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異世界運命記  作者: ドカン
外伝 絆の章
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第5話 絆

 シルバーはルカに、商売について教える。客人として振る舞われた茶を飲みながら、自分の持っている知識と経験から、この未熟な行商人に様々なものを授けた。

 「例えば最近だと、戦争が終わって故郷に帰省していく人も多い。そういった人相手に、販路を持つことは大手はあまりやっていなかったりする。やっててもゴールド商会だけとかっていうのは普通にある。地方は都市とは違ってまだ人が少なくて、大量に物を売り捌くことが出来ないから中々参入しづらいってのがある。そうした場所なら個人経営のとこが、細かい注文に答えたりして需要を満たすってのは十分に可能だと思う。まぁ飽くまでこれは、あまり深く考えずに取り敢えず言ってみただけで、こういったのもあるっていう」

 「なるほど! 人が集まる所じゃないと稼げないと思ってたけど、そういう方法もあるのか!」

 「競争相手を避けるっていう1つの選択でしかないけど......。ここみたいな大都市だと、どうしても既に成長してる企業と客の取り合いになる。人は多いから、その分の収益だって増えるかもしれないけど、そんなことが出来るのは一部の企業だけだし、売上が大きいってことはそれだけ費用も高くつく。経営で大事なのは、どれだけ売上を伸ばすかというよりも、どれだけ利益を拡大させるかってことだ」

 「そっか。確かに......」

 思っていたよりも深く踏み込んだ話をしてしまったので、迷惑だったかと思ったシルバーだったが、ルカにはむしろウケたようだ。話を拒絶することなく、素直に吸収しようとしている。ただ単に前向きなだけかと思っていたが、真面目な性格のようだ。

 これはもしかすると、大きく伸びるかもしれない。

 「人と人が心で繋がってる。良いものだよ。テスカトリポカ、君もそう思うだろ?」

 「あぁ! シルバーがちゃんと人と向き合って、こんなに真剣に話をしているなんて......。絆が生まれたんだな! 感動したよ! ......うん? お前! いつからここに!? どうやってここに来た!」

 いつの間にか、シルバーの後ろ、テスカトリポカの隣に颯が立っていた。何の気配もなく、だれに気付かれもせずにそこにいたのだ。

 「ついさっきからだよ。鍵も開いてた。でも良かったなぁ、テスカトリポカ。君が望む通りにシルバーは人と関わろうとしている。嬉しいだろう?」

 「うるさい! お前に言われたって嬉しくない! とっとと出てけ!」

 「随分と言うじゃないか。シルバー、君からも何か言ってくれ」

 「......あんたもしつこいな」

 「え、しつこい?」

 シルバーの言葉に反応したのはルカだった。

 「え、あ、いや。ルカさんではありませんよ」

 どうやらここにいるルカとリアには、テスカトリポカだけでなく颯のことも見えていないようだ。颯が何なのか、シルバーには分からなくなってきた。テスカトリポカと同じような存在だったのだとしたら、このしつこさや面倒くささも納得がいく。

 「あ、今面倒って思ったろ?」

 「......」

 「当たりみたいだね」

 「お前は引っ込んでろ! お前の出る幕なんてない!」

 テスカトリポカが颯に激しく声を荒げる。一方で颯はそんなテスカトリポカに取り合う気もないようだ。この様子も、ルカとリアからは全く見えていないのだろうか。

 他人からは見えないので、他人を気にする必要もなく、あれこれ好きに出来ることを若干、いや大いに羨ましいと思ってしまう。

 「すいません。ここのところ仕事が続いていたもので、少し疲れているのかもしれません」

 「そうですよね。ゴールド商会ほどの大きな組織ともなると、やっぱりその分忙しいですもんね。仕方ありませんよ!」

 シルバーが、颯とテスカトリポカに惑わされ、目の前の夫婦に迷惑をかけてしまった、そのことに対しての謝罪を、ルカとリアの2人は笑って流す。

 「そしたら、お疲れの体を引き止めておくのも、申し訳ありませんし、今日のところは帰ってゆっくりお休みになってください。色々とご教授くださり、ありがとうございました」

 「すいません。ご厚意、感謝します」

 夫婦に気を使われ、ここを後にしたシルバーは、ゴールド商会へと戻ってきた。夫婦に言った、疲れているというのは嘘ではない。仕事が日常と化した今では、休む時間すらまともになく、自分というのは何なのかと無駄なことを考えてしまう。そうして心と体、両方が少しずつ、少しずつすり減っていくのだ。

 そうやって、ぼんやりしているシルバーに話しかけてくる女性の声がした。

 「今帰ったのかしら、シルバー。少し遅いのではなくて? どこで道草を食っていたのかしら。それとも仕事が長引いたの? もしそうだとしたらあなた、仕事が下手なのね」

 「ダイヤモンド......。あなたには関係のないことだ」

 「関係あるわ。それと私を名前で呼ばないで。私はあなたの姉なのよ。それ相応の敬いを持ちなさい」

 「義理のだろう。それなら敬意だって義理になるよ」

 「まぁッ! なんて不遜な態度なのかしら! これじゃあ死んだお父様も嘆くでしょうね! まぁ、それもあなたにとっては義理なのでしょうけど! 変わってあげてもいいのよ? その最高責任者とかいう座をね」

 「......あなたにこの仕事は向いてないよ。それよりも大人しく、婚約者の側にいたら? ボンクラと結婚させられて嫌なのは分かるけどさ。それが姉さんの価値ってことで、満足しなよ」

 「ッッッ!!!」

 ダイヤモンドは床を強く足で叩きながら、その場を後にする。まるで尻尾を巻いて逃げたみたいだ。

 「顔を真っ赤にして、よっぽど悔しかったみたいだな」

 「いいのか? シルバー。お姉さんにあんなことを言っちゃって」

 「お前には関係ないよ」

 「でもでもでもでも! 残された少ない家族じゃないか」

 「義理のね。それに姉妹の代わりなら、あと11人いる。いないのは男の兄弟だよ。ま、それも外戚とかになればいくらだって増やせるわけだから、替えのきく奴らに気を使う必要なんてないだろ」

 「シルバーは本当にそう思ってるのか? 俺には、そうは見えない......」

 テスカトリポカが、自分のことのように悲しい表情をしながら、シルバーの心の内に言及してくる。人との関わりである以上、そこに感情が介在しないことなどないに等しい。人を傷付けた時、本当に傷付いているのは一体どちらなのか。

 仮に、人が傷つく言葉を吐いて、自分の心が傷付かないなどということがあれば、それはもしかすると、どこかおかしいのかもしれない。そういった異常な状態でありながらも社会に関わり続けるのだとしたら、それは病気を撒き散らしながら街を歩いているようなもので、その者を含めて誰一人として幸せになることはないだろう。

 ただ実際に、現実として社会はそうなっている。それが許容され、まかり通り、なんら改善などされず放置されたままなのであれば、それが普通なのである。何故なら人々がそれを受け入れ、認めているからである。人と関わる全ての人は、病気であることを選び、それを普遍としている。

 テスカトリポカ。それは、あらゆる繋がりを司る龍である。集団や価値といった、人と決して切り離すことの出来ないもの。それこそが彼である。人を幸せに導くことこそが彼の使命である。

 シルバーは、テスカトリポカを一目見て、すぐに視線をそらしながら言った。

 「ほんとうに君は......いや、いい。言うだけ無駄だから」

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