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異世界運命記  作者: ドカン
外伝 絆の章
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第4話 露店

 シルバーと颯の話し合いは終わった。颯から渡された石を、結局受け取ったままシルバーは過ごし続けた。まだテスカトリポカに渡す気にはなれない。だがいつか渡そう。そう考えを巡らす。

 その後、シルバーは仕事で商会を離れていた。そしてその帰り道。帝国には様々な人や物が集まる。それぞれの事情を抱えながら、それでも社会に縋り付いている。シルバーはそうした光景があまり好きではなかった。はたして社会とは、そこまでする価値のある場所なのだろうか。

 「考え事か?」

 「いや、別に」

 相変わらず、テスカトリポカはシルバーの側にいる。きっと彼には人の気持ちというものが分からないのだろう。

 帝都の大通りを少し外れた所に、巨大な市場がある。ここは多くの金と物が行き来をし、それを担う人々が雑多に渋滞している。ここに来れば大抵の物は手に入る。だから人が集まる。だがシルバーにはとくに欲しいものがない。なんとなく、理由もなしに立ち寄っただけである。だがテスカトリポカはそうは思っていないようだ。

 「珍しいな! シルバーがこんな場所に来るなんて。もしかしてお前もここが好きなのか? やっぱりいいよなぁ! 世界中から人が集まってるんだ! 格別な場所だよ!」

 「人が集まって商売をする。普通のことじゃないか。お前が何にそんな興奮してるのか。俺には分からないよ」

 「普通なわけないじゃないか! あ、シルバー! あの店見に行こうぜ!」

 そう言ってテスカトリポカは、人の都合など考えもせずに目に入った店に飛び込んでいった。他の人間には彼の姿なんてものは見えはしないのにと、シルバーは迷惑そうな顔でテスカトリポカの後を追う。

 「あ、いらっしゃいませ」

 店、といっても市場に並んでいる屋台のひとつでしかないが、そこでシルバーを迎えたのは若そうな男性だった。彼が店主だろうか。隣には男性と同じ年代の女性が座っている。

 店に並んでいたのは雑多で統一感のない品々だった。ここが一体、何屋なのか。パッと見ただけでは分からないだろう。ただ、見ていて飽きることはない。店の物を眺めていると、店主から声をかけられた。

 「何かお探しですか? ここになくても注文してくれれば取り寄せますよ」

 「へぇ。そんなことも出来るんだな!」

 「あ、いえ。ここには見に来ただけですから」

 「そうですか。もし何かあったら何でも言ってくださいね」

 「この人は良い人だ! な、シルバー!」

 「......」

 気さくな態度の店主ではあるが、こういった商売には不慣れなのだろうと察せられる。最近は冒険者ギルドが解体したせいか、市場にこういった店が立ち並ぶようになった。経済が活気づくのは良いことだが、粗悪品や市場の質が落ちていることは肌で感じられる。この店も例に漏れない。

 「ここにある......そうだな、麻布は一体どこから仕入れているんですか? あまり良いものだとは思えないが」

 「何? 文句?」

 店主の隣でひっそりと座っていた女性が、シルバーの言葉に反応して空気が悪くなる。店のものを貶められて嫌な気分にならないものなどいない。だがシルバーは、そのことを知っていても、つい口に出してしまった。

 「文句ではありませんが、気分を悪くされたのなら申し訳無い」

 「あー! いや、いいんです! 文句ではないことは分かってますから! お客さんが謝る必要なんてありませんよ!」

 「怒らないの? ルカ」

 「気持ちは分かるけど、お客さんの前で態度を悪くしちゃ駄目だよ。リア」

 リアと呼ばれた女性とシルバーとの間に、ルカと呼ばれた店主が割って入る。店主は慌てているが、女性の方はまだ納得がいっていないようだ。

 「それで、えっと、仕入れ先でしたっけ。それならえっと......」

 「ラミレスってとこ」

 「あぁ、そう! そこです! ラミレスって名前の卸売があるんですけど」

 「あそこか。安いがあまり良い物は扱ってないですよ」

 「えっ」

 シルバーは、つい癖が出てしまった。良い商品をどこから仕入れ、どのように販売するのか。彼にとって他の会社や店のことなど、むしろ肩入れなんかしない方がいいのにも関わらず、自分だったらどうやるかを考え、口に出してしまうこと。それが彼の悪い癖だ。

 店主は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 「あぁ、いや。別に気にするほどのことでは......」

 「気にしてなんかいませんよ。むしろ驚いているんです。もしかして詳しいんですか?」

 「少し、仕事でこういったことに長けてはいるので」

 「もしよろしければ、自分達に教えてくれませんか? まだこの商売を始めたばかりで、こういったことには疎くて......。だから少しでもいいので、詳しくなりたいんです」

 「まぁ、そういうことなら......」

 「良かった! お時間っていつ頃空いていらっしゃいますか? そちらの都合の良い日に合わせますよ!」

 「この後すぐにでも構いませんよ。善は急げとも言いますから」

 「ほ、本当ですか!? それならそうしましょう! 場所は私達の家でいいですかね? 今すぐ店を片付けますから少しだけ待っててください!」

 店主はすぐさま店の物を片付け始めた。時間も夕暮れで、客足も少なくなり始める時間だ。ちょうど良かったのだろう。そして店主は、一緒にいた女性リアと共にシルバーを自らの家の中へ案内した。

 大路地から外れた細く狭い道の途中にある、集合住宅。その一室に2人は暮らしていた。ボロく、すぐに崩れてしまいそうな部屋。帝国の貧困層や中間層はこういった場所に住んでいる。この2人は家があるだけマシな部類ではあるだろう。

 「すいません。散らかっていまして......。すぐに綺麗にしますから」

 「お構いなく。家というのはそういうものです」

 「そ、そうですかね。あ、リア。少しだけ手伝って。この机の上の物をさ」

 「ん。分かった。あそこでいい?」

 「うん。ありがとう」

 「おふたりはどういったご関係で?」

 「あ、そういえばまだ言ってませんでしたね。僕がルカで、向こうが妻のリアです。少し前までは、妻と一緒に冒険者をしていたんですが、ギルドが潰れちゃったじゃないですか。それで......」

 「あそこで店をしていたと」

 「はい。そうです。仕事も探したんですけど、中々見つからなくって」

 ギルドに登録していた冒険者は多い。それらが一気に仕事を失い、街へと溢れた。今の帝国で仕事に就くことはかなり難しい。街が露店だらけになるのはそれが理由だ。

 「大変だったんだなぁ」

 「えっと、それで、そちらのお名前は......」

 「あぁ、自分はシルバーというものです。今は......ゴールド商会という所に勤めていまして」

 「えっ! ゴールド商会!? そんな凄い所に!?」

 「いや、そんな......。自分は少し恵まれていただけで、別に何か凄いわけでは......」

 「いやいやそんな! 十分凄いですよ! 今日は良い話が聞けそうです!」

 「はは......」

 ルカの強い押しに、シルバーは少し押され気味であった。彼の望むような話が出来るのか。そういった期待がプレッシャーとなる。

 「力になってあげようぜ!」

 隣ではテスカトリポカが口を挟んでくる。相変わらずうるさい。言われなくともそのつもりで来てしまったし、テスカトリポカの言葉はただ単に気分を阻害してくるだけだ。

 シルバーは少しずつ、こうなったことを後悔し始めていた。

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