第4話 予感
「あ、あんまりよ! こんなのひどいわ!」
「酷くありません! 当然です!」
ヒロナの家計管理にグズるシュリィ。せっかく無限の財源を手に入れたのにも関わらず、それを自由に使えないというのは、彼女にとっては辛いことだった。しかしヒロナの言うことにも、まぁ一理あって、お金を使うということは、今持っていないものを手に入れるということである。そんなものを置く場所は、この家にはないし、ちゃんと管理出来るとも限らない。あとは、これは悪であるか定かではないが、いくらでもお金を使ってもいいというのは、心の堕落を招くだろう。これらのことをしっかりと考えているのかは分からないが、この時から家計を管理するのはヒロナの役割となった。
その後も色々とシュリィから抗議の声なども上がったが、全て無視されて終わった。
それから一夜が経つ。3人はやることもなく、ただひたすらボーッとしていた。
「必要だね......」
「何がです?」
「ソファーとか、カーペット。床で寝転がってるの痛いからさ」
「能力とやらで出せばいいじゃない」
「それもそうか」
颯はソファーとカーペットをリビングに出す。ただの小屋だったのが、より一層家になってきた。そして3人で出てきたソファーに腰掛ける。
「ふぅ。いいね。これ」
「そうですね。心地いいです」
「......」
「......」
「......なんで喋んないのよ」
「いや、とくに話すこともないからさ」
「何でもいいわよ」
「そしたらさぁ、遺跡に置いてきた財宝あるじゃん? 最近なんか嫌な予感がするんだよね。盗られてたり、荒らされてたりしないかなぁ」
「それを言いなさいよ!」
ソファに寝転がっていたシュリィは飛び起き、大声で颯に向かって話す。
「え?」
「え? じゃないわよ! 凄く大事なことじゃない! なーにが「とくに話すこともないからさ」よ! それを話しなさいよ!」
「いやいやこれは予感であって、事実とはまた違うんだよ。それに、財宝とか色々あったけど、あーいうのもまた作れるんだから、そこまで慌てなくったっていいじゃん」
「そういう予感は大抵の場合当たるのよ! 私がそうなんだからそうなの! あと作れるとかどうとかじゃなくって! 私のに誰かが手をつけるのが嫌なのぉ!」
シュリィの気か何かに触れたのか、泣きじゃくるように床を跳ねながら駄々をこねまくる。正直見ていてみっともなさすぎる。ヒロナなんか注意する気さえ失せて見ないようにしていた。
「そこまで言うなら確かめに行く?」
「行く!」
「それなら今から準備しますね」
「準備って?」
「お弁当、とか」
「ピクニックかよ......」
ヒロナは台所でサンドイッチを作り始めた。完全にその気らしい。シュリィは既に玄関で靴を履いて待っている。親を待つ子どものようだ。
「はーやーくー!」
「はいはい、もう出来ましたよ」
「速いね」
「えぇ、手短に済ませましたから。あ、そうだ。せっかくですし歩いて行きましょう? 遺跡までは近いんですし、今日はいい天気ですよ」
「えー! 急ぎましょー!」
完全にピクニック気分のヒロナと一刻でも早く自分の財宝が無事か確かめたいシュリィの間で意見が分かれた。ヒロナにとっては財宝への執着はあまりないし、シュリィにしてみれば散歩なんてのはどうでもいいのである。
2人の間で板挟みに合う颯。今回は些細なことかもしれないが、無駄に関係を崩したくはない。
「折衷案! 折衷案でいく! 日当たりの良い場所を歩きながら遺跡に向かう。それでいいでしょ?」
「良くない」
「全く分かってませんね。それならすぐ遺跡に向かった方がいいんじゃないですか」
「えぇ!?」
結果として颯は2人の機嫌を損なってしまった。こんなはずではなかったのだが......。気を取り直して、玄関の扉を開ける。行き先は遺跡の目の前。実に懐かしい場所だ。
「ここは相変わらずだね」
「まぁ人もあまり通る所じゃありませんしね」
「中に入るわよ」
3人は遺跡の中に入る。薄暗い真っ直ぐな通路があるだけだが、そこは前に来た時とは少し変わっていた。
「あー、荒らされてるね」
「ところどころ傷ついてますね。誰がこんな」
「盗賊よ! 財宝を盗みにきたんだわ!」
「これは盗賊なんかじゃ」
シュリィは颯の言葉も聞かずに、奥の方へ走り去って行ってしまった。
遺跡に侵入してきたのは盗賊などではない。もし盗賊などであれば、通路なんか傷付けずに一直線に財宝が眠っている場所を目指すはずだ。それにこのような推理や推測などせずとも、颯には奥にいる者の正体が分かっている。知らないことはないという颯の能力は、このような場所の誰にも知られない些細なことであっても例外ではない。
「盗賊じゃないんですか? だったら一体......?」
「あぁ、それはね」
「うぎゃあああ!!」
奥の方から聞こえてくるシュリィの叫び声。颯とヒロナは急いで後を追い、財宝が置かれている部屋へと向かった。
「どうしたの?」
「あ、あれ......」
シュリィが指を指した先にいたのは、何か巨大な生き物。尻尾と翼があり、手足から鋭い爪が見える。部屋の奥に縮こまっていたソイツは、シュリィの叫び声に反応して、3人の方に振り向く。
「やっぱりドラゴンだったか」
「知ってたなら言いなさいよ!」
「それを言う前にシュリィが走って行っちゃったんじゃないか!」
「ど、どうしてドラゴンが!?」
「迷い込んだんじゃないかな」
颯が迷い込んだと言った、ドラゴンは見るからに怯えていた。何かから逃げてきたのか、それとも別の理由があるのか。どちらにしろ、放って置くわけにはいかない。
「グァァ!」
ドラゴンは叫び声を上げ、次の瞬間、口から火を吐いた。この狭い遺跡の中で、その攻撃はかなり危険なものとなる。
「今までドラゴンっぽいものはたくさん見てきたけど、これもその類なのかしら!?」
「いや、これは天然もの、正真正銘本物のドラゴンだよ! だけど、少し怖がりみたいだ。間違っても攻撃とかしないでね」
「ならどうするんです?」
「少しだけ宥めてくるよ。分かってくれるはずさ」
ドラゴンは無闇矢鱈に火をあちこちに吐き続ける。その間をすり抜けるように移動しながら、颯はドラゴンの目の前に立つ。そしてドラゴンの額に手を置くと、その瞬間ドラゴンの様子が大人しくなった。
「さぁ、もといた場所へとお帰り」
「グゥゥゥ......」
ドラゴンは颯の言葉に従うように、翼を広げ遺跡から飛び立った。その姿が見えなくなるまで見守り続ける。
「こんなもんかな」
「何したわけ? それも能力ってやつかしら?」
「まぁ、そんなところだよ。あのドラゴンの心の波を穏やかにしたんだ」
ドラゴンは何かに怯え、気が荒ぶっていた。それこそ嵐の海のように。心を穏やかにすることで、怯えることも荒れることも無くなるだろう。
「それで、颯さんの仰っていた嫌な予感というのは無くなりましたか?」
「いや、まだだね。というかそもそも、あのドラゴンは予感の正体でも何でもなかったよ。それに、3つ、あるんだよね。嫌な予感は。まぁ多分、外からやってきた龍の仕業なんだろうけどさ。ひとつひとつ、確かに行くしかないかな」
颯の言葉の意味を、ヒロナとシュリィはしっかりとは理解出来ない。しかし、そうであっても、これから波乱な展開が起こることだけは分かってしまった。
幕間は一旦ここまでです。次回からは外伝が始まります。いつ頃になるかは分かりませんが、そう遠くないうちに投稿したいと考えています。




