていた。


 トップであるシルバーが自室に籠もり始めてから、そう時間が経たないうちに、商会の雲行きは怪しくなり始めた。ゴールド商会も組織である以上、シルバーがいなくともある程度は回るようにはなっている。しかし、あらゆる重要な事項はシルバーがいなければどうにも出来ない。商会の業績はそうやって次第に下がっていった。

 その一方で急成長を遂げている企業も存在した。シュリィの『黄昏』である。彼女と彼女の企業は颯から最低限の支援を受けつつも、ゴールド商会やその他多くの営利団体の市場や縄張りを荒らしに荒らしまくり、相手が破産寸前になったところで何もかもを奪うという手法を用いて社会に思い通りにしようとしていた。

 そういったこともあり、ゴールド商会やその恩恵に与っていた人々はシルバーに戻ってくるように願い続けていた。

 また、商会を強制的に追い出されたテスカトリポカも、何とかしようとある場所へと訪れた。

 「おい! おい! ここにいるんだろ!? なぁ、おい!」

 深い森の中。そこにポツンと建つ一軒の小屋がある。テスカトリポカはその小屋の扉を強く、何度も叩く。扉からガチャ、という音とともに中から颯が姿を見せた。

 「おや、テスカトリポカじゃないか。どうしたんだい。こんなところまで」

 「しらばっくれるな! シルバーをもとに戻せ!」

 怒声を上げながら、颯に詰め寄るテスカトリポカ。シルバーに何があったのかは分からないが、何故そうなったのかは颯のせいであるとして、正面から抗議したのだ。ただそうやって怒り狂うテスカトリポカを前にしても、颯は耳の裏を掻きながら何食わぬ顔で平然と答える。

 「もとに戻せって? あれはシルバーが選んだことだ。僕がどうにかすることではないし、ましてや僕の責任っていうのは一片もないはずだよ」

 「嘘だ! そんなはずはない!」

 「君が信じようと信じまいと、僕に怒りをぶつけたところでシルバーが変わることはない。と、いうわけで話は終わり。じゃあね」

 そう言って颯は小屋の扉を閉めかける。

 「嘘嘘嘘嘘! 絶対に嘘! お前の言うことが正しいはずがない!」

 閉めかけた扉を再び開け、颯はテスカトリポカに言葉を投げかける。

 「確かめる方法が1つだけある」

 「本当か!?」

 「......いや、やっぱり僕の言うことはどうやら正しいはずがないみたいだから、意味のないことだったな。じゃ、お疲れ」

 「待って待って待って! やっぱり本当! 本当だから! 全然嘘とかじゃないから! 言うことは何だって正しいから! だから教えて!」

 「そうか! なら教えてあげよう!」

 先程のやる気のない姿から打って変わって、ハキハキと抑揚のある声でテスカトリポカに唯一の手段を授け始める颯。テスカトリポカも調子を良くして、神経を尖らせながら颯の話を聞く。

 「まず、君の力を使うんだ」

 「俺の?」

 「あぁ、そうだ。他でもない君の力だ。それ以外の方法はないと言っていい。使うのは君のその、絆の力だ」

 テスカトリポカの力とは、他者と他者を引き寄せる力である。物理的だろうと心理的だろうと、どのような在り方であれ、互いを引き寄せ結び付ける。これが幾重にも重なり、何重にも発展することによって社会と化すのだ。

 逆に、颯がシルバーに渡した黒曜石は、他者と他者とを引き裂く力である。他人とのなんてことのない素朴な関わりも、複雑に混在している社会形態であろうと、黒曜石は関係なく引き裂く。テスカトリポカとは全く逆の力だ。

 「まだ、シルバーと人や社会との関わりは完全に断ち切れたわけじゃない。引きこもりになろうと、ニートになろうと、人は社会なくして生きていけるわけではないんだ。そこで君の番ってわけ。あの黒曜石以上の力を、君が行使することによって、分断された社会の繋がりは再び姿を取り戻すだろう」

 「分断された社会......? シルバーだけじゃないのか?」

 「あぁ。そうだ。彼以外にも多くの人が他人や社会から切り離されている。悪いね、君には余計なことだったかな」

 「ううん。そんなことない。困っている人がいるなら、俺の力でその人達を何とか出来るなら、やってみせるよ。もう一度、社会を1つにしてみせる」

 「そうか。なら方法は1つだ。君はかつて、この世界に通貨を浸透させることによって社会を作り上げた。今もう一度、それをやるべきだ」

 いつの間にか大きくなった話に、テスカトリポカは即断で乗り込む。

 彼は大昔、ゴールドという人間と共に、今の社会の基礎を構築した。彼は金を生み出すことが出来る。そしてそれに価値があると人々に思い込ませることも出来る。世界は今も彼の術中の中だ。再びテスカトリポカが力を振るえば、どれほど分断された世界だろうと何度でも、誰とでも繋がることが出来るはずだ。今まで何回もやってきたことだ。今度も同じようにやればいい。

 テスカトリポカの前に光が見えた。明日への光だ。

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